副業を認める際の検討事項
2020/04/07   労務法務, 労働法全般

1.はじめに

2018年1月に、厚生労働省は、副業・兼業の促進に関するガイドラインを出しました。また、厚生労働省は、ガイドラインを出すのと同様のタイミングにて、モデル就業規則を改定し、労働者の遵守事項の「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと。」という規定を削除し、副業・兼業についての規定を新設しました。「厚生労働省では、「働き方改革実行計画」(平成29年3月28日 働き方改革実現会議決定) を踏まえ、副業・兼業の普及促進を図っています。」とホームページで明記していることから、厚生労働省も副業を認めることによって、柔軟な働き方が広まることを望んでいると考えられます。そして、この流れを受けて、副業解禁を打ち出した大手企業・メガバンクも出てきました。
しかし、2019年9月に行われた経団連による調査においては、副業・兼業を今後も認める予定のない企業の割合は50%強に上ったという結果が出ました。ガイドラインが出されてから1年半以上たってもなお副業を認める予定のない企業が半数以上にもわたるということから、副業の普及にはまだ壁があると考えられます。その原因として、副業解禁にあたって様々な検討事項があるからではないでしょうか。2019年9月に行われた経団連による調査を元に考えていくと、検討事項の1つとして、労働時間の取扱いの問題があげられるでしょう。また、過労死問題などが生じた際の法的責任の所在の問題やその他の手続きの問題も検討する必要がありそうです。その他、本業と競合してしまう問題や、本業のパフォーマンス低下の問題についても検討事項として考えられるのではないでしょうか。以下において、その問題点と解決策を考えていこうと思います。

※参照:
副業・兼業(厚生労働省)
モデル就業規則(厚生労働省、副業部分)
高まる関心、副業の課題は 過重労働への懸念も(北海道新聞)
アサヒビール、副業解禁 3千人規模 無給の副業休暇も(日本経済新聞)
みずほ銀行、10月に副業解禁(時事通信)
2019 年労働時間等実態調査 集計結果(19~20ページ)(経団連) 
    

2.副業と時間外労働との関係

労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する(労働基準法38条1項)、という定めがあります。このことにより、本業先の企業、副業先の企業ともに、労働時間を管理する必要に迫られることになります。例えば、通算した法定労働時間を超えた場合には、副業側の事業主が割増賃金を支払う必要があります。
ただし、本業先・副業先それぞれが、労働者の自社以外での労働時間を把握しなければならないという負担をなくすために、通算規定の削除を検討する動きも厚労省内で出てきています。この規定が削除されると、労働時間を細かく把握する必要はなくなります。
以上の点を考えると、現行法上の下では、労働者が自社以外で行っている労務時間の管理をする余力がない場合であれば、労働時間の規制がない業務委託という形式のみで副業を認めるというのが一つの方法であると考えられます。
※参照:
副業の残業時間管理、柔軟に 厚労省方針(日本経済新聞)
<働き方改革の死角>「副業の労働時間 合算せず」 企業の管理義務廃止案(東京新聞)

3.副業とその他法的問題との関係

・労災
過労死の認定に関しては、本業と副業の双方の労働時間を合算して判断するという制度が今年度に新設されることとなりました。この制度が新設されると、労災が生じたときに備えて、労働者が自社以外で行っている労務時間の管理をする必要が生じてきます。そこで、前述の2.で述べたのと同様に、労働時間の規制が生じない業務委託という手段でのみ副業を認めるという方法が考えられます。このようにすると、労災関連の紛争が生じた場合には、自社の労働時間のみで立証すればよいので、労災責任を免れやすくなると考えられます。
しかし、人事・法務の仕事の目的の1つとして、社員がよりよい健康状態でパフォーマンスを発揮することがあげられるのではないでしょうか。そのため、いくら労災責任を免れるとしても、労災が発生するような事態は防ぎたいと考えるでしょう。そこで、人事・法務担当者としては、社員に副業先で従事しようとする業務の詳細事項を提出してもらい、自社の業務との兼ね合いを考えて、労災が発生しかねないと判断した場合には、副業先での業務の量や内容を調整するよう助言することも、取りうる対策の1つであると考えられます。

