労働者に関する法律上のカテゴリまとめと正規非正規格差問題(前編)
2021/12/17   労務法務, 労働法全般, 労働者派遣法

1.はじめに


本コラムは、ビジネスの現場で法務担当者が本当に役立つためにはどうしたらいいか、という視点で様々なノウハウをお伝えしています。今回は、労働法制の保護を受ける「労働者」のみに焦点を当てます。前編で様々な用語の整理をして、全体像を理解いただいたうえで、後編で正規社員と非正規社員の待遇格差解消に向けた法的な対応事項について取り上げます。

 

2.そもそも「労働者」とは?


法律上、「労働者」の定義には2通りあると考えられています。まず1つ目(狭義の労働者)は、労働基準法9条に定める「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」に該当する人を指します。雇う方の事業者とその事業者のために働く個人との間で成立する契約の記載文言にかかわらず、実質的に使用従属関係が認められるかどうか(※1)という観点で判断されます。そして2つ目(広義の労働者)は、労働組合法3条に定める「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」に該当する人を指します。1つ目の定義と2つ目の定義の差異については、2つ目の定義が1つ目の定義を包含する関係になっています。

1つ目の定義(労基法9条の「労働者」)に該当する場合には、労働契約法、労働者災害補償保険法、労働安全衛生法、最低賃金法、育児介護休業法といった各種労働法制が適用されるため、事業者においてはこれらの労働法制を踏まえた労働者保護の対応が必要です。一方で、1つ目の定義に該当せず2つ目の定義(労組法3条の「労働者」)のみに該当する場合は、労働組合を組織し(団結権)、事業者と交渉する権利(団体交渉権)を行使するための法的保護があるというだけです。例えば、Uber Eats(ウーバーイーツ)等のギグワーカーは、労基法9条の「労働者」に当たらないので、待遇や労働環境などについて労働法上の保護を受けられませんが(※2)、労組法の「労働者」には該当すると整理されており、「ウーバーイーツユニオン」の結成や当該組織を通じたウーバーとの団体交渉が認められています。

(※1) 独立行政法労働政策研究・研修機構「(1)「労働者」の定義」による。

(※2) 直近の日経新聞の報道によれば、2020年度内にフリーランスを保護する独占禁止法上の指針が公表される見込み。

「フリーランス保護は進むか 政府、年度内に指針」日本経済新聞(2020年10月25日)

 

3.「労働者」に関わる法律上の枠組みをザックリまとめてみました


上記の分類を踏まえて、1つ目の定義である「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」(労基法第9条)にあたる人が仕事を探し、働くうえで関わる法的な枠組みを3種類に分けてザックリと整理しました。労働者保護を目的とする各種の法律(いわゆる労働法)はこのフレームワークの上に乗っているものだとイメージいただけると分かりやすいと思います。

 

①使用者と労働者の関係を整理する法律


使用者(労働者を雇う立場である事業者等)と労働者との間で成立する契約の内容や労働者への労働条件の提示方法については、最低限使用者が守らなければならない条件が労働基準法及び労働契約法に定められています。使用者がこれらの条件に違反した場合、労基法違反として管轄の労働基準監督署から勧告や罰金などによる行政・刑事上の制裁を受けることがあるほか、労働契約法に違反する部分に関して労働契約の一部条件が無効となり、無効となったことで生じる労働者の損害について、民事上の損害賠償請求に応じることとなります。その他、最低賃金の保障(最低賃金法)、雇用保険(雇用保険法)、パート・アルバイト・契約社員などの非正規社員の不合理な待遇相違禁止(パートタイム・有期雇用労働法)といった労働者保護に関して適用される各種の法律群も、このカテゴリに属するといえます。

 

②労働者同士がまとまって使用者と交渉するための法律


雇われているという弱い立場から労働者1人で使用者と交渉したり、処遇を巡って戦ったりすることは、労働者にとってあまり現実的ではないことから、労組法では憲法が保障する労働三権(団結権・団体交渉権・団体行動権)に基づき労働組合を組織できることや、組合員と使用者との間で労基法に反しない限度で就業規則を上書きすることができる労働協約の運用などについて定めています。

