東京地裁が金融庁の課徴金取り消し、インサイダー取引と課徴金手続きについて
2021/01/28 金融法務, 金融商品取引法, 金融・証券・保険

はじめに
画像処理関連会社「モルフォ」(千代田区)の取締役に対し、金融庁が出していた課徴金納付命令を不服として起こされていたい取消訴訟で26日、東京地裁は金融庁の納付命令を取り消していたことがわかりました。株式を購入した時点では業務提携が決まっていたとは認められないとのことです。今回は金商法のインサイダー取引と課徴金手続きについて見なおしていきます。
事案の概要
報道などによりますと、金融庁は東証マザーズに上場するモルフォの取締役が、同社が自動車部品メーカー「デンソー」と業務提携するとの非公開情報を得た上で自社の株式を購入し、金商法のインサイダー取引に当たるとして2018年12月に課徴金133万円の納付命令を出しておりました。同取締役は2015年8月に自社株を400株買い付けたとされ、業務提携の事実が公表されたのが2017年12月とされます。株価は公表後700円程度上昇しておりました。
インサイダー取引規制
インサイダー取引については以前にも取り上げましたが、ここでも簡単に触れておきます。金商法166条、167条では株式発行会社の役員等、投資判断に影響を及ぼす情報を容易に得られる立場にある者が、その情報が未公開のうちに株式取引を行うといったことをインサイダー取引として禁止しております。違反した場合には5年以下の懲役、500万円以下の罰金、両罰規定として法人に対しても5億円以下の罰金が規定されております(197条の2第13、207条1項2号)。また別途、インサイダー取引で得た経済的利益相当額の課徴金納付命令が出される場合があります(175条)。
インサイダー取引の要件
インサイダー取引の対象となる者は発行会社や公開買付会社の役員等やそれらの会社と契約を締結した者、またはこれらの者から直接情報を受け取った者とされます。そして対象となる情報は、新株発行や組織再編、業務提携、主要株主の異動、業績予想、その他投資判断に著しい影響を及ぼす事実です。それらの情報が公表される前の株式取引が禁止されます。公表とはTDnetによる開示、法定開示書類の公衆縦覧、報道機関2社以上に公表されて12時間経過を言うとされております。
課徴金手続きの流れ
課徴金納付命令の手続きは次のとおりです。まず証券監視委による調査によりインサイダー取引を認めた場合には内閣総理大臣と金融庁長官に勧告がなされます。金融庁長官により審判手続開始決定がなされ、開始決定書謄本が送達されます。ここで被審人は違反事実や課徴金の額について答弁書を提出し、公開の審判期日で意見陳述、審問、証拠調べがなされます。それを経て審判官が決定案を作成し金融庁長官に提出され、それに基づき課徴金納付命令決定します。この決定に不服がある場合は決定の効力発生日から30日以内に取消訴訟を提起することとなります。なお答弁書で違反事実を認める内容が記載されていた場合は審判手続きが省略されます。
コメント
本件で金融庁はモルフォとデンソーが業務提携を行うという未公開情報を得た上で取締役が自社株を購入したと判断しました。しかしこれに対し東京地裁は取締役が株式を購入した時点では未だ業務提携が決定していたとは認められないとし、金融庁の課徴金納付命令を取り消しました。同じく課徴金が取り消された事例として日本板硝子社の公募増資に絡む事件で裁判所は当該取引前後の株取引状況、情報伝達の内容や経緯、主幹事証券の内部事情、証券会社にとっての顧客の重要度など様々な事情を詳細に検討して判断しております。どのような場合にインサイダー取引となるかを社内で周知するとともに、実際に疑われた場合にはこれらの点を念頭に詳細に反論を組み立てていくことが重要と言えるでしょう。
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