日本ラクロス協会元事務局長の横領解雇にみる「懲戒解雇要件」
2016/05/09   労務法務, 労働法全般, その他

はじめに

5月5日、ラクロスの統括団体「日本ラクロス協会」は、同協会の事務局長であった男性が協会の運営費約1千万円を横領したことを理由に懲戒解雇を行ったと発表しました。企業にとって、懲戒解雇は、労務紛争を引き起こしかねない、リスクの高い処分です。どのような場合に従業員を懲戒解雇できるのか、その要件を見ていきたいと思います。

懲戒解雇とは

解雇は大きく分けて普通解雇、整理解雇、懲戒解雇の3種類があります。普通解雇とは懲戒事由以外の能力不足等を理由とする解雇を言います。整理解雇は以前にも取り上げましたが、従業員ではなく会社側の経営上の理由による解雇です。そして今回取り上げます懲戒解雇は従業員の企業秩序に違反する行為に対する懲戒処分としての解雇を言います。懲戒処分には軽い順に訓戒、戒告・譴責、減給、停職、諭旨解雇がありますが、最も重い処分が懲戒解雇です。退職金の一部または全部が支払われず、離職票にも懲戒解雇である旨が記載され、再就職が相当困難となる従業員にとって極めて不利益な処分です。それ故に懲戒解雇の要件は厳格なものとなっております。

懲戒解雇の要件

 懲戒解雇が認められるための要件は①懲戒事由が就業規則に定められていること②従業員が懲戒事由に該当する行為を行ったこと③法定の解雇手続きを履践したこと④その他、解雇が相当であること、が挙げられます。以下具体的に見ていきます。
(1)就業規則による定め
 労働基準法89条によりますと、常時10人以上の従業員を使用する使用者は、就業規則を定めて所轄の労働基準監督署に届出る必要があります。その就業規則にはどのような場合に懲戒処分となるのかを明示しなければなりません。懲戒解雇となる事由は企業秩序を乱す悪質かつ重大なであることを要します。具体的には会社の金銭等を横領する行為、機密情報漏洩行為、故意または重大な過失により会社に重大な損害を及ぼす行為、経歴詐称等が挙げられます。従業員が重大な問題行為を行ったとしても、就業規則に規定されていなければ懲戒解雇はできません。

(2)懲戒事由該当性
 就業規則の規定された懲戒事由に実際に該当する必要があります。横領や機密漏洩が該当することは問題ないでしょう。一方で私生活上の犯罪行為、経歴詐称、無断欠勤等は懲戒解雇事由に該当するかが問題となります。住居侵入で罰金刑を受けた従業員の懲戒事由該当性が問題となった裁判で、最高裁は会社の業務とは無関係であること、罪状が軽微であること、当該従業員の地位も現場作業員であり指導的な立場にないことから否定しています。また同僚から嫌がらせを受けているとの妄想から精神疾患を患い無断欠勤を繰り返していた事例では、精神科への受診等をすすめるなどの措置を講ずること無く直ちに解雇とすることは不当であるとしました。また経歴詐称事例でも判断は分かれております。過去の犯罪歴を秘匿していた事例では、面接の際に問われなかったとして懲戒事由に該当しないとし、募集の採用条件に高卒以下となっていたところ大学中退の事実を隠していた事例では、当時発覚していれば採用していなかったであろうとして解雇を有効としました。このように判断の困難な解雇事由も多く存在します。

(3)解雇手続きの履践
 労働基準法20条によりますと、本来解雇するためには30日以上前に予告をするか、30日以上分の賃金を支払う必要があります。しかし労働者の責めに帰すべき事由によって解雇する場合には労働基準監督署の認定を受けることによって、それらを行うこと無く即日解雇することができます(20条1項ただし書き)。これを解雇予告除外認定といいます。どのような場合に認定が受けられるかは就業規則の懲戒事由ではなく、労基法の解釈例規の基準によります。具体的には、極めて軽微なものを除く窃盗、横領等の刑法犯、賭博行為等の風紀違反、採用条件の要素となるほどの経歴詐称、2週間以上の無断欠勤等が挙げられます。この認定を受けられない場合は、本来の手続きである解雇予告か30日分の賃金支払いを行った上で解雇することになります。

(4)解雇の相当性
 上記以外にも、その解雇が懲戒事由に比して不相当に過重ではないこと、また他の従業者の事例と比して不平等は無いこと等が求められます。解雇処分とするまでに本人に改善の機械を与えたり、より軽い処分や配転、降格等の対応を検討することが必要な場合もあると言えます。社会的相当性を欠く場合には解雇権の濫用として解雇が無効と判断される場合もあり得ます(16条)。

コメント

 懲戒解雇を行う上で最も重要な点が懲戒解雇事由に該当するかということです。懲戒解雇事由に該当するためには、上記のとおり予め就業規則に規定しておく必要がありますが何でも網羅的に書いておけば良いというものではなく、あくまで合理的でなくてはならず一定のルールが存在します。懲戒処分は従業員に重大な不利益を与えるものであることから、刑事法に近い扱いを受けます。その内容は明確でわかりやすく、どのような場合に該当するか予測が立つものである必要があり、ひとつの懲戒事由で重ねて処分してはならず、規定される前の事由で遡って処分してはならない、他の従業員に連座制で責任を負わせてはならないといったものがあります。懲戒解雇は従業員にとって極めて大きな不利益を受けるものです。また会社にとっても従業員から解雇無効の訴えを起こされた場合、相当の時間的、金銭的負担を負うことになります。就業規則の策定から解雇に至るまで、慎重な運用が必要と言えるのではないでしょうか。

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