FinTechを取り巻く法規制Ⅱ-電子マネー-
2016/08/10   金融法務, 出資法・貸金業法

はじめに

ITを武器にユーザ目線の新たな金融サービスを提供する”FinTech(フィンテック)"が日本でも大きな注目を集めている。
前回は,その中でも仮想通貨にまつわる法規制について説明したが,より人々の生活に身近で,多くの事業者が提供するFinTechサービスとしてはSuicaやEdyといった電子マネーが挙げられるだろう。
電子マネーとは電子化された決済手段のことで,利用者が保有したり,利用者にひも付いていたりするデジタルデータ自体が価値を有しており,これを交換または増減することによって決済できるものを指す。
今回は①前払い型の電子マネーで問題となる資金決済法及び②後払い型の電子マネーで問題となる割賦販売法に焦点を当てて解説する。

◆参考:FinTechを取り巻く法規制-仮想通貨-

前払い型電子マネーと資金決済法

1.概要
あらかじめ利用者が事業者に対して対価を支払うのと引き換えに発行される前払い型の電子マネーは,原則として資金決済法に基づく「前払式支払手段」として規制される。

2.前払式支払手段の定義等
(1)前払式支払手段とは(資金決済法3条1項)
●証票などに記載され,または電磁的方法により記録される金額に応じる対価を得て発行されるものであり、
●それを行使することにより、
 ・それに化体されたまたは紐付けられた財産的価値の移転により、商品・サービスの購入に際してその代価の弁済にあてられるもの
 ・または商品・サービスの給付を請求することのできるもの

(2)前払式支払手段の2類型(同法3条4項、5項)
①自家型前払式支払手段…発行者に対してのみ使用できるもの
②第三者型前払式支払手段…発行者以外の商品・サービスの提供者に対しても使用できるもの

(3)前払式支払手段の定義に該当しても,例外的に資金決済法の適用を受けない場合(同法4条)
・乗車券・入場券のように6か月よりも短い有効期間に限って使用できるもの
・国・地方公共団体その他一定の法人が発行するもの
・会社が従業員に対して発行するなど一定の関係性の中で発行するもの
・割賦販売法その他の規制で保全が図られているもの
・利用者のために商取引となる取引で使用されるもの

3.前払式支払手段発行者の届出・登録要件
(1)自家型前払式支払手段(同法5条,3条6項)
・事業者が自家型前払式支払手段のみを発行する場合には,届出や登録を行わずに発行を開始できる。ただし,発行を開始した後に,その未使用残高が基準日に基準額である1000万円を超えた場合は,最初に基準額を超えた基準日から2か月以内に財務(支)局長に対して届出を行う必要がある。
※自家型前払式支払手段は法人だけでなく,個人や法人格のない社団・財団なども発行可能

(2)第三者型前払式支払手段(同法7条,3条5項,10条1項2号,同施行令5条)
・第三者型前払式支払い手段については,あらかじめ財務(支)局長の登録を受けた者だけが発行できる。
・第三者型発行者が営利目的で第三者型前払式支払手段を発行する場合,原則として純資産額が1億円以上であることが要件とされている。
※第三者型前払式支払手段を発行できるのは法人のみ

4.行為規制
(1)法定事項の表示(同法13条)
前払式支払手段発行者が,前払式支払手段(電子マネーなど)を発行する場合,発行する前払式支払手段等に法定事項(氏名,商号または名称,支払可能金額,上限額,有効期間または期限,苦情相談に応ずる営業所または事務所の所在地及び連絡先)を表示しなければならない。

(2)発行保証金の供託(同法14条)(15条、16条も参照。)
前払式支払手段発行者は,基準日における未使用残高が1000万円を超えるときは,その未使用残高の2分の1以上の額に相当する発行保証金を供託しなければならない。

(3)払い戻しの禁止(同法20条,同法20条2項,前払式支払手段に関する内閣府令42条)
業務廃止の場合などを除き,前払式支払手段発行者が前払式支払手段の保有者に払い戻しをすることは原則として禁止されている。

(4)体制整備義務
●前払式支払手段発行者は,以下の措置を講じなければならない。
 ・情報の安全管理措置(同法21条)
 ・加盟店などが提供する商品やサービスが公の秩序または善良の風俗を害するおそれがないことを確保するために必要な措置(同法10条1項3号)
●また,前払式支払手段発行者は,以下の体制を整備しなければならない。
 ・加盟店に対して支払いを適切に行うために必要な体制(同法10条1項4号)
 ・法令順守体制(同法10条1項5号)

