【コラム】法務の鉄人(12)『ニュースの読み方を考える』
2021/12/16   法務相談一般

今回は、ライドシェア対タクシー業界の問題から、その先にある問題を考える練習をしてみたい。

基本的には、個々の事項を詳しく知ったうえで、他の分野と結びつける鍵を見つけていくことだと考える。そして、その広がったフィールドに、ご自身がどう対処されるかである。

 

【まずはライドシェアの話】


アメリカにおけるUberのIPOは、うまくいかなかったとされている。これには米中間の問題を含め様々な要因が考えられる。他方で、先行してIPOしたLyftは大成功をしたと言われているけれども。

 

ともあれ、この2社以外でも、中国の滴滴出行、中東のCareem、インドのOlaなど、世界各地でライドシェアビジネスが拡大している。

 

しかし、日本では有償のライドシェアは道路運送法で、原則禁止されている。

 

例外的に「カープール型」については、2017年に規制改革実施計画が閣議決定され、この中で「自家用自動車による運送について、それが有償である場合には、旅客自動車運送事業に準じた輸送の安全や利用者の保護に対する期待感を利用者一般が有していることが、自家用自動車の有償運送を登録又は許可にかからしめる理由であることを通達により明確にするとともに、登録又は許可を要しない自家用自動車による運送について、ガソリン代などの他に一定の金額を収受することが可能な範囲を通達により明確化する」とされたことを受け、サービスの提供を受けた者からの給付が好意に対する『任意の謝礼』と認められる場合や、金銭的な価値の換算が困難な財物や流通性の乏しい財物などによりなされる場合、また、ボランティア活動として行う運送について、実際の運送に要したガソリン代や有料道路使用料、駐車場代のみを収受する場合は許可などを要しない旨の通達が国土交通省より出されている(文中の『』は筆者による)。

 

さて、日本では何故、有償のライドシェアは禁止されているのだろうか。

この点、法律が禁止している趣旨は明確である。『安全』だ。

日本では、有償で他者を乗せて運転する場合には、そのドライバーには高度な技術が求められるのだとしていて、自動車免許も二種免許ということになっている。

 

この理由は、至極真っ当なものだと思う。

だから、二種免許を保有してタクシー業を営んでいる人たちからすれば、有償ライドシェアが解禁されれば、自分たちの強みが意味をなさなくなってしまいかねない。だから、反対のデモを行うのだ、という理由も理解はできる。

 

個人的な感想を付すと、タクシードライバーだから、高度な運転技術を持っているという実感はそれほどない。あくまで、ドライバーによる印象だ。道路交通法違反行為をするドライバーや、辺りの地理が全くわからないドライバーも相当数いる。

タクシードライバーたちの強みが安全性や経験であると主張するのであれば、免許を持っているからそれが証明されているということにとどまらず、更なるレベルアップに努めないと、今後…例えば、自動運転が発達しても同じ事を言えるのかとなってしまう。

 

 

 

【今度はライドシェアについて考えてみよう】


タクシーよりも安く、掴まえやすい、早いとなれば便利である。東京のように自動車の保有コストが高い場合や、高齢化の進んだ地方で、かつ、公共交通機関も不便となると、ライドシェアは便利そうである。公共交通機関は、北海道の鉄道の状況などをみても、どんどん維持が難しくなっていく。それを民間で交通手段を何とかできるのは非常に大きい。

 

他方で、安全性の不安はある。1つは道路交通法的な安全性の問題。これは、タクシー業界も批判する点である。もう1つは、自動車という密室の中にいて、ある種ドライバーの支配下にあると考えた場合に、強盗や性犯罪の温床になってしまわないのかという危惧がある。この点は、現行も何らかの手当てがある訳ではないが、ライドシェアのドライバーがどこの誰かわからないとなるとリスクは高いように思える。

 

Lyftは、ドライバーとなる人たちに本人の経歴や個人情報の書類を提出させ、更には面接も行い、ドライバー適性を見たりもしているようであるが。

 

さて、この辺りまでは一般的によく報道されているが、もう少し考えを深めてみよう。

 

ライドシェアが行われるとどうなるか。アメリカでは、道路を走行する自動車の数が激減したと言われている。つまり、日本の産業の中心である自動車産業が大きな影響を受けることになる。

これは、トヨタや日産、ホンダといった大きな会社の問題にはとどまらない。それぞれグループ会社がたくさんあるし、下請け、孫請けをする会社もたくさんある。更には、自動車関連の製造業に多数の労働者を派遣している人材ビジネスの会社も多数存在する。これら全てに影響を与えうるわけである。

