TPP 著作権への影響は?
2015/07/27   知財・ライセンス, 著作権法, その他

概説

 環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉において、米国は日本に対し、著作権侵害の非親告罪化・保護期間の延長・法定賠償の導入などを求めている。米国の要求を受け入れるとどうなるのか。日本の著作権保護制度と米国が要求する内容を紹介し、その要求を受け入れた場合の影響について説明したい。

非親告罪化

 日本の著作権法は、著作権侵害に対する刑事手続きを親告罪としている。すなわち、著作物の無断使用があった場合に、検察が無断使用者を起訴するには著作権者の告訴が必要となる。今回の米国の要求は、著作者の告訴がなくても、検察が自由に起訴できるというものである。
 これまでは、著作者が黙認していた場合や気付いていなかった場合は摘発を免れていたが、米国の要求に従い非親告罪化されると、著作者から許可を得ていない場合は摘発される可能性が出てくる。

保護期間

 日本の著作権の保護期間は、原則として著作者の死後50年間とされているが、今回の米国の要求は期間を70年間に延長するというものである。

法定賠償

 著作権法114条は、著作権侵害による損害額の推定について規定している。例えば、侵害行為を行った者が得た利益の額は著作権者等が受けた損害の額と推定される。114条の規定は、損害賠償額の立証は困難であることが多いため、損害額の立証を容易にさせる目的である。
 これに対して、米国の要求している法定賠償とは、被った損害に応じて賠償額を算定するのではなく、法律に定められた範囲内で賠償額を決めるとするものである。米国の著作権法規は、1著作物当たり750~30,000ドルの範囲内(故意がある場合には150,000ドルを超えない額が上限となる)で裁量により決定できるとされている。この規定は、日本と同じく損害額の立証を容易にさせる目的があるが、それだけではなく、侵害行為の抑止が期待され、萎縮的効果を狙っている。
 (注:米国においては、原告が実損害の賠償請求よりも法定賠償の請求の方が有利であると判断した場合には、法定賠償の支払いを選択できる。また、日本と異なり侵害の故意・過失がなくても損害賠償請求は可能である。)

コメント

 日本のお隣韓国では、米韓FTA(米韓自由貿易協定)の影響から、保護期間を70年に延長・法定賠償などの米国の要求を受け入れ、2011年に著作権法の大幅な改正案が可決された。韓国の著作権法改正後、同国における著作権関連の大きなニュースはまだ飛び込んできていない。しかし、日本も韓国と同じく、米国の要求を受け入れるだろうとの見方が強く、一足先に米国の要求を受け入れた韓国の動向を参考にしていくことは有用であろう。
 著作権侵害に法定賠償の制度が取り入れられた場合には、実損害以上の額の損害賠償金支払いを命じられる可能性もある。実際に、アメリカではそのような事態が起こっている。企業の法務担当者は、日本の著作権法が米国の要求に従い改正される可能性も視野に入れ、自社の活動が著作権を侵害していないかなど、この機会に改めて著作権に対する意識を従業員に徹底させる必要があるといえよう。

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