インスペックが課徴金納付命令で取消訴訟、金商法の「偽計」について
2017/04/14   金融法務, 金融商品取引法

はじめに

インスペックは12日、金融庁が同社に対して出していた1224万円の課徴金納付命令につき、取消訴訟を東京地裁に提起していたことがわかりました。証券取引監視委員会の発表によりますと、株価を意図的に引き上げる目的で「偽計」を行ったとのこと。今回は金融商品取引法が規制する「風説の流布」と「偽計」について見ていきます。

事件の概要

証券取引監視委員会の発表によりますと、インスペック株式会社(秋田県)は電子部品の製造・販売を目的としている会社で東証マザーズに上場しております。同社は当時の東京証券取引所の規定で平成25年3月末までに時価総額が3億円以上にならなければ上場廃止となる状況となっておりました。そこで同年3月28日、同社社員に合計31株の買い注文をさせて株価を引き上げさせたとのことです。また東証の情報開示システムであるTDnetに、あたかも自然に時価総額が3億円以上になったかのように装う「当社株式の時価総額が3億円以上になったことについて」と題する文章を公表したとされております。これら一連の行為が金商法158条の「偽計」に該当するとして金融庁から1224万円の課徴金納付命令が出されました。

金商法上の規制

金商法では相場操縦(159条)、インサイダー取引(166条)と並んで「風説の流布」および「偽計」が禁止されております(157条)。一般投資家に誤解を生じさせ不測の損害を与えることを防止することが趣旨と言えます。違反した場合は10年以下の懲役、1千万円以下の罰金または併科となっております(197条1項5号)。またこれらの違反行為については課徴金納付命令の対象となっております(173条)。課徴金の額の計算は複雑なものとなっておりますが簡単に言うと、違反行為終了時の価額とその後一ヶ月間の最高値との差額が課徴金ということになります。

「風説の流布」とは

158条によりますと「有価証券」の売買その他取引のため、または「相場の変動を図る目的」で「風説を流布」し「偽計」「暴行」「脅迫」をしてはならないとしています。ここに言う「風説の流布」とは合理的な根拠のない事実を不特定多数に伝達する行為を言うとされております。架空の新規事業の公表を行ったり架空のM&Aの公表が当たります。実際の事例では海外における架空の臨床試験を公表した製薬会社に適用されております。主体は「何人も」となっていることから自社の株価を上げる目的だけでなく、自らが保有する株式を高値で売却する目的で行っても適用されることになります。

「偽計」とは

偽計とは他人に錯誤を生じさせる詐欺的ないし不公正な策略、手段を用いることを言うとされております。裁判例では錯誤を生じさせる相手方は「一般投資家」であるとされております。偽計にあたるとされた事例として、第三者割当増資で払い込まれた出資金を直ちに流出させたにもかかわらず、適法に増資がなされたように虚偽の公表を行い株価を上昇させたものがあります。特定の相手に対する詐欺的なものだけでなく、一般投資家が誤解するような手段を用いることも該当するということです。

コメント

本件でインスペックは上場廃止基準となる期限ぎりぎりになって同社社員に31株の買い注文を出させ、これにより上場廃止基準をクリアさせたとされています。しかし、このような事情を秘して、あたかも自然な需給により時価総額が3億円に達したかのような文章を発表することで、一般投資家は自然に株価が持ち直したと判断して株式取引を行い、不測の損害を被る可能性がでてきます。したがって、証券取引監視委員会の発表が事実であれば、同社の一連の行為は「偽計」に該当すると判断されたものと言えます。現在の東証の上場廃止基準によりますと、一部二部で時価総額が10億円未満、マザーズで上場後10年間は5億円未満というラインがあり、9ヶ月以内にこれを上回らない場合に基準に該当することになります。上場廃止の危機に瀕した場合、それを免れようと努力することになりますが、株価に直接影響を及ぼす行為を行った場合は本件のように金商法の規定に違反してしまう可能性が出てきます。一つ一つの行為は独立しては違反行為に該当しなくても、一連の行為として全体を見た場合、一般投資家の判断を誤らせることになる場合もあります。以上のことを踏まえて株価対策を行う際には金商法違反とならないかを慎重に検討することが重要と言えるでしょう。

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