デンソーへの追徴課税を全額取消、タックスヘイブン対策税制とは
2017/01/31   税務法務, 租税法, 税法, その他

はじめに

デンソーが名古屋国税局を相手取り、61億円の追徴課税の取消を求めていた訴訟で26日、名古屋地裁はデンソー側の主張を認め全額を取り消していました。税率が低い国に子会社等を持っている場合に適用されるタックスヘイブン対策税制。今回はその概要について見ていきます。

事件の概要

自動車部品最大手デンソー(愛知県)の発表によりますと、2012年6月22日、名古屋国税局はデンソーのシンガポール子会社がタックスヘイブン対策税制の適用除外要件を満たしていないとして追徴課税を行いました。名古屋国税局は11年3月期までの2年間で法人所得約138億円の申告漏れがあるとして約61億円を追徴課税しました。シンガポールの法人税率は17%となっております。国税局はデンソー子会社の資産の過半数は株式保有に充てられており事業実態が無い旨指摘しております。これに対しデンソー側は地域統括が主な事業であって株式保有ではない旨反論していました。なお同社では別訴で同種の争点が争われており、名古屋高裁が同子会社の主たる事業を株式保有であると判断し現在も最高裁で係争中です。

タックスヘイブン対策税制とは

タックスヘイブンとは税率が著しく低い、あるいは免除されている国や地域のことで、いわゆる租税回避地とも言います。イギリス領ケイマン諸島やバーレーン、パナマ等が挙げられます。タックスヘイブン対策税制とはこのようなタックスヘイブンを利用することによる租税回避を防止することを目的として1978年の租税特別措置法の改正により盛り込まれました。タックスヘイブンに設立した子会社等の所得を一定の要件のもとで親会社の所得として合算した上で課税を行います。節税目的で設立された事業実態の無いペーパーカンパニーが典型例と言えます。

税制適用要件

タックスヘイブン対策税制が適用される要件としては、①国内法人が直接または間接的に国外法人の株式または出資の10%以上を保有していること(66条の6第2項1号)②当該国外法人の50%以上が日本の資本によるものであること③当該国の法人税率が20%未満であることが挙げられます。この税率20%基準をトリガー税率といい平成22年改正で25%から20%に引き下げられました。これにより中国(25%)、韓国(24.2%)、マレーシア(25%)等が対象外となります。つまり税率20%未満の国で日本からの資本50%以上の会社を設立し、日本企業が10%以上株式を保有していれば適用されることになります。

適用除外要件

以上の要件を満たしていても、当該国外会社がいわゆるペーパーカンパニー等ではなく事業の実態を有している場合には適用除外となります。企業としての実態が有るかどうかは以下の適用除外基準である4つの基準を満たす必要があります。
(1)事業基準
国外会社の事業内容から見た基準です。主な事業が株式や債券の保有、工業所有権や著作権等の提供、船舶・航空機等の貸付といったものでないことが必要です。

(2)実態基準
国外会社の本店所在地において、その主たる事業を行うために必要と認められる事務所や店舗、工場といった固定施設を保有していることが必要です。

(3)管理支配基準
国外会社がその国で事業の管理、支配、運営を自ら行っていること。つまり実質的に日本国内企業の指示に従って運営されており、事業の管理支配権を日本国内企業が握っていると認められる場合は不可となります。

(4)非関連者基準
国外会社が卸売業、銀行業、信託業、証券業、保険業、水運業、航空運送業の7業種である場合はその取引の50%以上を資本関係のない非関連者との取引でなくてはならないという基準です。

コメント

上記適用除外要件のうち重要といえるものは事業基準と管理支配基準です。株式保有や債券保有といったものは当該国に別法人を設立してまで行う必要性が高いとは言えずペーパーカンパニーと判断されやすいものだからです。そして注意が必要なのが管理支配基準です。現地法人がどの程度自律的に事業の管理支配をしていれば基準を満たすかが曖昧で判断が難しいと言えます。現地の子会社である以上日本の親会社の意向に従うのはある意味当然であることから一般的に通常のビジネスにおける必要性から現地法人を設立した場合はよほど露骨な場合以外基準に引っ掛かることはないと言えます。本件でデンソーと国税局が主に争っている点は事業基準を満たすかという点です。シンガポール子会社の資産の多くは株式保有に充てられていることからペーパーカンパニーではないかとの疑いが生じているようです。東京地裁は地域統括事業が主な事業であると判断しましたが今後高裁、最高裁で覆る可能性もあると言えるでしょう。以上のように法人税率が低い海外に子会社を設立する場合は特に事業基準を満たしているか十分に注意することが重要と言えるでしょう。

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