訴訟における証拠収集処分等まとめ
2016/09/19   訴訟対応, 民事訴訟法, その他

 

証拠の所持者がその証拠の提出に協力的であるような場合

1.手段


この場合に有用と思われる手段としては、以下のようなものが挙げられる。

(1)提訴前照会(132条の2)
訴え提起前、訴えようとする人間が訴えたい人間に必要な事項を書面で回答するように問い合わせて確かめる手続をいう。

(2)調査嘱託(186条)
訴え提起後、訴訟で必要な資料を収集したい当事者が、その旨を裁判所に申し立て、裁判所がその資料をもつ団体等に調査を依頼して任せる手続をいう。

(3)文書送付嘱託(226条)
訴え提起後、ある文書を証拠として利用したい者が、その旨を裁判所に申し立て、裁判所がその文書の所持者に対してその文書の送付を依頼して任せる手続をいう。

(4)検証物送付嘱託(232条、226条)
訴え提起後、裁判官が五官の作用で性状を検査した物を証拠として利用したい者が、その旨を裁判所に申し立て、裁判所がその検証物の所持者に対してその検証物の送付を依頼して任せる手続をいう。

(5)当事者照会(163条)
訴え提起後、口頭弁論準備のために、裁判所を介さず、当事者間で直接に必要な情報を相手方に書面で照会できる手続をいう。

 

2.各手段の手続き及び注意事項


(1)提訴前照会
・訴えようとする人間が訴えたい人間に対して、4ヶ月以内に、裁判における主張・立証の準備に必要であることが明らかな事項を書面で回答するように問い合わせて確かめる(132条の2第1項、「予告通知」という)。

※1 照会することができない事項は、当事者照会(163条各号、後述参照)における除外事由(132条の2第1項1号)、相手方や第三者の一定の私生活上の秘密事項や営業秘密事項(同項2号・3号)等である。
※2 予告通知の書面には、「請求の要旨」及び「紛争の要点」を記載しなければならない(132条の2第3項)。

(2)調査嘱託
・訴えを提起する。なお、対象となる団体は、官庁若しくは公署、外国の官庁若しくは公署、学校、商工会議所、取引所その他の団体である。

※1 裁判所の職権でも行われうる。
※2 調査結果を証拠とするには、裁判所がこれを口頭弁論で顕出して当事者に意見陳述の機会を与えれば足り、当事者の援用を要しない(最一小判昭45.03.26民集24-3-165(pdf))。

(3)文書送付嘱託
①訴えを提起する。
②文書の所持者への文書送付依頼を裁判所に申し立てる。

※ 裁判所の所有する文書も対象となる(「文書提示の申出」又は「記録の取寄せ」という)。

(4)検証物送付嘱託
上記(3)文書送付嘱託と同様の手続となる。

(5)当事者照会
・訴えを提起する。但し、以下の要件を満たす必要がある。
 -訴訟係属中であること
 -主張・立証の準備に必要な事項を対象とすること
 -書面であること(民事訴訟規則84条参照)
 -相当の期間を定めること

【照会することができない事項(163条各号)】
 -具体的又は個別的でない照会(1号)
 -相手方を侮辱し、又は困惑させる照会(2号)
 -既にした照会と重複する照会(3号)
 -意見を求める照会(4号)
 -相手方が回答するために不相当な費用又は時間を要する照会(5号)
 -証言拒絶事由(196条、197条)と同様の事由がある事項についての照会(6号)

※当事者照会は、当事者間での訴訟関係上の行為であり、回答しないことが当然に訴訟に影響をもたらすことにはならず、不回答に対する法律上の制裁はない。しかし、その事実を弁論で指摘することで、弁論の全趣旨等を通じ、不回答の事実を相手方の不利益な訴訟資料として利用することができる。

 

証拠の所持者がその証拠の提出に非協力的であるような場合


1.手段


 この場合に有用と思われる手段としては、以下のようなものが挙げられる。
(1)提訴前証拠収集処分(132条の4)
訴え提起前、裁判時に主張・立証のために必要な証拠の収集を裁判所に求める手続をいう。

(2)証拠保全(234条)
訴え提起の前後を問わず、証拠調べが困難になるおそれがある証拠につき、あらかじめ証拠調べを行い、裁判で利用するためにその結果を確保する手続をいう。

(3)文書提出命令(223条)
訴え提起後、ある文書を証拠として利用したい者が裁判所に申し立て、裁判所がその文書の所持者に提出を命じる手続をいう。

(4)検証物提示命令(232条、223条)
訴え提起後、裁判官が五官の作用で性状を検査した物を証拠として利用したい者が裁判所に申し立て、裁判所がその検証物の所持者に提出を命じる手続をいう。

(5)具体的態様の明示義務(特許法104条の2等)
特許権又は専用実施権の侵害等に関する訴訟において、権利者が主張する権利の侵害行為を否認するには、相手方は、自己の行為の具体的態様を明らかにしなければならない手続をいう。

(6)書類提出命令(特許法105条等)
特許権又は専用実施権の侵害等に係る訴訟において、侵害行為を証明したり、侵害行為により生じる損害を計算したりしたい者が、その旨を裁判所に申し立て、裁判所が必要な書類の提出を命じる手続をいう。

(7)秘密保持命令(特許法105条の4等)
特許権又は専用実施権の侵害等に係る訴訟において、営業秘密を開示されたくない者が、その旨を裁判所に申し立て、裁判所がその営業秘密を訴訟で使う目的以外で使用してはいけない旨、又はその営業秘密についての命令を受けた者以外に開示してはいけない旨、を命じる手続をいう。

