犯罪による収益移転防止法(犯収法)の概要
2017/09/05   コンプライアンス, 法改正

~イントロダクション~

 国際的なマネー・ロンダリングの防止・摘発のための制度の発展に合わせ、我が国でも、平成28年10月に『犯罪による収益の移転防止に関する法律』(以下、犯収法とします)が改正・施行され、金融機関以外の事業者も含まれる特定事業者を対象としたマネー・ロンダリング対策が強化され、一定の義務が課せられています。
 そこで、今回は犯収法の概要についてご紹介いたします。

~マネー・ロンダリングについて~

 マネー・ロンダリング(Money Laundering:資金洗浄)とは、一般に犯罪によって得た収益を、その出所や真の所有者が分からないようにして、捜査機関による収益の発見や検挙を逃れようとする行為をいいます。
 このような行為を放置すると、犯罪による収益が、将来の犯罪活動や犯罪組織の維持・強化に使用され、組織的な犯罪及びテロリズムを助長するとともに、これを用いた事業活動への干渉が健全な経済活動に重大な悪影響を与えることから、国民生活の安全と平穏を確保するとともに、経済活動の健全な発展に寄与するため、マネー・ロンダリングを防止することが重要と考えられています。

~犯収法制定と改正の経緯~

1、2003年のFATF(マネー・ロンダリングに関する金融活動作業部会(Financial Action Task Force on Money Laundering))勧告改訂においては、金融機関以外の非金融業者等もマネー・ロンダリング対策の枠組みに含めることになりました。そこで、我が国では、犯収法により、既存の法律(麻薬特例法、組織的犯罪処罰法、テロ資金提供処罰法、外為法、本人確認法等)を整理して、非金融業の事業者も対象に含めた、新たなマネー・ロンダリング対策法として整備しました。
 以下、制定と改正の経緯について簡潔に説明いたします。

2、当初の犯収法は、以下の内容を規定しました。
(1)特定事業者の範囲
(2)FIU(金融情報部門、資金情報機関などと訳されますが、FIUの名称をそのまま使用することが多いようです)の金融庁から国家公安委員会への移管
(3)特定事業者の行う措置の整理

3、その後、FATFの第3次対日相互審査報告書への対応のため、平成23年改正犯収法が平成25年4月に施行され、
(1)新たな取引時確認事項の追加
(2)取引時確認等を的確に行うための措置
 が行われました。

4、これを受けたFATFは、以下の点で、我が国のマネー・ロンダリング、テロ資金供与対策の取組が、不足していると全体会合等で指摘しました。
(1)顧客管理
(2)テロリストの資産凍結
(3)テロ行為に対する物質的支援等の犯罪化
(4)国際組織犯罪防止条約(パレルモ条約)の締結

5、これに対応すべく犯収法を平成26年に改正し、平成28年10月に施行され、
(1)取引時確認の強化
(2)「疑わしい取引の届出」判断方法の明確化
(3)特定事業者の内部管理体制の整備厳格化
(4)コルレス先との契約締結に際して行う確認を法的義務化
 を行いました。

~特定事業者の範囲~

 犯収法上の取引時確認等の義務を負う事業者のことを特定事業者といいます。
 犯収法2条2項では、金融機関(銀行、信用金庫、保険会社、金融商品取引業者、資金移動業者、貸金業者等)、ファイナンスリース業者、クレジットカード事業者、宅地建物取引事業者、宝石・貴金属等取扱事業者、郵便物受取サービス事業者、電話代行事業者、電話転送サービス事業者、司法書士・司法書士法人、行政書士・行政書士法人、公認会計士、・監査法人、税理士、税理士法人が挙げられています。
 また、弁護士・弁護士法人については、本人特定事項の確認等、確認記録・取引記録等の作成・保存に相当する措置について、司法書士等の士業者の例に準じて、日本弁護士連合会の会則で定めるところにより、特定事業者にあたるものと考えられています。

~特定事業者の義務~

特定事業者の義務としては以下のものが定められています。

1、取引時確認(犯収法4条)

