首都高炎上の運送会社に32億円の賠償命令、使用者責任について
2016/07/19   危機管理, 民法・商法

はじめに

2008年に首都高速でタンクローリーが炎上した事故をめぐり、首都高速道路会社が損害賠償を求めていた訴訟で東京地裁は14日、運送会社と運転手に約32億8900万円の支払を命じました。一方で運送委託をした出光興産に対しての請求は棄却しました。今回は不法行為に基づく損害賠償請求と使用者責任について見ていきます。

事件の概要

2008年8月3日早朝、群馬県高崎市の運送会社多胡運輸所有のタンクローリーが首都高速熊野町ジャンクション内のカーブで速度超過により曲がりきれず横転・炎上しました。タンクローリーには約16キロリットルのガソリンと4キロリットルの軽油を積載し、埼玉県内のガソリンスタンドに向けて輸送していました。積み荷の燃料は約5時間半に渡って炎上し2階建構造の上層部分の路面を熱で変形させました。道路は長さ40m、深さ最大60cm沈下し北池袋から板橋JCTまでが上下線とも通行止めとなりました。8月9日には片側1車線通行で仮復旧したものの全面復旧までには約2ヶ月半を要しました。首都高速道路会社は多胡運輸と運転手および輸送を発注した出光興産に復旧工事費と逸失利益分で約45億円の賠償を求め東京地裁に提訴していました。

不法行為による損害賠償責任の要件

故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負います(民法709条)。その趣旨は損害を補填することによる被害者の保護と損害の公平な分担を図る点にあります。以下要件について見ていきます。
(1)故意・過失
「故意」とは、自己の行為により権利侵害が発生することを認識・認容している心理状態を言います。「過失」とは結果発生の予見可能性があるのに、これを回避する行為義務を怠ったことをいいます(東京地判昭53年8月3日)。その判断基準はその者の職業や身分から通常求められる注意義務に反していないかで判断されることになります。

(2)権利・利益の侵害
他人の権利または法律上保護される利益を侵害するとは、すなわち行為が違法であることを意味していると言われております。民法上違法と言えるためには侵害された利益と行為態様の相関関係によって決まるとされております。利益が生命や身体といった重大なものであれば行為態様が軽微であったとしても違法性が肯定されるといういことです。

(3)損害の発生
不法行為における損害とは一般的に不法行為があった場合と無かった場合との利益状態の差を金銭で評価したものといわれております(差額説)。たとえば怪我をして病院に行った場合の治療費と仕事ができず得られなかった収入分が損害ということになります。判例も基本的にこの差額説を取っていると言われておりますが、怪我自体を損害と捉え、損害額は個別に算定するという立場(損害事実説)にも理解を示す例もあります(最判昭56年12月22日)。

(4)因果関係
416条は債務不履行に関して、賠償の範囲を原則通常生ずべき損害に限定し、予見可能性のない損害を含まないとしています。つまり債務不履行と相当因果関係に立つ損害に限定しているということです。判例は不法行為においても416条を類推適用し損害とは相当因果関係の範囲内としています。

使用者責任について

715条によりますと、他人を使用する者は、被用者が事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負うとしています。使用者に代って事業を監督する者も同様としています(2項)。要件は①他人を使用していること②被用者が業務の執行について第三者に損害を与えたこと③上記不法行為の要件を満たすことが挙げられます。「他人を使用」とは実質的な指揮監督関係があればよく、雇用形態等を問いません。「業務の執行について」とは、「業務の執行のために」より広く、「業務の執行に際して」よりは狭い概念と言われております。例えば、配達途中で窃盗を働いた場合には使用者責任は生じません。

コメント

本件でタンクローリーの運転手は約20キロ~30キロの速度オーバーをしていたと言われております。それにより首都高でのカーブを曲がりきれずに横転しました。ガソリンという危険物を常時運搬する輸送業者としては、20t近い積載で速度超過をすれば事故につながることは予見することができたと言えます。それにもかかわらず回避義務を怠ったことにより横転炎上に至ったことについては、過失は否定できないでしょう。損害との因果関係も認められますので、不法行為の要件は満たすことになります。そして運転手は多胡運輸に雇用され、指揮監督の下に業務についていたと言えるので「他人を使用」していたと言えます。そして輸送業務中に事故を起こしたことから「業務の執行について」損害を与えたと言え、多胡運輸には使用者責任が認められたと言えるでしょう。一方で多胡運輸は出光興産にとっては下請業者と言えますが、判決では使用者責任を否定しました。個別の配送業務については出光が運転手に対して指揮監督する地位にあったとは言えないとしています。このように使用者責任が生じるための重要なポイントは不法行為者との間に指揮監督関係が認められるかだと言えます。事故を起こした場合、重大な損害を生じさせる危険のある下請業者を使用している場合には自社が指揮監督権を持っているかを確認し、持っている場合には事故防止を徹底させることが重要と言えるでしょう。

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