法的整理・私的整理まとめ
2016/10/05   事業再生・倒産, 倒産法, その他

はじめに

 現在、エアバッグのリコール(回収・無償修理)問題で経営危機に陥っているタカタのスポンサー選定が大詰めを迎えている。スポンサー決定には総額1兆円にも上るリコール費用を肩代わりしている自動車メーカーの意向が強く、スポンサーと自動車メーカーの間で再生手法を巡って法的整理か私的整理かで対立している。そこで、法的整理と私的整理とはどのようなものかまとめてみた。

私的整理・法的整理とは

 裁判所の関与の下で法令に基づいて行われる倒産手続のことを「法的整理」といい、裁判外で行われる倒産手続のことを「私的整理」という。
 法的整理には、事業の再建を目的とする民事再生・会社更生と、事業の解体を目的とする破産・特別清算がある。株式会社については、再建の見込みのない場合には、破産手続または特別清算手続になる。特別清算手続は簡易な倒産処理手続であるので、債権者や経営者の間で清算処理についてある程度の合意ができている場合、あるいは、破産管財人による財産収集の必要がない場合に選択される。再建の見込みのある場合には、会社更生又は民事再生の手続が選択される。比較的規模の大きい株式会社については、会社更生手続が選択される。
私的整理・法的整理とは(出典 法人・会社の倒産・破産ネット相談室)

私的整理を利用するメリット・デメリット

 私的整理手続のメリットとしては①整理の対象とする債権者を特定することができ、民事再生のように一般の債権者(仕入先、従業員等)を倒産手続に巻き込まず、対象外の債権者への弁済を停止する必要がないことから、企業の信用棄損を最小限に抑えることができ、関係者からの協力や取引関係を維持しつつ会社の再建を目指すことが可能なこと②手続き費用の軽減、③手続きが迅速、④倒産の社会的認知を避けることができる、などがある。
 デメリットとしては①私的整理の場合、債権者全員の同意が必要で、同意が得られなければ手続を成功させられないというデメリットがある。②手続きの透明性・公正性が法的整理に比べたら低いこと、③税金処理が不明確であることもデメリットとしてあげられる。

法的整理を利用するメリット・デメリット

 法的整理手続のメリットとしては、私的整理ではデメリットとして指摘されるところが該当する。すなわち、①対象債権者全員の同意が不要、②手続きの透明性や公平性が高い、③税金の処理が明確なことである。
 デメリットとしては私的整理であげられたメリットの逆で、①すべての債権者を対象にする必要があること、②手続きが厳格で遅いこと、④会社の信用を失うこと、などである。
メリット・デメリット(出典 アビーム法律事務所)
メリット・デメリット(出典 BUSINESS LAWYERS)

 私的整理か法的整理か、どちらを選択するかの基準としては、債権の見通しがあることとともに、法的整理による再建よりも、私的整理で債権放棄を実施し事業を継続させたほうが多くの回収を見込める場合には私的整理が選択される。
 なおこの視点は法的整理のうちどれを行うか選択する基準にも使用される。すなわち、再建型手続を選択するには再建の見通しがあって、清算型手続である破産・特別清算をするよりも再建型手続である民事再生・会社更生をしたほうが多くの回収を見込める場合に再建型手続きが選択される。
私的再生か法的再生か選択の基準(出典 よくわかる事業再生)
倒産処理手続の選択(出典 関西大学法学部教授・栗田隆のOpen University)

私的整理に利用される準則・裁判外手続

 私的整理には、公平性や透明性に問題があるというデメリットがあるため、一定のルールや準則で行われる場合が多い。その準則・ルールとして私的整理に関するガイドライン、事業再生ADR、中小企業再生支援協議会による再生支援事業がある。
 私的整理に関するガイドラインとは法的手続を使わず債権者と債務者との合意に基づき、債権放棄などを行うための手続規定である。
私的整理に関するガイドライン(出典 よくわかる事業再生)
 事業再生ADRとは事業再生に関する紛争を、訴訟や法的倒産手続のように裁判所による強制力を持った紛争解決の手続を利用することなく、当事者間の話し合いをベースとして解決しようとする手続のことである。
事業再生ADR(出典 よくわかる事業再生)
 中小企業再生支援協議会とは、地域の中小企業の再生支援を目的に、産業活力再生特別措置法に基づき、経済産業省からの委託を受けて商工会議所・産業支援センター・産業振興センター等の機関内に設置されている公正中立な支援機関。
中小企業再生支援協議会(出典 よくわかる事業再生)

今回対立しているポイント

 スポンサー候補は偶発債務を背負う出資を避けたい意向である。そこで法的整理のうち再建型の手続きを利用すれば偶発債務を負担せずに済むという狙いがある。
民事再生の特徴として以下のものがある。
 ①経営者の地位に変更がないこと
 民事再生は、再生債務者自身が再建を進める手続であるから、手続が開始されても原則として経営陣は引き続き経営を続けることができる。ただし、東京地方裁判所の運用では、重要な行為を行うに際し監督委員の同意が必要となる。

②監督委員の承認が必要なこと
 監督委員とは裁判所が選定した委員のことで、再生債務者の業務を監督し、重要事項の決定を行う場合の同意権を有している。重要な行為を行うに際し監督員の同意を必要とすることで、手続に対する債権者の信頼を確保し、企業の再建を円滑に進めることが可能。

③担保権の行使ができること
 担保権の実行により事業継続に必要な資産が換価されて再建が困難になるような場合に一定期間権利行使を中止することはあるが、担保権行使そのものを制限する規定はなく、担保権者は担保権の行使が可能。

④従業員の雇用が維持されること
 雇用関係については直ちに従業員の雇用関係が失われるわけではなく、未払賃金についても一般優先債権として支払いは可能。ただし、再建過程では一層の合理化は不可避であり、リストラの一環として解雇となる可能性もある。

⑤債権調査・確定制度があること
 再生債権者が届出をした債権について、再生債務者及び他の債権者の認否・調査を経て確定する手続と、再生債権者が届出をしなくても再生債務者が自認する手続があり、これらの債権のみが再生債権として認められる。
認められなかった債権は失効するため、スポンサー企業は偶発債務や簿外債務の懸念を取り除き、リスクを回避することができる。

⑥破産への移行手続があること
 決議に足る再生計画案作成の見込みがないときや再生計画案が認可されないとき、再生債務者が再生計画の履行を怠ったときなどには、裁判所が裁量で破産に移行できることになっている。
 この⑤によって、偶発債務の懸念を取り除けるためにスポンサー候補としては法的整理によって再生を図りたい意向のようである。
民事再生の特徴(出典 よくわかる事業再生)

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