労災隠しまとめ
2016/11/29   労務法務, 労働法全般, その他

はじめに

平成28年10月27日、労災事故を報告しなかったとして、彦根労働基準監督署(滋賀県彦根市)は、運送会社「セノイースパーエクスプレス」(東京)と長浜航空営業所(同県長浜市)の男性所長を、労働安全衛生法100条(報告等)違反の疑いで大津地検に書類送検しました。平成27年12月15日に、同社労働者がトラックから荷下ろしをしている最中に、プラットフォームから地上へ1メートル墜落し右手首を骨折しましたが、そのことを労基署に報告しなかったとの疑いを持たれています。今回のケースが当てはまるかまだわかりませんが、労働災害を労基署に報告しないケースが跡を絶ちません。そこで、今回は労災隠しについてまとめます。
本件について 産経WEST
労働安全衛生法

労働災害と報告義務

 労災、すなわち労働災害とは、労働者の業務上のまたは通勤途上の負傷・疾病・障害・死亡のことを言います。そして、労働災害は業務災害(業務上の負傷・疾病・障害・死亡)と通勤災害(通勤途上の負傷・疾病・障害・死亡)に大別できます。
 労災が発生した場合、補償責任(労働基準法第8章)以外に、労働基準監督署に事故を報告する必要があります(労働安全衛生法100条)。具体的には、「労働者死傷病報告」をすることになります(労働安全衛生規則第97条1項)。労働者死傷病報告は、労働者の休業の程度により提出方法が異なり、休日日数が4日以上の場合には、様式第23号による報告書を遅滞なく提出し(同項)、休日日数が4日未満の場合には、様式第24号による報告書を四半期分を取りまとめて提出します(労働安全衛生規則第97条1項。1~3月分は4月末まで、4~6月分は7月末までなど)。
労働災害が発生した場合 厚生労働省
労働者死傷病報告について 河社会保険労務士事務所
労働安全衛生規則

労災隠し

 労災隠しとは、事業者が上記の報告を怠ったり、上記の報告で虚偽の報告をすることをいいます。労災を隠された場合、災害事実を監督署で把握することができず、このため災害の調査を行えなくなり、原因の究明や再発防止にかかる指導を行うことができないという不都合があります。それだけではなく、被災した労働者が労災保険による保護を受けることができずに十分な治療が受けられないなどの深刻な不利益を被るおそれがあります。
 それにもかかわらず労災を隠す理由として、以下のものがあります。
①労災の保険料が上がるおそれ
②手続きが面倒
③企業のイメージ低下
④労働基準監督署の監査が入るおそれ
⑤そもそも労災に未加入
労災隠しの理由 労働問題弁護士ナビ

労災隠しの罰則

 上記の理由があったとしても、労災を隠すと50万円の罰金を科されます(労働安全衛生法120条5号、100条)。この罰金は、労災を隠した行為者のみならず、法人にも科されますので注意が必要です(同法122条、両罰規定)。それだけではなく、労災を隠した事業としてニュースで報道され、社会的信用を大きく損なうことになり、場合によっては取り返しのつかないことになります。他にも、厚生労働省が次のように厳格に措置を取るとしています。
①会社に対しての司法処分
②会社の事業者に出頭を求め、警告し、再発防止対策を講じさせる。
③全国的な地域で事業を展開している会社において労災隠しが行われた場合は、当該本社等に対して再発防止のための措置を講じさせる。
④建設事業無災害表彰を受けた会社は、無災害表彰状を返還させる。
⑤労災保険のメリット制の適用されている会社は、労災保険料の再計算を行い、適正な保険料を徴収する。
労災隠しの罰則 社長のための労働相談マニュアル
厚生労働省の対応 カイシャのホケン

最後に

 以上のとおり、労働災害を隠すことで非常に重たいリスクを負うことになります。また、隠したとしても、労働者から労働基準監督署への申告(労働安全衛生法97条)により発覚してしまうということも十分ありえます。したがって、隠したい理由があることは理解できますが、労災を隠さずに労働基準監督署に報告してください。また、労災保険を使わずに会社の資金で被災者に補償したとしても、報告しなければ労災隠しになってしまいますので注意してください。

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