五輪エンブレム問題から考える知的財産権保護
2015/12/28   知財・ライセンス, 商標関連, 著作権法, 商標法, その他

1 事件の概要

 この夏、2020年東京五輪・パラリンピックのエンブレム問題が、話題となった。7月に東京五輪組織委員会が発表したエンブレムのデザインが、ベルギーの国立リエージュ劇場のロゴに酷似していたためだ。

2 法的問題点

(1)著作権侵害の有無
 著作権とは、音楽・文章などの表現形式によって自らの思想・感情を創作的に表現した著作物を独占的に利用する権利である。
 著作権侵害が認められるためには、既に存在する他人の著作物を利用して作品を作出したこと(依拠性)と、比較対象となる両者のデザインが類似していると判断されること(類似性)が必要である。
 裁判では、依拠性と類似性の2つの要件を権利を侵害されたと主張するものに立証責任がある。
 本件においては、五輪エンブレムがベルギーの劇場ロゴに依拠したという事実を証明することは難しいであろう、とするのが多くの専門家の意見である。
 また、五輪エンブレムは、モノトーンであるベルギーのロゴとは色彩が全く異なり、右上にある赤丸は五輪エンブレムにしか存在せず、さらに、中心の縦線と左上・右下から伸びる線との接触の有無でも、両者には違いがあるため、2つの作品には差異があり、類似性は否定されると考えられる。

(2)商標権侵害の有無
 商標権は、商標を使用する者の業務上の信用を維持し、需要者の利益を保護するため、商標法に基づいて設定されるものである。
 特許庁に商標登録出願をし、審査を経て登録査定となった後、登録料を納付すると、商標登録原簿に設定の登録がなされ、商標権が発生する。
 商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する(専用権、商標法第25条)。さらに、他人によるその類似範囲の使用を排除することができる(禁止権、商標法第37条)。
 そこで、商標権者は、権利を侵害する者に対して、侵害行為の差し止め、損害賠償等を請求できる。
 商標権の効力は、日本全国に及ぶ。外国には及ばないため、外国で事業を行う場合は、その国での権利を取得することが必要になる。
 本件においては、ベルギーの劇場ロゴはそもそも商標登録がされていなかったため、商標権侵害は認められない。仮に商標登録されていたとしても、五輪エンブレムは文字とセットで使われており、また両者の図柄は右上の赤丸の有無などの違いがあるため、2つが誤認混同される恐れはなく、商標権侵害は認められないと考えられる。

3 問題を回避するには

 法律的に問題は無いとしても、倫理的な問題を含め、人の納得を得られるかどうかはまた別の問題である。
 無用な紛争を回避するためにも、様々な観点から努力を尽くすことが求められる。
 世界各国で商標を登録しようとする際は、まず世界各国の商標を調査し、採用したデザインと類似した商標がないかをチェックする作業が不可欠だ。
 また、世界各国において、デザインに何らかの文化的な問題がないかどうかを確認することも必要だ。日本人の感覚では一見何でもなさそうな名前やデザインが、現地で大きな問題を生む場合もある。中国で発売した薬品の名が中国語で「墓場」だった、食品の名が「排泄物」に相当した、等々の実例もある。
 類似するデザインの作成者に対する敬意やその心情への配慮も必要だろう。

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