ヤフー課税訴訟に見る企業再編と法人税
2016/03/03 戦略法務, 税務法務, 租税法, 税法, IT

はじめに
企業再編を利用した法人税の租税回避行為があったとして、国税局から約180億円の追徴課税をされていたヤフーが課税処分の取り消しを求めていた訴訟で、2月29日最高裁第一小法廷はヤフーの上告を棄却し、ヤフー敗訴の一審二審が確定しました。今回は企業の組織再編行為に関する法人税の租税回避について見ていきたいと思います。
事件の概要
ヤフーは2009年に親会社であるソフトバンクからソフトバンクIDCソシューションズ(IDCS社)を買収し、その後合併しました。その際、IDCS社の約540億円の赤字をヤフー社が引き継ぎ、同社の所得を相殺することによって法人税を軽減させていました。ヤフーは経営参画要件を満たすためにヤフー社長がIDCS社副社長を兼任しましたが国税局はこの人事が租税回避目的だったとして赤字の引き継ぎを認めず、約180億円の追徴課税をしていました。ヤフーはこれを不服として取り消しを求めていましたが、一審二審は棄却しました。
企業再編と法人税
法人税法によりますと、法人税は益金から損金を控除して所得を算出し、それに税率を乗じることによって法人税を算定することになっております。組織再編税制では企業グループ内や共同事業目的の合併では損金を合併後に引き継ぐことが認められております。ただしグループ化から5年以内の合併の場合、租税回避を防止するため、「みなし共同事業要件」を満たす必要があります。みなし共同事業要件には、①事業内容が相互に関連するものであること、②事業の規模がそれぞれ5倍を超えないこと、③被合併事業が合併後も運営されること、④被合併会社の特定役員が合併後の役員となること、が挙げられます。
租税回避の否認
法人税法132条の2は、合併等組織再編に際して、法人の行為・計算を認めると法人税の負担を不当に減少させることになる場合には税務署長は当該行為・計算を否認することができる旨規定しています。いわゆる租税回避行為の否認です。ではここに言う租税回避行為とはどういう場合を言うのか。これについては法人税法では明確な基準は示されておりません。違法な租税回避なのか適法な節税行為なのかは解釈に委ねられていたというわけです。本件最高裁判決はこの点について初めて基準を示したものといえます。
判旨
最高裁は判決理由で「通常は想定されない方法や、実態とかけ離れた形の再編であるなど、不自然なものか、合理的な理由があるかなどを考慮して判断すべき」として、租税回避の基準を示しました。組織再編行為が、まず不自然でないか、不自然であったとしても何らかの合理的な理由があるかを考慮要素として判断するということです。
コメント
本件でヤフーは巨額の赤字を抱えていたIDCS社を合併し、繰越欠損金として計上し所得を減額しようとしましたが、そこにいたる経緯には様々な不自然な行為があったということです。ソフトバンクの営業部門を法人化したIDCS社はヤフーに比べて極めて規模の小さい会社でした。それゆえ共同事業目的合併が認められないことから、株式を100%買受けグループ化しました。また、IDCS社の役員が合併後ヤフーの役員に就任しなくてはならないという、みなし共同事業要件を満たすために、合併前にヤフー社長が無報酬でIDCS社の副社長に就任していました。形式的には確かに組織再編税制上の赤字を引き継ぐ要件は満たすように見えます。しかしヤフーにとってIDCS社はそこまでして合併する合理的理由は見られず、巨額の赤字を引き継ぐことが主たる目的、あるいはそれのみが目的と判断されたと言えるでしょう。本判決により、ヤフー及びソフトバンクグループは巨額の脱税を行ったということが確定することになります。組織再編の際には、税法上の制度にも注意が必要と言えるでしょう。
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