 

 

【ここから、ライドシェアと他の分野の結びつきの話である】


ここで注目したいのが、日本の自動車産業の中心であるトヨタがソフトバンクと提携をして『モネテクノロジーズ』という合弁会社を立ち上げたことである(2018年10月)。同社では、モネテクノロジーズで、自動運転、ライドシェア、空間提供、飲食(フードデリバリーなど)、医療、配車システムの提供を行っていくとしている。そして、このモネテクノロジーズには、ホンダと日野自動車も加わった。更には、モネコンソーシアムとして、コカ・コーラやサントリー、フィリップスや三菱地所など、88社が加わった。

 

ソフトバンクは、Uberに投資しているのだから、ライドシェアに関わっていくのは当然とも見える。しかし、ライドシェアの基盤や、自動運転には欠かせないものがある。

それは5Gの通信ネットワークなのだ。圧倒的な通信速度、通信量なくしてこれらは成り立たない。それを担うのがソフトバンクということである。

 

不仲と言われていたソフトバンクとトヨタ。インターネットサービスという観点では、トヨタには出資をしているKDDIもあるが、トヨタからソフトバンクに提携を申し入れたというのは、新しい世界の始まりを予感させる。単純にインターネットサービスを提供しているからではなく、投資の目線や新しいビジネスを担う先として、トヨタはソフトバンクをパートナーに選んだと考えられるからだ。

 

そして、日本の産業のトップにいたトヨタが、自動車の文化が変わっていくことを受け入れて、ITという新興産業にバトンを受けた渡したようにも見えるからだ。

 

(他方でトヨタはハイブリッド自動車に関する特許を公開した。これは、トヨタ式のハイブリッド技術をグローバルスタンダードにするためではないか、という見方もあるが…。)

 

 

 

【法務担当者として、こうした事態に直面した場合】


さて、こうした合弁会社の場合、中身的のビジネスの運営には出資元の会社から出向してきたり兼任して、事業や管理を行っていくのが一般的である。

 

法務やコンプライアンス担当も同様で、例えばこれまで自動車のことを専門に考えていた法務担当者が、全く新しいビジネスに関する業務を急に担当することになる可能性もある。

新しいビジネスに対処するには時間がかかるものであるが、新たな分野で活躍をできるようになるためには、まずは業界の現状に関する基礎知識を「知っていること」が重要となる。これは何故ならば、どういうものであるかを知らなければ、リスクがわからないからである。リスクがわからなければ、契約書も良いものは作れないし、利用規約なども不備がでてきてしまう。

 

とはいえ、自分の行っている仕事が、どんなものと繋がっていくのかを考えるのは簡単ではない。何故なら、知識がないところからこれを考えることはできないからである。

 

例えば、自動車の発展として、電気自動車とか、自動運転があることを知るのは比較的容易だ。しかし、自動運転技術を効率的に使うために何が必要であるかについては、5Gがどんなものであるのかをあらかじめ知っている必要がある。5Gについては、様々なメディアで解説されていたが、自動車メーカーや自動車の部品メーカーの法務が「自分に関係すること」として学び、理解するには大きな壁があるわけである。5Gは、通信領域の問題だとどうしても思ってしまいがちだから。

 

 

 

【情報の収集】


今回の原稿を執筆していたところ、『週刊東洋経済5月25日号』(東洋経済新報社)が、「5G革命」という特集を組んでいるのを発見。『週刊ダイヤモンド3月23日号』(ダイヤモンド社)は、「5G開戦」という特集を組んだが、2か月あまりの間に、様々なことが動いている。

こうした雑誌も上手く活用して情報を集めたい。

みなさんの知識を広げるための一助になれば、幸いである。

 

 

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本コラムは著者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラム内容を業務判断のために使用し発生する一切の損害等については責任を追いかねます。事業課題をご検討の際は、自己責任の下、業務内容に則して適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

 

 

【筆者プロフィール】


Harbinger(ハービンジャー)


法学部、法科大学院卒。
司法試験引退後、株式会社More-Selectionsでインターンを経験。


その後、稀に見る超ブラック企業での1人法務を経て、スタートアップ準備(出資集め、許認可等、会社法手続き、事業計画等)を経験。転職した後、東証一部上場企業の法務部で、クロスボーダーM&Aを50社ほどを担う。また、グローバルコンプライアンス体制の構築に従事。


現職はIT企業のコンプライアンス担当。大学において、ビジネス法の講師も行う。


 
 

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