(5)帳簿書類作成義務等(同法22~23条,前払式支払手段に関する内閣府令46~49条)
前払式支払手段発行者は以下の義務を負う。
・帳簿書類を作成・保存する
・基準日ごとに前払式支払手段の発行業務に関する報告書を作成し,財務(支)局長へ提出する

5.監督(同法24~27条)
財務(支)局長は,前払式支払手段発行者に対して報告徴求・立ち入り検査,業務改善命令,業務停止命令,登録取消を行う権限を有している。

後払い型電子マネーと割賦販売法等

1.概要
後払い型の電子マネーは,事業者が利用者に対して与信(信用供与)を行う仕組みであり,与信期間が一定期間以上にわたるものは「包括信用購入あっせん業」として割賦販売法に基づいて規制される。

2.信用購入あっせんの定義
(1)信用購入あっせんの2類型
①包括信用購入あっせん(割賦販売法2条3項)。
●特定の販売業者やサービス提供事業者から,有償で商品・サービスの提供を受けることができるカードなどが交付され,
●そのカードなどを提示し,または通知して,またはそれと引き換えに,商品・サービスの提供が行われたときは,
 ・事業者から販売業者やサービス提供事業者に,商品代金やサービスの対価に相当する額が交付されるとともに,
 ・利用者からあらかじめ定められた時期までに代金または対価に相当する額が支払われるもの
②個別信用購入あっせん(同法2条3項)。
●カードなどを利用することなく,
●商品の販売やサービスの提供を条件として,事業者から販売業者やサービス提供事業者に,
 ・商品代金やサービスの対価に相当する額が交付されるとともに,
 ・利用者からあらかじめ定められた時期までに代金または対価に相当する額が支払われるもの

(2)信用購入あっせんは,マンスリークリアを規制の対象外としている。
☞ここでいうマンスリークリアとは,利用者が販売業者やサービス提供事業者との間で商品やサービスの提供を受ける契約を締結してから2か月を超えない範囲内で,与信を行った事業者と利用者との清算が完了するもののこと。

3.信用購入あっせん業者の登録要件
(1)信用購入あっせん業者登録簿(経済産業局)にあらかじめ登録すること(同法31条,35条の3の23)。
(2)法人であること(同法33条の2第1項1号,35条の3の26第1項1号)。
(3)次の財産的要件を満たすこと
●包括信用購入あっせん事業者
 ・資本金または出資の最低額:2000万円(同法33条の2第1項2号,同施行令5条2項)
 ・総資産額:資本金または出資額の90%以上(同法33条の2第1項3号)
●個別信用購入あっせん事業者
 ・最低純資産額:5000万円(同法35条の3の26第1項2号,同施行令26条2項)

4.行為規制
(1)調査・書面交付義務等(同法30条~30条の5の2,35条の3の2~35条の3の20)
ア.信用購入あっせん事業者は以下の義務を負う。
・利用者に対して取引条件(支払期間と回数,手数料の料率など)を明示する
・包括支払可能見込額を調査し,その見込額を超える場合にはカードの交付などを禁止する
・契約締結時や支払請求時に書面を交付する
イ.信用購入あっせん事業者に対しては,情報の適正な取り扱いに加えて,第三者に委託する場合の業務の的確な遂行,利用者からの苦情を適正かつ迅速に処理するために必要な措置を講じることなどが義務付けられている。

(2)営業保証金の供託(同法35条の3,16~18条)
登録済み包括信用購入あっせん業者は,主たる営業所につき10万円,その他の営業所につき5万円の営業保証金を,営業を開始する際と営業所を増設する際に供託しなければならない。

(3)クレジットカード番号等の適切な管理(同法35条の16)
立替払取次事業者(加盟店契約会社や決済代行サービス事業者)は,クレジットカード番号などについて適切に管理する必要がある。

(4)犯罪収益移転防止法上の規制
クレジットカードを発行する包括信用購入あっせん業者は,犯罪収益移転防止法上の特定事業者として指定されている。
→取引時確認業務,確認記録および取引記録の作成・保存義務,疑わしい取引の当局への届出義務,体制整備義務が課せられる。

5.監督(割賦販売法33条の5,34条,34条の2,35条の3の31~32条)
経済産業局長は信用購入あっせん業者に対して,改善命令,カードの交付などの禁止,登録の取消を行なう権限を有している。

おわりに

多くの事業者が取り扱い,近年多様化している電子マネーに関する法規制は,目まぐるしく動いている。
資金決済法の改正法は今年の5月に成立したばかりである上,割賦販売法についても早ければ今年度中にも見直される予定である。
今回の記事を踏まえた上で,変化する法規制に機動的に対応してほしい。

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