東京高裁が育休明け解雇を無効、マタハラ規制について
2021/03/08   労務法務, 労働法全般, その他

はじめに

神奈川県内の保育園に勤めていた30代の女性が育休から復職直前に解雇されたのは「マタハラ」にあたるとして解雇無効の確認や未払い賃金、慰謝料などの支払いを求めていた訴訟の控訴審で4日、東京高裁は解雇を違法無効としました。慰謝料は30万円とのことです。今回はマタハラへの規制について見ていきます。

事案の概要

 報道などによりますと、原告側の女性は2012年に社会福祉法人「緑友会」が運営する保育園に保育士として就職し、正規職員として勤務していたとされます。2016年に妊娠がわかり、2017年4月から産休に入っておりましたが、育休からの復職直前の2018年3月に同法人理事長から復職を拒否され同年5月9日に解雇されたとのことです。女性は園長に批判的な言動をしたとされ、法人側は職場環境を悪化させるような問題行動として解雇したと主張しておりました。一審東京地裁は解雇を無効としております。

マタハラとは

 マタハラ(マタニティハラスメント)とは、妊娠や出産、育休等に関して女性が職場で上司や同僚から精神的・肉体的な嫌がらせを受けたり、解雇や雇い止めといった不当な取り扱いをうけることを言います。妊娠を理由とする時短や休業の拒否、同僚からの陰口、古い価値観の押し付けなど様々な類型に分けられます。男女雇用機会均等法や労働基準法では、こういったマタハラは禁止され、事業者に一定の措置を講じることを義務付けております。以下具体的に見ていきます。

男女雇用機会均等法による規制

 男女雇用機会均等法9条によりますと次の行為が禁止されております。①婚姻、妊娠、出産を退職理由として予定する定めを置くこと、②婚姻したことを理由とする解雇、③妊娠、出産、産休・育休をしたこと等を理由とする不利益取り扱いが禁止され、また妊娠中および出産後1年を経過しない女性労働者に対する解雇は無効とされます。ただし事業者がこれらを理由とする解雇ではないことを証明したときは解雇は可能です(4項ただし書き)。また妊娠・出産等を理由とする不利益取り扱いであっても、適切な事業者からの説明があり、労働者が十分納得した上で同意している場合や、経営悪化等があり、不利益取り扱いを回避する合理的な努力がなされ、また人員選定も妥当である場合等では例外的に違法とならないとされます。

労働基準法による規制

 労働基準法64条の3~67条では産前産後休業などの母性保護措置が求められております。①妊産婦等を有害な業務に就かせることの禁止、②6週間以内に出産する予定のが請求した場合の就業の禁止、③産後8週間を経過しない女性の就業の禁止、④妊娠中の女性が請求した場合の軽易業務への転換、⑤妊産婦の請求による変形労働時間制を採る場合の法定労働時間超過の禁止、⑥生後1年に満たない生児を育てる女性が請求する場合の育児期間を与えることなどが挙げられております。この育児期間は1日に2回、各々少なくとも30分とされております。

コメント

 本件で原告側女性は2017年5月に出産しており、翌年5月に解雇されております。男女雇用機会均等法9条4項の規定が真正面から争点となった事例と言えます。法人側は原告女性の批判を職場環境を悪化させる問題行動であり、解雇に代わる有効な手段はなかったと主張しておりましたが、東京高裁は解雇に相当するような問題行動と評価することは困難とし退けました。以上のように出産後1年を経過しない女性の解雇は原則として無効となり、会社側が妊娠や出産等を理由とするものでないことを証明する必要があります。近年マタハラに対する規制強化の動きは強くなっております。どのようなことが禁止され、またどのような措置が求められているのかを今一度確認し周知することが重要と言えるでしょう。

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