(1)「取引時確認」とは、特定事業者が特定取引等に際して行わなければならない確認をいい、いわゆる本人確認(「本人特定事項の確認」)のほか、各種の顧客属性の把握等が含まれていますが、取引時確認の際の確認事項及び確認方法は、自然人、人格のない社団・財団・法人(上場法人等以外)、国や上場法人等ごとに異なり、行おうとする取引が「通常の特定取引」(特定取引であってハイリスク取引に該当しないものをいう。)と「ハイリスク取引」等取引の態様によっても異なります。

2、確認記録の作成・保存(7年間保存)(犯収法6条)

(1)確認記録とは、主務省令で定める方法により、当該取引時確認に係る事項、当該取引時確認のために取った措置その他の主務省令で定める事項に関する記録をさします(犯収法6条1項)。

(2)確認記録の作成方法については、犯収法施行規則19条において、
ア、確認記録を文書、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)又はマイクロフィルムを用いて作成する方法
イ、犯収法施行規則19条2項イからヘまでに掲げる場合に応じ、それぞれ当該イからヘまでに定めるもの(以下「添付資料」という。)を文書、電磁的記録又はマイクロフィルム(ハに掲げる場合にあっては、電磁的記録に限る。)を用いて確認記録に添付する方法
と規定されています。

(3)確認記録の記録事項については、犯収法施行規則20条において、
ア、本人特定事項等
・顧客の本人特定事項(個人:氏名・住居・生年月日、法人:名称・所在地)
・代表者等による取引のときは、当該代表者等の本人特定事項、当該代表者等と顧客との関係及び当該代表者等が顧客のために取引の任に当たっていると認めた理由
・国、地方公共団体、上場企業等(国等)との取引に当たっては、当該国等を特定するに足りる事項
・取引を行う目的
・職業又は事業の内容(顧客が法人である場合には、事業の内容の確認を行った方法及び確認をした書類の名称等)
・顧客が法人であるときは、実質的支配者の本人特定事項、実質的支配者と顧客との関係、その確認を行った方法(ハイリスク取引のときは、確認をした書類の名称等)
・資産及び収入の状況の確認を行った場合には、その確認を行った方法及び確認をした書類の名称等
・顧客が自己の氏名及び名称と異なる名義を取引に用いるときは、当該名義並びに異なる名義を用いる理由
・顧客が外国PEPsであるときは、その旨及び外国PEPsであると認めた理由
・取引記録を検索するための口座番号その他の事項
・なりすまし又は偽りが疑われる取引のときは、関連取引時確認に係る確認記録を検索するための事項
イ、本人特定事項の確認のためにとった措置等
・本人確認書類の名称、記号番号その他本人確認書類を特定するに足りる事項
・本人特定事項の確認を行った方法
ウ、その他
・取引時確認を行った者の氏名その他当該者を特定するに足りる事項
・確認記録の作成者の氏名その他当該者を特定するに足りる事項
・本人確認書類の提示を受けたとき(ハイリスク取引に際して追加の書類として提示を受けたときを除く。)は、その日付及び時刻
・本人確認書類又はその写しの送付を受けたときは、その日付(当該本人確認書類又はその写しを必ず添付)
・顧客又は代表者等に取引関係文書を送付する方法で本人特定事項の確認を行ったときは、事業者から取引関係文書を送付した日付
・特定事業者の職員が顧客又は代表者等の住居等に赴いて取引関係文書を交付したときは、その日付
・ハイリスク取引に際して追加で書類の提示又は送付を受けたときは、その日付
・取引を行う目的、職業・事業の内容、実質的支配者(法人のみ)又は資産及び収入(ハイリスク取引の一部のみ)の確認を行ったときは、その日付
・取引時確認を行った取引の種類
・本人確認書類に現在の住居等の記載がないため、他の本人確認書類又は補完書類の提示を受けることにより住居等の確認を行ったときは、当該確認に用いた本人確認書類又は補完書類の名称、記号番号その他の当該書類を特定するに足りる事項(書類又はその写しの送付を受けたときには当該書類又はその写しを必ず添付)
・法人顧客について、本人確認書類又は補完書類に記載のある営業所等に取引関係文書を送付すること又は当該営業所等に赴いて取引関係文書を交付したときは、営業所の名称、所在地その他当該場所を特定するに足りる事項及び当該場所の確認の際に提示を受けた本人確認書類又は補完書類の名称、記号番号その他の当該書類を特定するに足りる事項(書類又はその写しの送付を受けたときには当該書類又はその写しを必ず添付)
・顧客が本邦に住居を有しない旅行者等の短期在留者であって、上陸許可の証印等により在留期間の確認を行った場合には、上陸許可の証印等の名称、日付、番号その他当該証印等を特定するに足りる事項
と規定されています。