・保険関係
雇用保険・健康保険・厚生年金の適用要件は事業所ごとに判断されることになります。
パターン1:本業先では要件を満たす、副業先では要件を満たさない→本業先の企業で加入
パターン2:本業先では要件を満たさない、副業先では要件を満たす→副業先の企業で加入
パターン3:いずれの企業でも要件を満たす→労働者が1つの加入先企業を選択
そのため、副業を認めている企業、もしくは今後検討している企業の人事・法務担当者は、自社の労働者がパターン1~3のどれに該当するかを把握する必要が生じます。そして、パターン3に該当した場合は、今後の手続きを煩雑化させないために、労働者がどちらの会社で保険を加入したいと考えているかについての意思を確認することが必要でしょう。

・本業との競合について
従業員の副業が、自社の事業や業務と競合している場合には、自社の情報や技術が競合先の企業に漏洩されるなどの問題が発生する懸念があります。モデル就業規則68条3項2号にも、情報漏洩の危険性が生じる場合にはその業務に就くことを禁止・制限できるとしています。これらのことを考えると、従業員の副業が自社の事業や業務と競合することによって、自社の利益が害されることを防止するためにも、副業の従事形態や業務内容などを把握して、競合していると判断した場合には、副業の従事形態や業務内容を変更してもらうように要請することが必要ではないでしょうか。

・本業のパフォーマンス低下について
本業のパフォーマンスが低下する原因には、様々な要因が考えられます。その主な要因として考えられるものとして、副業を行うことによって休息時間が十分に取れないことが挙げられるでしょう。そこで、労災の部分でも言及したように、副業の労務形態を把握して、本業のパフォーマンスに支障をきたさないようにコントロールすることが必要になるかもしれません。

※参照:
過労死ライン、副業の労働時間も合算し判断…来年度にも新制度(読売新聞)
副業の労災、本業と一体に 賃金・労働時間を合算(日本経済新聞)      
副業・兼業の促進に関するガイドライン(厚生労働省)
政府は副業推進。それでも広がらない理由(プレジデントオンライン)

4.コメント

企業の人手不足の問題が取り上げられている昨今においては、優秀な人材の確保ならびに外部への流出防止が課題として挙げられます。副業を認めることは、これらの課題を解決する方法の1つとして挙げられるでしょう。従事する副業の形態によっては、個人の名前で業務を請け負っていくこととなります。その結果、副業を認める企業では、採用活動にあたって、個人の力で仕事を請け負うことができるほどの優秀な人材を取ることができる確率が上がるでしょう。さらに、自身の能力を一企業にとらわれずに幅広く発揮し、スキルアップを図りたいなどの従業員が持つ希望を、副業を認めるという形で叶えることによって、優秀な人材が外部に流出することを防ぐことも期待できます。
また、2019年9月に行われた経団連による調査によると、副業を認めていたり副業を検討していたりする企業が、副業による効果で期待していることとして1番多く挙げられたことは、自社では提供できない仕事経験による能力向上やアイデア創出でした。このことから、副業を認めることによって、副業によって得たスキルを自社に還元したり、外部との人脈を上手に活用したりすることによって自社に新たな価値が創出されるといったことが期待できるのではないでしょうか。
他方で、自社の労働者が複数の企業で雇用されている場合、その労働者が自社以外のところでどのような職務に従事しているかを把握することが必要となります。そこで、副業を認めることによって期待できることを踏まえた上で、自社の人事・法務部の人員や体制に照らして、自社が把握して管理できる範囲内で、社員の副業を認めるのが現実的ではないでしょうか。
※参考:
19年の企業倒産件数、11年ぶりに前年上回る=東京商工リサーチ(朝日新聞)

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