イレッサ訴訟、国への賠償請求退ける。
2013/04/04 訴訟対応, 製造物責任法, 民事訴訟法, その他

事案の概要
肺がん治療薬「イレッサ」の副作用を巡り、死亡した患者2人の遺族が、輸入販売を承認した国と輸入販売元の製薬会社「アストラゼネカ」(大阪市)に計6600万円の損害賠償を求めた訴訟の上告審で、最高裁第3小法廷(寺田逸郎裁判長)は2日、「国」への請求について遺族側の上告を退ける決定を出した。これにより国の賠償責任を否定した2審・東京高裁の判断が確定した。
また同小法廷は、「製薬会社」への訴えについては、今月12日に判決を言い渡すことを決めた。結論の見直しに必要な口頭弁論を開かず判決期日を指定しており、原告側が逆転敗訴した2審・東京高裁判決が確定する見通しとなった。
イレッサを巡っては大阪でも訴訟が起こされ上告中であるが、今回の最高裁判断が影響しそうである。
【イレッサ訴訟の経過】
本件は,肺がん治療薬イレッサを服用した患者本人又はイレッサを服用してその後死亡した患者の遺族の方々が、患者らはイレッサの副作用により間質性肺炎を発症し死亡したものであり、厚生労働大臣には①イレッサに有効性、有用性がないにもかかわらず、不十分な審査しか行わないままこれを承認した違法がある②イレッサの副作用である間質性肺炎について適切な安全対策を執らなかった違法があるなどと主張して、「国」に対しては国家賠償法1条1項に基づき、「イレッサを輸入販売した会社」に対しては製造物責任法3条又は不法行為に基づき、損害賠償を求めている事案。
東京地方裁判所は、平成23年3月23日、イレッサの有効性を認める一方、イレッサ副作用の指示・警告が不十分であったとして、輸入販売会社及び国の責任を一部の原告について認める判決を言い渡した。
この判決に対して、控訴審の東京高等裁判所は同年11月15日、イレッサには指示・警告上の欠陥等は認められないから、原告が輸入販売会社に対してした製造物責任法3条又は不法行為に基づく損害賠償請求には理由がなく、そうである以上、イレッサの輸入承認をするなどした国に対する国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求にも理由がないとして、東京地方裁判所の判決を取り消し、輸入販売会社及び国の責任をいずれも否定する判決を言い渡した。
製造物法について
製造物責任法は3条において「製造業者等」は製造物の欠陥によって他人の生命や財産を侵害した場合は賠償する責任を負う旨定めている。そして同法2条3項3号により「製造業者等」には製造物を製造した者だけでなく、輸入・販売するものも含まれることになる。
本件アストラゼネカ社はイレッサの輸入・販売業者として同法の責任を問われたものといえる。
コメント
がんを患い一刻の猶予も許されない患者の側からすれば新薬の早急な承認が望まれる。一方で見切り発車をすれば重大な副作用の危険がつきまとう。いつものことながらそのさじ加減が重要となる。藁にもすがる思いのがん患者からすれば、危険を承知で新薬を使いたい気持ちも強かろう。大切なのは患者が危険を認識、納得して薬を使用することである。そのために国や企業がベストを尽くしたのかが問われた事案といえる。
参考資料
【国家賠償法】
1条 第1項
国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
【製造物責任法】
2条 第3項
この法律において「製造業者等」とは、次のいずれかに該当する者をいう。
一 当該製造物を業として製造、加工又は輸入した者(以下単に「製造業者」という。)
二 自ら当該製造物の製造業者として当該製造物にその氏名、商号、商標その他の表示(以下「氏名等の表示」という。)をした者又は当該製造物にその製造業者と誤認させるような氏名等の表示をした者
三 前号に掲げる者のほか、当該製造物の製造、加工、輸入又は販売に係る形態その他の事情からみて、当該製造物にその実質的な製造業者と認めることができる氏名等の表示をした者
3条 製造業者等は、その製造、加工、輸入又は前条第三項第二号若しくは第三号の氏名等の表示をした製造物であって、その引き渡したものの欠陥により他人の生命、身体又は
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