みずほ証券に賠償命令、認知症患者への勧誘リスク
2016/06/21 金融法務, 特定商取引法, 金融商品取引法, 金融・証券・保険

はじめに
認知症の女性(85)が複雑な金融商品を購入させられ多額の損失を被ったとして、みずほ証券に対し損害の賠償を求めていた訴訟で17日、東京地裁は約3000万円の賠償を命じました。今回は高齢者への勧誘に伴うリスクについて見ていきたいと思います。
事件の概要
本件女性は2006年頃から認知症を患いヘルパーによる介護を受けながら一人暮らしをしていました。2008年みずほ銀行から紹介を受けたみずほ証券の担当者に勧められ約7100万円分の仕組債を購入しました。仕組債とは通常の債権にスワップやオプションといったデリバティブ(金融派生商品)を組み合わせた債権であり、投資家や債権発行者のニーズに合わせて利息の償還方法等を決められる自由度の高い金融商品です。それ故に仕組みが複雑で理解しづらくまたリターンの割にハイリスクと言われております。リーマン・ショックの影響を受け女性は約4300万円の損失を出し、みずほ証券等に損害の賠償を求める訴訟を提起しておりました。
金商法上の義務
本件のように金融商品を販売するにあたっては金商法上、説明義務と適合性原則が適用されます。適合性原則とはその商品が投資家に合ったものであるかを適切に判断して勧めなければならないという原則をいいます(40条)。その判断にあたっては①投資家のマーケット等に対する知識②これまでの投資経験③投資家の資産状況④どのような投資を望んでいるのかといった投資目的等を総合的に考慮することになります。金融業者は顧客に対し誠実義務を負っており(36条)商品の仕組み、リスク等を十分に説明し理解させる義務を負っております(37条の3)。違反した場合には業務改善命令・業務停止命令(51条、52条等)等を受ける可能性もあります。
特定商取引法上の義務
金融商品に限らず商品販売の勧誘を行う際には特定商取引法上の義務にも注意が必要です。高齢者に勧誘する場合に問題となり得るのが不実告知と判断力不足便乗が挙げられます。販売業者は顧客に対し商品の種類や性能、性質、商品の価格、支払い時期、支払方法等に関して不実の内容を告げることが禁止されており(6条)、また説明した事項を裏付ける合理的な根拠を示す義務があります(6条の2)。不実告知があった場合相手方は契約を取り消すことができます(9条の3)。また認知症等の高齢者を勧誘する際に、その判断能力不足に乗じて契約を締結することは禁止されております(7条4号、施行規則7条2号)。これらの規定に違反した場合には業務停止命令をうける可能性があり(8条1項)、業務停止命令を受けた旨と業者名が公表されることがあります(8条2項)。
本件判決要旨
本件で東京地裁青木裁判長は、今回の商品はリスクが大きく仕組みが難解で高度な判断能力が要求されるのに、認知症を患う原告に勧誘したことは取引の原則を著しく逸脱した違法なものであるとして約3000万円の賠償を認めました。
コメント
数ある金融商品の中でも仕組債は、その仕組、構造、利息・利益の発生方法、償還方法等が相当複雑でリスクの予測が難しく健常な判断力を有する投資家でも慎重な判断を要します。一方で販売する証券会社にとっては仕組債は利益が大きく販売に力を入れている商品でもあります。また金融商品の販売はある程度まとまった資産を持つ高齢者を勧誘することが多く、このような背景からも本件のようなトラブルは増加の一途を辿っています。本件判決は高齢者、特に認知症等を患い判断能力が低下した人に対する高リスク商品販売に一定の歯止めをかけるものになると思われます。判断能力が低下した高齢者との契約では上記金商法や特定商取引法による規制によって契約が無効または取り消される可能性がありますし、また重度の認知症を患っていたような場合には意思表示自体が無効となることも考えられます。みずほ証券は今回3000万円余りの賠償責任を負うことになりましたが、こういった高齢者への勧誘を続けた場合、業務停止命令等に発展することも十分あり得ます。高齢者の顧客に商品を勧める場合には、その商品が、顧客の知識・経験・資産状況・意向に照らしたときに、適切かどうかを慎重に判断して十分に説明することが重要と言えるでしょう。
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