行政不服審査法、制定後53年目にして初の抜本的改正へ
2014/02/20   行政対応, 民事訴訟法, その他

事案の概要

 制定以来52年間にもわたって抜本的な法改正がされてこなかった行政不服審査法(昭和37年法律第160号)について、同法では初となる抜本的な改正に向けて総務省が動いている。
 改正の目的は1.公正性の向上、2.制度の利便性の向上、3.国民の権利利益の救済の充実(行政手続法の改正)である。
 以下、現時点での同法改正の方針について概観する。

1.公正性の向上

 現行法では審査請求をする場合は審査庁に対して申立てをすることとなっているが(行政不服審査法3条2項)、処分庁の部署の職員が審理に加わることも実際にあるなどの公平性の問題が指摘されている。
 そこで改正案は、処分関係者を除斥し、職員のうち処分に関与しない者を審理員として申立人と処分庁の主張を公正に審理することで公正性を強化することとしている。
 この他にも、審査請求に対する裁決に際して有識者からなる第三者機関に審査庁の判断の妥当性を担保させる諮問機関制度も改正案に盛り込まれている。

2.制度の利便性の向上

 ここでの内容を簡潔にいえば、①不服申立期間が3ヶ月に延長される、②不服申立手続を審査請求のみに統一する、③不服申立前置の見直し、である。

 まず①不服申立期間の延長について、現行法では不服申立期間は原則として「処分があったことを知った日の翌日から起算して60日以内」とされている(同法14条1項本文)。しかし、これが「処分があったことを知った日から3ヶ月」に延長される。
 これは不服申立期間を延長することで被処分者に不服申立の便宜を図るとともに、行政行為の効果の早期安定という要請に配慮したものと考えられる。

 次に②審査請求への一元化について、現行法では不服申立手続として基本的に「異議申立て」と「審査請求」の2通りがある(行政不服審査法3条)。この「異議申立て」については不服申立の手続内で被処分者が処分庁からの説明を受ける機会が保証されていない。これは行政不服審査法48条によって同法22条および23条の準用が排除されているためであり、審査請求手続との間に格差が生じている。
 手続を審査請求に一元化することでこうした差を是正できるとの考えである。

 そして③不服申立前置の見直しについて、現行法では不服申立手続による裁決を経ないかぎり取消訴訟を提起できないとする行政法規が大多数を占めるため、行政事件訴訟法8条1項ただし書により被処分者が直ちに取消訴訟を提起できず、権利利益の救済の障害となっている面もある。
 そこで、不服申立てがある行政法規に限定し、直ちに取消訴訟を提起する途を開く方針を定める見込みである。

3.国民の権利利益の救済の充実(行政手続法の改正)

 以上の改正案は行政不服審査法(昭和37年法律第160号)本体についてのものである。同法の目的は国民の権利利益の救済にあり(同法1条)、これと軌を一にする制度として、処分庁に対して法令違反の事実を是正するための処分を求める制度を行政手続法(平成5年法律第88号)の中に新設する方向も明らかとなっている。国民の権利利益の救済を充実させるためである。
 このような新制度は実質的にみて直接型義務付けや差止めの請求といえるが、これらの請求内容は行政処分に至る前段階でのプロセスに干渉するという位置付けとなる。かかる行政処分に至る前のプロセスについては本来的に行政手続法が規律しており、行政処分後の手続を定めた行政不服審査法に新制度のルールをおくことは不適切であるとして、行政手続法にルールを置く方向にしたものと考えられる。
 
 また、不適法な行政指導に対する中止の申出を認める手続を行政手続法に新たに規定することも本件の改正案では目指されている。

コメント

 行政不服審査法は行政処分に不服があるときに簡易な救済を求めるための手続として定着しているが、このメジャーな手続を改正する方向で総務省が動いているため今後の手続の利用にあたっては改正ポイントの確認が必要である。

 この改正案では行政の行為に対する広い意味での不服についての利便性を向上させるための制度改正を目指すものといえる。そのため行政不服審査法をピンポイントで改正するのではなく、行政手続法において行政に対する不服を是正するよう求める制度も新設されるため、行政手続法の改正にも注意が必要である。

 もっとも、上述のように不服申立期間は延長されて国民による利用を拡充したものといえるが、不服申立適格については何ら変更が加えられていないため、主婦連ジュース事件(最判昭和53年3月14日民集32巻2号211頁)は同法が改正された後も先例的価値を失わないであろう。

 また、不服申立期間については現行法のように「処分があったことを知った日の翌日から」起算されるのか、それとも行政事件訴訟法14条1項のように「処分…があったことを知った日から」起算されるのかという点も確認しておく必要がある。

 全体としてみれば国民側には不服申立手続が利用しやすくなるというメリットがあるというべきである。

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