企業法務向けの保険まとめ
2018/09/06   労務法務, 民法・商法

1.はじめに

 法務業務の中には訴訟対応やトラブル予防が含まれており、当然その過程で相当の損害や費用がかかる可能性があります。今回は法務業務を行うにあたり役立ちそうな保険を、典型的な業務態様ごとにまとめました。

2.法務費用に対する保険——事業者向け弁護士保険

 社内に顧問弁護士や企業内弁護士がいない場合、会社に突発的な法的トラブルが生じた際に、新規で外部の弁護士への相談といった対応が求められる可能性があります。法律相談料や着手金等が高額にわたれば、仮に訴訟に勝ったとしても相当の金銭的負担となりますし、あるいは泣き寝入りせざるを得ない状況になるかもしれません。
 これに対して、例えばエール少額保険の「弁護士保険コモンBiz」は、事業者向けの弁護士保険として、会社の弁護士費用を補償しています。弁護士への相談料を補償する弁護士相談料保険金と弁護士委任時の着手金や報酬金を補償する法務費用保険金の両面から、突然の法的トラブルに対応しています。

エール少額短期保険

3.秘密情報・個人情報漏えい保険

  顧客情報等の個人情報を取り扱う企業は多く、企業としても秘密保持契約等での情報管理が求められます。サイバー攻撃などにより、ひとたび個人情報の漏えいが発生すれば、対応のためのコストは多大なものとなり、顧客からの信頼を失う事態にもなりかねません。
 個人情報漏えい保険は、個人情報の漏えいやそのおそれによる賠償損害や対応費用を補償する保険です。補償の対象となりうる費目には、損害賠償金や弁護士費用等のみならず、謝罪広告掲載費用や記者会見の開催費用等も含まれます。

東京海上日動「個人情報漏えい保険」
損保ジャパン日本興亜「個人情報取扱事業者保険」
AIG損保「個人情報漏洩保険」

 個人情報だけでなく、広く生産方法やノウハウ等の企業秘密の漏えいによる損害を補償する保険も存在します。

(PDFファイル)全国中小企業団体中央会「情報漏えい賠償責任保険制度」

 また、個人情報の漏えいによる損害のみならず、サイバー攻撃全般をカバーする保険も存在します。

東京海上日動「サイバーリスク保険」
サイバー保険比較.com

4.コンプライアンスに関する保険

(1)役員賠償訴訟・株主代表訴訟に対する保険——役員賠償責任保険
 会社の事業遂行上のミス等により、株主や取引先などに損害を与えてしまった場合、当該企業の役員に会社法上の損害賠償責任が問われるおそれがあります。会社の事業規模で生じうる賠償責任は非常に重い場合があり、例えば経営判断のミスの責任を全て役員個人に負わせることとなれば、会社経営自体が萎縮してしまうおそれがあります。
 役員賠償責任保険(通称「D&O保険」)は、会社の経営陣である役員が損害賠償責任を問われた時の賠償金等を補償する保険です。

役員賠償責任保険とは?あなたと会社を守るための備え(法人保険の教科書)
東京海上日動「D&O保険」
三井住友海上「会社役員賠償責任保険(D&O保険)」

(2)セクシャルハラスメント・パワーハラスメント等に対する保険——雇用慣行賠償責任保険
 近年では、企業内におけるセクハラ・パワハラや不当解雇等が話題となっています。労働者の権利意識の向上や情報へのアクセスの容易化により、こうした企業内トラブルが訴訟にまで至る可能性は高まってきており、これらは企業にとっても大きなリスクです。
 雇用慣行賠償責任保険は、会社が従業員から、セクハラやパワハラ、差別行為、不当解雇などを原因として損害賠償を請求された時に発生する費用を補償する保険です。賠償責任保険に特約として付される場合もあります。

雇用慣行賠償責任保険|事例からみる必要性と補償内容(法人保健の教科書)
共栄火災「賠償責任保険 雇用トラブルガード」

(3)従業員による犯罪に対する保険——身元信用保険
 身元信用保険とは、従業員が、業務の遂行するにあたり、または職務上の地位を利用して窃盗・強盗・詐欺・横領・背任の不誠実行為を行ったことにより会社が被る損害を補償する保険です。

(PDFファイル)東京海上日動「身元信用保険の約款」

(4)ネット炎上対策の保険
 企業トラブルに関して保険により各種予防対策が採られている中、近年、SNS等によるネット炎上が課題となっています。この点に関して、保険の中には、企業向けに「ネット炎上対応費用保険」というものが存在し注目されています。

