花畑牧場が従業員側と和解/争議行為の主体について
2022/03/23   労務法務, 労働法全般

はじめに

 タレントの田中義剛氏が社長を務める「花畑牧場」(北海道中札内村)でベトナム人従業員が待遇改善を求めストライキを起こし、会社側との対立が続いていた問題で和解が成立していたことがわかりました。会社側が要求を受け入れたとのことです。今回は労働組合法の争議行為について見ていきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、花畑牧場では従来従業員寮の水道光熱費は月7千円であったところ、昨年10月以降値上げされ今年1月には約2倍になっていたとされます。これを受けベトナム人従業員約40人が待遇悪化に抗議して、1月26日から十勝第2工場でストライキを起こしていたとのことです。同社ではストライキ開始時に労組がなく、会社側は正当なストライキに当たらず職場放棄と主張し、ベトナム人従業員3人に1人あたり50万円の損害賠償を請求しておりました。また田中社長と従業員との話し合いの音声ファイルが意図的に編集され報道されたとして名誉毀損容疑などで刑事告訴も行われていたとされます。

 

労働三権と労働組合法

 憲法28条では労働者の労働三権を保障しております。労働三権とは、労働者が団結して労働組合を結成する権利(団結権)、労働者が会社と団体交渉をする権利(団体交渉権)、労働者が団体で行動する権利(団体行動権)の3つを言います。団体行動は争議やストライキとも言います。これを受けて労働者が使用者と対等の立場で交渉できるよう労働組合法が置かれております。労働組合法では労働条件の改善や向上を目的として2人以上の労働者が集まれば労働組合を自由に結成することができるとしております(2条)。また労働組合では人種、性別、宗教など身分に関わらず何人でも加入でき、少なくとも年1回は総会を開催することを要し、ストライキ決行は組合員の過半数の同意が必要とされております(5条2項各号)。

 

不当労働行為

 労働組合法では上記の労働三権保障の実効性を確保するため使用者の労働者に対する一定の行為を不当労働行為として禁止しております(7条)。まず組合員であることを理由とする解雇その他の不利益取り扱いが禁止されます(同1号)。組合員に加入しようとしたこと、結成しようとしたこと、組合としての正当な行為をしたこと、加入しないことを雇用条件とすることも同様です。正当な理由のない団体交渉の拒否が禁止されます(同2号)。形だけ応じても誠実に交渉を行わない場合も同様です。労働組合の運営等に支配介入したり経費援助することも禁止されます(同3号)。そして労働委員会への申立等を理由とする不利益取り扱いも禁止されます(同4号)。不当労働行為の救済申立や労働委員会により調査や審問に対する発言、証拠提示などに対して不利益な取り扱いをすることも同様です。

 

団体交渉等の当事者

 上記団体交渉や団体行動は原則として労働組合として行うことが原則と言えます。それでは労働組合が存在しない会社では団体交渉や団体行動はできないのでしょうか。この点、憲法28条は勤労者の権利を保障すると規定しており「労働組合」と限定していないことから一時的に組織された労働者の集団であってもこれらの権利の当事者となり得ると言えます。しかし労働組合法の不当労働行為の救済制度の適用に関しては争いがあり、労働協約締結の当事者を労働組合と規定しているなど(14条)、基本的に労働組合の存在を前提とした規定の仕方をしていることから、労働組合が無い場合は適用されないとの意見があります。逆に7条2号では「労働者の代表者」と規定していることから労働組合が無くとも適用されるとの説も存在します。

 

コメント

 本件で花畑牧場では、従業員寮の光熱費を一方的に値上げしたことに対して従業員側がストライキを決行しましたが、同社では労働組合が無かったことから正当なストライキに当たるかが問題となっていたとされます。上記のように労働組合法の適用に関しては争いはあるものの、労働三権に関しては労組がなくとも主体になり得ると考えられます。会社側もそれを認め、一連の不適切な対応について謝罪したとのことです。以上のように会社と労働者はできるだけ対等の立場で交渉できるよう法令が置かれており、労働条件を一方的に改悪したり、正当な理由なく団体交渉を拒否することなどが禁止されております。また従業員側のそれらの行為に対して感情的に名誉毀損などで告訴することもイメージ悪化を招くこととなり適切ではないと言えます。今一度これらの労働法令について確認し、社内に周知することが重要と言えるでしょう。

 

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