定年退職後の再雇用まとめ
2016/10/11   労務法務, 労働法全般, その他

◆はじめに

9月28日にトヨタ自動車で事務職だった男性(63)が、定年退職後に同社の再雇用において清掃業務を提示されたことは不当であるとして、名古屋高裁は一審判決を一部変更し、約120万の賠償を命じました。
(参考 日本経済新聞

また、平成24年には、長年労働組合の役員であった男性に対して、継続的雇用制度の選定基準を恣意的に適用し、再雇用を行わなかったことは客観的に合理的な理由を欠くとして、会社側の上告を棄却した最高裁判決が下されました。
(PDF 近時の労働判例

高齢化が進む今日、定年退職者の再雇用を視野に入れることは企業にとって重要となってきます。
そこで今回は、再雇用制度についてまとめました。

◆定年後再雇用制度とは?

定年後再雇用制度とは、定年によって一度退職した後、もう一度同じ会社で再雇用する制度のことをいいます。
定年退職後の再雇用については、高年齢者雇用安定法で義務付けられています。

◆高年齢者雇用安定法について

では高年齢雇用安定法とは、どのような法律なのでしょうか。
高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(通称 高年齢者雇用安定法)は、1971年に高年齢者の安定した雇用の確保、再就職の促進を行うことによる雇用機会の平等を目的として制定されました。
その後何度か改正を経て、2012年に改正高年齢者雇用安定法が成立しました。

◆改正高年齢者雇用安定法のポイント

改正高年齢者雇用安定法では次の点が主なポイントとなっています。

1.継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止

定年後再雇用、いわゆる継続的雇用制度の対象となる労働者の基準を定めることができなくなったため、継続雇用を希望する全ての人に、65歳までの再雇用が義務化されました。
もっとも、平成37年3月までは、猶予措置が採られており、労使協定によって継続的雇用制度の基準を定めている場合には、老齢厚生年金の受給開始年齢に達した以降の従業員を対象に、基準を引き続き利用することができます。

なお例外として、

1)心身の故障のために業務に堪えられないと認められる場合
2)勤務状況が著しく不良で、引き続き従業員としての職責を果たし得ない場合
3)就業規則に定める解雇事由または辞職事由(年齢に係るものを除く)に該当する場合

には、希望者の雇用を継続しないことも出来ます。

2.継続雇用制度の対象者を雇用する企業の範囲の拡大

退職後の継続雇用先は原則として自社内でしたが、子会社・関連会社、兄弟会社などのグループ企業(特殊関連事業主)にまで範囲が拡大されました。

3.義務違反の企業名の公表を導入

今までは、高年齢者雇用確保措置(定年の引上げ、継続雇用制度の導入、定年の定めの廃止)を講じていない企業に対して罰則は設けられていませんでした。
しかし改正法では、当該措置の実施の勧告を受けたにもかかわらずそれに従わなかった場合には、厚生労働大臣がその旨を公表することが出来るようになりました。

なお、勧告はハローワーク等による個別指導を実施し、改善されない場合に実施されます。

(出典 厚生労働省
(出典 厚生労働省
(引用 改正高年齢者雇用安定法のポイント
(PDF 「高年齢者雇用安定法」改正のポイントと企業の実務対応策

◆今後企業が行うべき対応

今回の改正によって、企業側も再雇用を行う体制を整えていくことが必要となります。
特に以下の点を検討することによって、再雇用におけるトラブルを防げるでしょう。

1.就業規則の見直し・変更、周知

まず、①定年年齢が65歳以上、②希望者全員を65歳以上まで継続雇用する制度を導入している、③定年制を採用していない、のいずれかにあたる場合には、就業規則を変更する必要はありません。
上記以外の場合には、就業規則を見直さなければなりません。
また就業規則を見直した場合には、その旨を社員に周知させ、再雇用の機会を与える必要があります。

次に、再雇用者に適した職務内容の割り当てが重要となります。
前述した、再雇用を行わない例外的事由を除いて、希望者は原則として再雇用の対象となります。
そこで、トラブルが起きにくい業務を担当させることも一つの解決策となります。

2.継続雇用対象者との雇用契約

継続的雇用制度の下では、定年に達した場合にそれまでの雇用関係は解消されて、新たな雇用契約が締結されることになります。
そこで年齢や能力に応じた新たな賃金体制や人事評価の見直しを行い、適正な労働条件を設定する必要があります。

その条件に基づいて、対象者と十分な話し合いのもとに再び雇用契約を締結することになります。
また、定年直前に再雇用制度を提案するよりも、定期的に話し合いの場を設け、定年後のビジョンや勤務形態、勤務年数等の希望を聞くことで、企業にとってもより適切な人事戦略を行うことが出来ます。

3.幅広い雇用制度の構築

正社員だけでなく、パートタイム労働や契約社員、嘱託など様々な雇用形態を定めておくと、より再雇用対象者の希望に沿った雇用を提供することが出来ます。
もっとも勤務時間、日数によっては対象者は社会保険や雇用保険へ加入することが出来なくなりますので、その場合にはその旨を事前に伝える必要があるでしょう。

また、関連会社への雇用も認められるようになりましたので、関連会社への雇用についても整備を行っておくと良いでしょう。

(参考 定年後の継続雇用制度をどう設計する?

◆さいごに

労働人口は2015年から2030年の間に、約1000万人が減少すると推移されています。
一方で65歳以上の高齢者労働人口は300万人増加するとの見込みとなっています。
(出典 総務省

そのような中で再雇用という選択肢は、企業にとっても雇用者にとっても避けては通れない問題といえるでしょう。
確かに若い労働力は企業の拡大に直結します。
しかしながら、「適材適所」という言葉があるように、高齢者の経験や能力を生かすことの出来る労働環境であれば、企業力を高めていくことは十分可能です。
企業にとってはいかに高齢者をプラスの価値として位置づけられるか、これが今後の大きな課題となってくるでしょう。

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