 

2.各手段の手続き及び注意事項


(1)提訴前証拠収集処分
①提訴前照会と同様、予告通知を行う。
②証明すべき事実を特定して申し立てる(132条の6第5項、180条1項)
②以下の要件を満たしていることを疎明すること(民事訴訟規則153条3項、52条の5第6項参照)
 -提訴後に立証することの必要性が明らかであること
 -申立人が自ら証拠を収集することが困難であること

※要件を満たしていても、相当でないと認められるときは、処分されず(132条の4第1項ただし書)、処分命令後に相当でないと認められたときは、処分が取り消されうる(132条の4第4項)。

【処分の種類(132条の4各号)】
・文書の送付嘱託(1号)
・官公署等に対する調査嘱託(2号)
・専門家に対する意見陳述嘱託(3号)
・現状調査(4号)

(2)証拠保全
企業間訴訟で活用が増加、証拠保全について
知的財産権に関する保全命令の申立てについて
民事証拠保全手続の概要(pdf)

(3)文書提出命令
①訴えを提起する。
②書面によって申し立てる。但し、以下の要件を満たす必要がある(221条1項各号、民事訴訟規則140条1項)。
 -文書の表示
 -文書の趣旨
 -文書の所持者
 -証明すべき事実
 -文書の提出義務の原因を明らかにすること

※1 文書の表示や文書の趣旨を明らかにすることが著しく困難である場合には、文書の所持者がその申立てに係る文書を識別できる事項を明らかにすれば足りる。
※2 法令により交付を求めることができるもの、一般に入手が容易とみられるもの等についてはすることはできない(221条2項)。

【提出が義務付けられる文書(220条1~3号)】
 -当事者が訴訟において引用した自ら所持する文書(1号)
 -挙証者が文書の所持者に対しその引渡し又は閲覧を求めることができるとき(2号)
 -文書が挙証者の利益のために作成され、又は挙証者と文書の所持者との間の法律関係について作成されたとき(3号)

【提出を命じることができない文書(4号イ~ホ)】
 -文書の所持者又は文書の所持者と196条各号に掲げる関係を有する者についての同項に規定する事項が記載されている文書(イ)
 -公務員の職務上の秘密に関する文書でその提出により公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるもの(ロ)
 -197条1項2号に規定する事実又は同項3号に規定する事項で、黙秘の義務が免除されていないものが規定されている文書(ハ)
 -専ら文書の所持者の利用に供するための文書(国又は地方公共団体が所持する文書にあっては、公務員が組織的に用いるものを除く)(ニ)
 -刑事事件に係る訴訟に関する書類若しくは少年の保護事件の記録又はこれらの事件において押収されている文書(ホ)

※当事者が文書提出命令に従わないとき、あるいは、相手方の使用を妨げる目的で提出義務がある文書を滅失させ、その他これを使用することができないようにしたとき、当該文書の記載に関する相手方の文書の性質、趣旨、成立に関する主張が真実と認められうる(224条1項、2項)。また、相手方が当該文書の記載に関して具体的な主張をすること及び当該文書により証明すべき事実を他の証拠により証明することが著しく困難なときも同様である(同条3項)。

(4)検証物提示命令
上記(3)文書提出命令と同様の手続となる。

(5)具体的態様の明示義務
以下が要件となる。
 -特許権又は専用実施権の侵害等に関する訴訟であること
 -相手方が権利者の主張する権利の侵害行為を否認しようとすること

※ 営業秘密が含まれている場合や主張すべき理由が何もないような場合等、「相当の理由」がある場合、相手方は、明示義務を負わない。
具体的態様の明示義務についての用語を詳しく説明します。
逐条解説 特許法104条の2(具体的態様の明示義務)

(6)書類提出命令
・侵害行為を証明したい旨や侵害行為により生じる損害の計算したい旨を裁判所に申し立てる。但し、特許権又は専用実施権の侵害等に係る訴訟である場合に限られる。侵害行為の立証に必要な検証目的での提出についても、同様である。

※1 営業秘密に属する文書である等、書類の提出を拒むことについて「正当な理由」があるとき、この命令は発せられない。
※2 民事訴訟法220条の文書提出命令の特則であるため、同条の要件を満たさなくても、特許法105条等の要件を満たせば、文書提出命令は可能である。
文書提出命令に係る特則規定について(pdf)

(7)秘密保持命令
・以下の事項を記載した書面で申し立てる。但し、特許権又は専用実施権の侵害等に係る訴訟である場合に限られる。
 -秘密保持命令を受けるべき者
 -秘密保持命令の対象となるべき営業秘密を特定するに足りる事実
 -以下に掲げる疎明事由に該当する事実

【疎明事由】
☑ 既に提出され若しくは提出されるべき準備書面に、当事者の保有する営業秘密が記載され、又は既に取り調べられ若しくは取り調べられるべき証拠の内容に当事者の保有する営業秘密が含まれること
☑ 営業秘密が訴訟追行の目的以外の目的で使用され、又は営業秘密が開示されることにより、営業秘密に基づく当事者の事業活動に支障を生ずるおそれがあり、これを防止するため、営業秘密の使用又は開示を制限する必要があること

※秘密保持命令に違反した者には刑事罰の制裁がある(特許法200条の2第1項)。
秘密保持命令についての用語を詳しく説明します。
秘密保持命令の申立てについて

 

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