米apple社と島野製作所の訴訟から見る国際裁判管轄
2016/02/18 訴訟対応, 民事訴訟法, メーカー

はじめに
米apple社に対し、部品下請けの島野製作所が約100億円の賠償を求めていた訴訟で、2月15日東京地裁は、両者間の米国裁判所での管轄合意は無効との中間判決を言い渡しました。海外企業との紛争が生じた場合、日本の裁判所で訴訟ができるのか、いわゆる国際裁判管轄について見ていきたいと思います。
事件の概要
島野製作所は10年ほど前からapple社に対し、ノートパソコン等に使用するアダプタのポゴピンという部品を供給してきました。しかしapple社は2012年から島野制作所が開発したポゴピンをアジアの企業に作らせ供給させはじめました。また島野製作所に対し、増産を指示しておきながら、設備投資が終わった段階で一転、供給量を減らすよう指示し、納品分についても価格を減額させ返金を求めました。島野製作所は一旦は応じたものの昨年8月、東京地裁に特許権侵害と独占禁止法違反でapple社を訴えました。apple社は「紛争は米国裁判所で解決する」との両者間の合意があるとして、本件訴えは無効であると主張していました。
国際裁判管轄
国際的な民事紛争が生じた場合、いずれの国の裁判所で裁判を行うかというのが国際裁判管轄の問題です。現在のところ、この問題に関して、明確な基準となる国際的なルール、システムはいまだ存在しておらず、訴訟が提起された裁判所が自国の法や判例に従って、個別に判断しているのが実情です。
判断基準
では日本においてはどのように判断されているかを見てみますと、判例(マレーシア航空事件)は次のように述べています。①国際事件の管轄権の有無は当事者間の公平や裁判の適正・迅速の理念により条理に従って判断すべき。②我が国の民事訴訟法の規定する裁判籍のいずれかが日本にあれば我が国裁判所に国際裁判管轄を認めるのが条理に敵う。つまりあくまでも民事訴訟法に則って、被告の住所地、義務履行地、不法行為地等があれば日本に管轄を認めているということです。一方最判平成9年11月11日では日本に管轄があっても、当事者間の公平や裁判の適正・迅速の理念に反する場合は管轄を否定すべきとしています。
管轄合意がある場合
では本件のように、両当事者間に予め管轄合意があった場合はどうか。この点について判例は、特定の外国裁判所を管轄裁判所とする合意は、専ら日本の裁判所の裁判管轄に属さず、かつ当該外国裁判所に管轄があるときは有効であるとしています。つまり法令上専属管轄とされておらず、当該国に管轄が無いといった事情がない限り有効ということです。
コメント
日本の裁判所の判断基準に従うと、今回の事件でも当事者間の管轄合意が認められて、米国裁判所に管轄が認められそうにも見えます。しかし東京地裁は、本件合意を無効と判断しました。apple社と島野製作所が締結した合意内容は「あらゆる紛争は米カリフォルニア州裁判所で解決する」というもので、合意は一定の法律関係に基づく訴えに関するものでなくてはならないものであるところ、本件合意は範囲が広すぎて無効であるというわけです。また日本の独占禁止法が問題となっているのに米国裁判所で審理することは不合理であるとの考えもあると思われます。民事訴訟法の規定と当事者間の合意を原則尊重するが、公平や公正の理念に反し不合理である場合には例外的に無効とする日本の裁判所の考え方が示されたものと言えるでしょう。海外の巨大企業から、一方的に不利な管轄合意を飲まされてしまっている日本の中小企業にとっては、一筋の光明と言える判決かもしれません。
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