3、取引記録等の作成・保存(7年間保存)(犯収法7条)

(1)取引記録等とは、顧客等の確認記録を検索するための事項、当該特認受忍行為の代理等を行った期日及び内容その他の主務省令で定める事項に関する記録をさします(犯収法7条2、3項)。

(2)取引記録の作成方法は、文書、電磁的記録又はマイクロフィルムを用いて作成することとされています。(犯収法施行規則23条)

(3)取引記録等の記録事項は、犯収法施行規則24条において、
・口座番号その他の顧客の確認記録を検索するための事項(確認記録がない場合には、氏名その他の顧客又は取引等を特定するに足りる事項)
・取引又は特定受任行為の代理等の日付、種類、財産の価額
・財産の移転を伴う取引又は特定受任行為の代理等にあっては、当該取引等及び当該財産の移転元又は移転先の名義その他の当該移転元又は移転先を特定するに足りる事項
と規定されています。

4、疑わしい取引の届出(犯収法8条)

(士業者の依頼者との関係に与える影響等について引き続き検討を行う必要があることから、士業者はその対象から除かれています。)
(1)届出をすべき場合とは、
  ①特定業務において収受した財産が犯罪による収益である疑いがある場合
  ②顧客等が特定業務に関し組織的犯罪処遇法第10条の罪若しくは麻薬特例法第6条の罪に当たる行為を行っている疑いがある場合
をいいます。

(2)疑いがあるかの判断方法
疑いがあるかの判断方法として、総務省は、取引時確認の結果、取引の態様その他の事情及び国家公安 委員会が作成・公表する犯罪収益移転危険度調査書の内容を勘案し、取引の性質に応じて次の方法により判断するとしています。
ア、過去に取引を行ったことのない顧客等との取引(いわゆる一見取引)であってⅲ)でない取引犯罪収益移転防止法施行規則26条各号の項目に従って、取引に疑わしい点があるかどうかを確認する方法
イ、過去に取引を行ったことがある顧客等との取引(いわゆる既存顧客との取引)であって4(2)ウでない取引
当該顧客等に係る確認記録や取引記録等を精査した上で、犯罪収益移転防止法施行規則第 26 条各号の項目に従って、取引に疑わしい点があるかどうかを確認する方法
ウ、マネー・ロンダリングに利用されるおそれの高い取引(ハイリスク取引や、特別の注意を要する取引、高リスク国に居住・所在する顧客との取引等、犯罪収益移転危険度調査書の内容を勘案してマネー・ロンダリングに悪用されるリスクが高いと認められる取引をいう。)
上記ア又はイに定める方法に加えて、
(ア)顧客等に対して質問を行ったり、取引時確認の際に顧客から申告を受けた職業等の真偽を確認するためにインターネット等を活用して追加情報を収集したりするなど、必要な調査を行うこととするとともに、
(イ)上記の措置を講じた上で、当該取引に疑わしい点があるかどうかを統括管理者又はこれに相当する者に確認させる方法

(3)疑わしい取引の届出方法
 ①電子政府を利用した届出
  ⇒インターネットを利用して届出
 ②電磁的記録媒体による届出
  ⇒電磁的記録媒体を郵送又は持込み
 ③文書による届出
  ⇒文書を郵送又は持込み

(4)疑わしい取引の届出内容
 犯収法施行規則(25条、別紙様式1号)によると、
  ①届出を行う事業者の名称及び所在地
  ②届出対象取引が発生した年月日及び場所
  ③届出対象取引が発生した業務の内容
  ④届出対象取引に係る財産の内容
  ⑤特定事業者において知り得た対象取引に係る取引時確認に係る事項
  ⑥届出を行う理由
 を記載することとされています。

