神奈川県の「臨時特例企業税」条例適否についての最高裁の判断は?
2013/02/19 税務法務, 租税法, 税法, その他

概要
神奈川県が独自に制定した「臨時特例企業税条例」は違法だとして、いすゞ自動車が納付した計19億4千万円の返還などを求めた訴訟の上告審弁論が18日、最高裁第一小法廷(白木勇裁判長)で開かれた。
本件事件は、第一審では、原告の請求が認められ、本件請求は認められるも、二審である原審においては、「企業税が課されることにより、法人事業税において欠損金の繰越控除を認めて税負担を軽減することにした地方税法の目的及び効果は、徹底されない結果を生ずることは否定し得ない。しかし、企業税の税率が2~3%にとどまることも考慮すれば、そのことから、直ちに地方税法の欠損金の繰越控除規定の目的及び効果を阻害するとまでいうことはできず、両税の間に矛盾抵触があるとはいえない。」とし、原告の請求を退けている。
最高裁は、原審の判断を見直す場合に弁論を開くのが通例であり、本件も、条例を適法とした原審の判断を覆す可能性がある。
参照条文
神奈川県臨時特例企業税条例
(趣旨)
第1条 この条例は、臨時特例企業税の賦課徴収に関し必要な事項を定めるものとする。
(課税の根拠)
第2条 県は、地方税法(昭和25年法律第226号。以下「法」という。)第4条第3項の規定に基づき、当分の間の措置として臨時特例企業税を課する。
(定義)
第3条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
(1) 課税事業年度 事業年度(法第72条の13に規定する事業年度をいう。以下同じ。)のうち、法人の事業税の所得割の課税標準である所得の金額の計算において繰越控除欠損金額又は繰越控除個別欠損金額を損金の額又は個別帰属損金額(法人税法(昭和40年法律第34号)第81条の18第1項に規定する個別帰属損金額をいう。以下同じ。)に算入した事業年度(当該事業年度終了の日の資本金の額又は出資金の額が5億円未満の事業年度及び清算中の事業年度を除く。)をいう。
(2) 繰越控除欠損金額 連結申告法人(法人税法第2条第16号に規定する連結申告法人をいう。以下同じ。)以外の法人の法人の事業税の所得割の課税標準である各事業年度の所得を法第72条の23第1項本文の規定により当該法人の当該各事業年度の法人税の課税標準である所得の計算の例によって算定する場合において、法人税法第57条第1項(同法第142条の規定により同法第57条第1項の規定に準じて計算する場合を含む。)の規定により当該各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入することとされている欠損金額に相当する金額(地方税法施行令(昭和25年政令第245号。以下「政令」という。)第21条の規定に該当する場合は、同条の規定により損金の額に算入すべきとされている金額)をいう。
(3) 繰越控除個別欠損金額 連結申告法人の法人の事業税の所得割の課税標準である各事業年度の所得を法第72条の23第1項及び第3項の規定に基づき算定する場合において、同条第3項の規定により法人税法第57条第1項の規定の例により当該各事業年度の所得の計算上、個別帰属損金額に算入することとされている欠損金額又は個別欠損金額に相当する金額(政令第21条の規定に該当する場合は、同条の規定により個別帰属損金額に算入すべきとされている金額)をいう。
(4) 県分割合 県内に所在する事務所又は事業所に係る分割基準の数値(法第72条の48第1項の規定により法人の事業税の課税標準の総額を分割する際に用いられる同条第2項に規定する分割基準の数値をいう。以下同じ。)を県内及び他の都道府県内に所在する事務所又は事業所に係る分割基準の数値で除して得た数値をいう。
(納税義務者等)
第5条 臨時特例企業税は、県内に事務所又は事業所を設けて行う法人の事業活動に対し、その法人に課する。
2 法の施行地に本店又は主たる事務所若しくは事業所を有しない法人に対するこの条例の適用については、その事業が行われる場所で政令第7条の3の5に規定するものをもって、その事務所又は事業所とする。
(課税標準)
第7条 臨時特例企業税の課税標準は、各課税事業年度における法人の事業税の所得割の課税標準である所得の金額の計算上、繰越控除欠損金額又は繰越控除個別欠損金額を損金の額又は個別帰属損金額に算入しないものとして計算した場合における当該各課税事業年度の所得の金額に相当する金額(当該金額が繰越控除欠損金額に相当する金額を超える場合は、当該繰越控除欠損金額又は当該繰越控除個別欠損金額に相当する金額)とする。
2 県と他の都道府県とにおいて事務所又は事業所を設けて事業活動を行う法人の課税標準は、前項の規定にかかわらず、同項の規定によって計算した金額に県分割合を乗じて得た金額とする。
3 前項の規定による課税標準額の計算は、法第72条の49第3項に規定する分割課税標準額の計算の例による。
(税率)
第8条 臨時特例企業税の税率は、100分の2とする。
(平16条例18・本条全改。当初は5%)
地方税法の趣旨と問題点
地方税法の趣旨の一つは、「地方団体には、いわゆる課税自主権が付与されており、独自の条例をもって地域住民から税を徴収することができる」ことにある。そして、これは地方分権を推進し、地域主権を確立するためには、地方団体の課税自主権を強化することに繋がる。
他方で、別の観点では、地方税法は「地域ごとの税制がまちまちになり、住民の負担が著しく不均衡になることを防止するために定められているもの」ともいえる。これは、憲法の「平等原則」の要請ともいえる。
そうすると、このように地方税法には自ずから二面性を抱えているといえる。
関連判例
・地方税法と税条例の関係が問題になったものとして
最大判昭和50・9月10日 徳島市公安条例事件判決
「(地方税)法及び本件条例の対象時効と規定文言に加え、それぞれの趣旨、目的、内容及び効果を比較しなければならないが、最終的に問題になるのは、『両社の間に矛盾抵触があるかどうか』である」と判示する。
コメント
本件の条例は、「地方税法」の趣旨を強調すれば、原審のような結論になるといえるが、過去の最高裁等の判例から考えると、『両者の間の矛盾』が問題となり、条例が無効となるともいえる。本判決は、法人税のあり方のみならず、地方団体の課税自主権のあり方を大きく左右する問題といえる。
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