(PDFファイル)損保ジャパン日本興亜
炎上保険で定評のある風評被害対策会社10選(アイミツ)

5.施設・品質管理等に関する保険

(1)施設の欠陥や管理不備、業務遂行上の過失等に対する保険
 会社事務所などの事業用の施設の欠陥等が原因で他人に損害を与えてしまった場合には、施設賠償責任保険によってそれを填補することができます。
 建設業者や工場業者などの場合、建設現場や工場現場で事故が起きて損害が発生したときに、請負業者賠償責任保険が適しています。
 物品の保管・管理を業務とする場合には、預かった品物の盗難、紛失等についての損害に対して、受託者賠償責任保険で補償することができます。

東京海上日動「施設賠償責任保険」
東京海上日動「請負業者賠償責任保険」
(PDFファイル)三井住友海上「受託者賠償責任保険」

(2)生産物や仕事の欠陥に対する保険
 飲食業や製造業の場合、生産物の欠陥によって生じる損害が重大なリスクとなりえます。生産物賠償責任保険(PL保険)は、そうした作ったモノや仕事の結果の欠陥により顧客等に損害を与えてしまった場合の保険です。

(PDFファイル)三井住友海上「生産物賠償責任保険」
東京海上日動「生産物賠償責任保険」

 海外での製造や販売を行ったり、自社の製造する製品や部品が海外へ輸出される製品として使われている場合、生産物管理について海外での賠償リスク を無視することはできません。海外でのトラブルでは、訴訟が頻発したり、賠償額が高額にわたるなど、予測できないリスクが発生する可能性があります。いわゆる海外PL保険は、こうした海外で事業を行ったり商品を販売する企業に向けた保険です。

AIG損保「海外PL保険」
東京海上日動「海外PL保険」

(3)製品回収・リコールに対する保険
 リコール保険は、製品のリコールを行った場合に、それにかかる回収費用や回収を求める告知の費用を補償する保険です。PL保険が、事故が起こった際の賠償責任について保証するのに対し、リコール保険はまだ事故が起こっていないが、将来起こるおそれがあるために行った回収の費用についても補償される可能性があります。

AIG損保「生産物品質保険」
三井住友海上「生産物品質保険」

6.与信管理・債権回収に対する保険——取引信用保険

 貸倒れなどの債権回収に伴うリスクは、企業にとって非常に深刻なものとなりえるため、与信管理は法務部員にも求められるスキルとなります。会社の信用調査にも限界はあり、与信管理体制を整えていたとしても、貸倒れ損害が生じてしまう可能性はあるでしょう。
 取引信用保険は、被保険者の各商品の取引先が倒産するなどにより回収不能債権が生じた場合、それを補填する保険です。損失の確実な回収を図れるのみならず、保険会社から取引先の信用情報の提供を受けることができます。

【取引信用保険】売掛金が回収不能となったときに役立つ保険の話(カイシャのホケン)
【取引信用保険】まるわかり - 中小企業にこそ知ってほしい取引先の信用管理(Alarmbox)

7.M&Aについての保険——表明保証保険

 「表明保証」とは、M&Aにおいて売り手が自社の財務・法務等に関する事実を表明し、相手方に保証することです。企業買収等においては企業の財務状態等を前提として買収額を決定します。したがってM&A契約においてはこの表明保証条項が含まれており、これに対する違反は損害賠償請求の根拠となります。
 表明保証保険は、この表明保証違反があった場合に、被保険者が被る経済的損失を補償する保険です。当事者の信用力を補完するのみならず、損失の責任を当事会社ではなく直接保険会社に請求することになるので、両社の良好な関係維持にも資すると考えられます。

M&Aのリスクを低減する「表明保証責任」とは(BUSINESS LAWYERS)

8.海外知財保証費用保険

 事業の海外進出が進むにつれ、外国での知的財産の侵害が多発する一方、中小企業などはこれに対する訴訟対応が難しい場合もあります。こうした状況を受けて、特許庁は平成28年度から保険会社等と連携し、保険制度を創設しました。日本商工会議所などを介し、損保ジャパン日本興亜、東京海上日動火災、三井住友海上火災の3社が保険を引き受けています。

海外知財訴訟費用保険(特許庁)

9.天災・事故等についての賠償責任保険

(1)総合
 事業にかかる事故やトラブルは、賠償責任保険によって広く対応しています。

三井住友海上「ビジネスプロテクター」
東京海上日動「超ビジネス保険」

(2)貨物輸送中の事故
(PDFファイル)損保ジャパン日本興亜「運送業者貨物賠償保険」
AIG損保「運送業者貨物賠償責任保険」

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