 

③使用者と労働者を媒介する事業者に適用される法律


労働者は、就労前に求人広告を見たり求人に応募したりすることで使用者との関係を築きますが、これらの求人広告を掲載し、求人ビジネスを運営する事業者に対しては、求人の詳細明示や具体的な募集条件の記載項目について定める職業安定法の適用があります。使用者と労働者のマッチングを積極的に行う場合には、厚労省許可事業である「職業紹介事業者」に該当するのに対し、求人の場を提供するにとどまる場合には許可・届出が不要な「募集情報等提供事業者」として当該事業者向けのガイドラインに準拠して事業運営を行うこととされています。

 

4.正社員って何?「労働者」のさまざまなカテゴリーを分類してみました


「労働者」と周囲の当事者は、上記3.のような関係にありますが、一言で「労働者」といっても、雇われ方や労働時間、労働期間などによってパート、契約社員、派遣社員、正社員等、さまざまな呼ばれ方をすることがあります。日常的に使う用語が、法律上のどの類型を指しているのか、以下の通り整理してみました。さらに、上記3.①のカテゴリの法律のうち、非正規労働者の保護のために存在している法律およびそれぞれの類型を指す法律上の用語を青枠に追記しました。上記3.①に記載した労基法及び労働契約法は、すべての「労働者」との関係に対して適用されるものですが、非正規労働者についてはさらに法律が上乗せされているとイメージいただければと思います。

 

 

主なポイントとしては、まず、使用者が直接雇用する労働者か否か(図の最初の分岐)で、大きく実務上の取扱いが異なります。直接雇用する場合、使用者は、労働者との間で労働契約を締結した上で、労働者保護について全て自前で対応する必要があります。他方、アウトソースの場合、使用者は労働者と個別に労働契約を締結することはありません。厚労省の許可事業としてライセンスを有している労働者派遣事業者及び労働者の間で労働契約が成立しているので、派遣先においては人材を受け入れ(これをアウトソースと表現しました)、業務上の指揮命令を行うだけの関係となります。ただし、契約関係にはないものの、育休、介護休暇に関するハラスメント防止や労働者の健康管理に関する義務は課されます(派遣法47条の2、47条の3、47条の4)なお、最下部の赤いカテゴリは違法な類型となります。業務委託先の企業の従業員に対して勤怠に関する指揮・命令を実施することは、「偽装請負」であるとして業務委託先・下請企業における派遣法違反になると同時に、受け入れ企業においては労働者に対して労働契約の締結の申込をしたものをみなされ、結果としてアウトソース人材を直接雇用しなければならないリスクが生じます。

次に、直接に人的リソースを調達した場合、労働契約の期間の有無によって法律上の位置づけが分岐します。いわゆる正規雇用、正社員とは、期間の定めのない契約(無期)を締結した労働者を指します。いわゆる非正規雇用、契約社員、パート、アルバイトとは、有期契約を締結した労働者を指します。そして、非正規の労働者については、パート・有期法等による追加的な保護措置が課されます。

 

後編は、最後に言及した無期契約を締結した労働者と有期契約を締結した労働者との間で待遇差異が生じているとみなされるケース及びそうならないように使用者として対応すべき事項について解説します。

 

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本コラムは著者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラム内容を業務判断のために使用し発生する一切の損害等については責任を追いかねます。事業課題をご検討の際は、自己責任の下、業務内容に則して適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応下さい。

 

【筆者プロフィール】
高橋 ケン


慶應義塾大学卒。


大手メーカー法務部にて国際法務(日英契約業務を中心に、ビジネス構築、社内教育、組織再編、訴訟予防等)、外資系金融機関にて法人部門の企画・コンプライアンス・webマーケティング推進業務を経験。現在、大手ウェブ広告企業の法務担当者として、データビジネス最前線に携わる。


企業の内側で法務に携わることの付加価値とは何か?を常に問い続け、「評論家ぶらない」→「ビジネスの当事者になる」→「本当に役に立つ」法務担当者の姿を体現することを目指す。


シンプルに考えることが得意。


 

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