契約書における裁判管轄規定の意味まとめ
2016/09/12 契約法務, 民法・商法, その他
契約書における裁判管轄規定の意味
契約書の最後の方に書かれている、訴訟時の管轄裁判所。何気ない文章で一文程度で書かれているため、あまり気にかからないかもしれない。しかし、油断していると思わぬコストやリスクを背負うことになる。
一般的な管轄
1.管轄については民事訴訟法第4条から第22条に規定されている。一般的な管轄としては①普通裁判籍(4条)と②特別裁 判籍(5条)がある。
2.例えば、東京在住のAが、大阪で福岡在住のBに車で轢かれたとする。この時AはBをどの裁判所に訴えられるか?
この場合、4条1項の普通裁判籍により、「被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所」に管轄がある。そしてBは福岡在住
↓
普通裁判籍は福岡地方裁判所になる
一方でこの訴えの性質はAが轢かれて怪我をしたことによる損害賠償の請求であるから、これは「財産権上の訴え」(5条1号)にあたる。
したがって「義務履行地」を管轄する裁判所が特別裁判籍を持つことになる。そして義務履行地は民法454条により「債権者の住所」になる。したがってこの場合、特別裁判籍を有するのは債権者、Aの住む東京の裁判所、東京地方裁判所ということになる。
またBの行為は不法行為(民法709条)に当たり、5条9号により不法行為の地である大阪を管轄する大阪地方裁判所も特別裁判籍を有する。
↓
特別裁判籍は東京地方裁判所、大阪地方裁判所
そして、Aは福岡、東京、大阪のどれかを任意に選択して裁判を起こすことができる。これを管轄が競合するという。
特殊な管轄
特殊な管轄として注意すべきは専属管轄と専属的合意管轄である。
1.専属管轄
専属管轄は民事訴訟法が事件の特殊性等の理由により特定の裁判所に対してのみ訴えを認めると規定しているものであり、6条、6条の2がこれに該当する。
2.専属的合意管轄
専属的合意管轄は契約当事者がこの裁判所のみに訴えることができるようにしようという契約によって決まる管轄であり、専属管轄とは意味が全く異なる。
民事訴訟法11条は第1審のみ合意による裁判管轄の決定を認めている。
専属的合意管轄条項が契約書にあると、それで示された裁判所に対してしか訴えることができない。そのリスクはたとえば、北海道の企業と沖縄の企業が契約書で専属的合意管轄を札幌地方裁判所に決めたとする。そうすると沖縄の企業は当事者や証人として出廷する際、わざわざ北海道まで行くことになり金銭的、時間的コストがかかってしまうのである。
移送とは
最初の例でAは3つのどれかを選択して訴えられると述べたが、Aが訴えた裁判所とは異なる裁判所で裁判がされることもある。それが移送という制度である(17条)。
1.裁量的移送
訴訟の著しい遅滞を避け、又は当事者間の衡平を図るため必要があると認めるとき移送することができるとしている。当事者の移送の申し立てによってされる場合と裁判所が職権で行う場合がある。
2.必要的移送
また原則として必ず移送される必要的移送(19条)は職権では行われず、当事者の申し立てと相手方の同意を要するものである。
3.専属的合意管轄における移送
なお専属的合意管轄がある場合も移送の申し立てが可能ではある。しかし、提起された訴訟の中身そのものではなく管轄を争うとなるとさらに余分な時間、金銭面でのコストがかかってしまう。したがって契約書の段階でもその意味を考えてチェックすることが肝要である。
管轄合意の意味 専属的合意と付加的合意
契約書で管轄について合意した場合でも必ずしも専属的合意管轄の定めになるとは限らない。契約書全体の解釈により、以下のどちらかに認定される。
①専属的合意
②付加的合意
付加的合意とは合意により訴えを提起できる裁判所の選択肢を増やすものである。
あくまで契約書全体の解釈によってどちらの合意としての性質を有するかが決定されるので専属的合意管轄を設定したい場合は「当該裁判所を専属的合意管轄裁判所とする」や「本件契約に関する裁判の管轄権は○〇裁判所に専属する」といったように「専属」である旨を明示した表現を使うべきである。
もっともこの場合も契約書全体の趣旨を勘案して付加的合意と認定される可能性もある。ただ「○○裁判所を管轄裁判所とすることに合意する」という記載に比べれば、専属的合意管轄と認定される可能性は高まる。
合意管轄条項と移送申し立て(参考判例)
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