5、コルレス契約締結時の厳格な確認(犯収法9条、犯収法規則28条、29条)

Cf:コルレス契約とは、日本の銀行が海外の銀行と結ぶ、為替業務の代行に関する契約をいいます。
(1)確認方法については、外国所在為替取引業者(犯収法9条に規定する外国所在為替取引業者をいう。以下同じ)から申告を受ける方法又は外国所在為替取引業者若しくは外国の法令上犯収法22条1項及び2項に規定する行政庁に相当する外国の機関によりインターネットを利用して公衆の閲覧に供されている当該外国所在為替取引業者に係る情報を閲覧して確認する方法とされています(犯収法規則28条)。

6、外国為替取引に係る通知(犯収法10条)

(1)通知義務の内容については、犯収法10条において、
ア、特定事業者は、顧客と本邦から外国(政令で定める国又は地域を除く。以下この条において同じ。)へ向けた支払に係る為替取引(小切手の振出しその他の政令で定める方法によるものを除く。)を行う場合において、当該支払を他の特定事業者又は外国所在為替取引業者(当該政令で定める国又は地域に所在するものを除く。以下この条において同じ。)に委託するときは、当該顧客に係る本人特定事項その他の事項で主務省令で定めるものを通知して行わなければならない(犯収法10条1項)。
イ、特定事業者は、他の特定事業者から前項又はこの項の規定による通知を受けて本邦から外国へ向けた支払の委託又は再委託を受けた場合において、当該支払を他の特定事業者又は外国所在為替取引業者に再委託するときは、当該通知に係る事項を通知して行わなければならない(犯収法10条2項)。
ウ、特定事業者は、外国所在為替取引業者からこの条の規定に相当する外国の法令の規定による通知を受けて外国から本邦へ向けた支払又は外国から他の外国へ向けた支払の委託又は再委託を受けた場合において、当該支払を他の特定事業者又は外国所在為替取引業者に再委託するときは、当該通知に係る事項(主務省令で定める事項に限る。)を通知して行わなければならない(犯収法10条3項)。
エ、特定事業者は、他の特定事業者から前項又はこの項の規定による通知を受けて外国から本邦へ向けた支払又は外国から他の外国へ向けた支払の再委託を受けた場合において、当該支払を他の特定事業者又は外国所在為替取引業者に再委託するときは、当該通知に係る事項(主務省令で定める事項に限る。)を通知して行わなければならない(犯収法10条4項)。
と規定されています。

(2)例外について、犯収法規則30条に規定があります。

7、取引時確認等を的確に行うための措置(犯収法11条)

(1)具体的には、犯収法11条に規定されていますが、
  ①取引時確認をした事項に係る情報を最新の内容に保つための措置
  ②使用人に対する教育訓練の実施
  ③取引時確認等の措置の実施に関する規程の作成
  ④リスク評価、情報収集、記録の精査
  ⑤統括管理者の選任
  ⑥リスクの高い取引を行う際の対応
  ⑦必要な能力を有する職員の採用
  ⑧取引時確認等に係る監査の実施
 といったものが定められています。

~まとめ~

 これらの義務に違反していると認められる場合、行政庁は、特定事業者に対し、当該違反を是正するため必要な措置をとるべきことを命じることができます(犯収法18条)。そして、この命令に違反した場合、違反した者は、2年以下の懲役若しくは300万以下の罰金に処され、又はこれを併科されます(犯収法25条)。
 企業法務担当者としては、罰則を避けることはもちろんですが、犯罪による収益が、将来の犯罪活動や犯罪組織の維持・強化に使用され、組織的な犯罪及びテロリズムを助長するとともに、これを用いた事業活動への干渉が健全な経済活動に重大な悪影響を与えることから、国民生活の安全と平穏を確保するとともに、経済活動の健全な発展に寄与するため、マネー・ロンダリングを防止することが重要と考えられていますので、企業内のコンプライアンスの強化の一環として犯収法に対応することが求められているといえるでしょう。

~参考~
犯罪による収益の移転防止に関する法律
犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則
犯罪収益移転防止法の概要(総務省)
犯罪収益移転防止法等の概要について(警察庁)
改正犯罪収益移転防止法について(金融庁)

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