東郷証券元役員に有罪判決、金商法の損失補填について
2020/02/17   金融法務, 金融商品取引法

東郷証券が顧客に損失補填をしたとされる事件で東京地裁は12日、元取締役の林泰宏被告(58)に対し懲役3年、執行猶予5年を言い渡していたことがわかりました。共犯とされたさくらインベストメント元取締役にも有罪判決が出ております。今回は金商法が規制する損失補填について見直していきます。

事件の概要

 報道などによりますと、東郷証券は2016年7月~2019年1月、外国為替証拠金取引(FX)で生じた顧客の損失を補填していたとして東京地検特捜部が昨年6月20日に林被告やさくら社役員らを逮捕しておりました。同社は顧客8人に計6900万円の損失を補填し、また他の顧客4人にさくら社に口座を開設させた上で差金決済取引の利益に偽装して役700万円を支払ったとされます。補填金はシステム会社への架空の外部委託費から捻出されていたとのことです。これによりさくら社では約2億900万円の法人税を免れたとも言われております。

金商法による規制

 金商法39条1項では、金融商品取引業者が顧客に与えた損失を補填することを禁止しております。市場における公正な価格形成を阻害し、投資者の信頼を損なうこと、また証券会社等の財務基盤を損なうことなどが理由とされております。違反した場合には3年以下の懲役、300万円以下の罰金またはこれらの併科となります(198条の3)。また顧客側は1年以下の懲役、100万円以下の罰金またはこれらの併科となっております(200条14号)。以下具体的に禁止行為を見ていきます。

禁止される行為

 取引業者側の禁止行為は①事前の損失保証の申し込みまたは約束、②事後の損失保証の申し込みまたは約束、③損失補填の利益提供となっております。顧客に対して予め損失は保証すると約束することや事後約束すること、実際に補填することが禁止されます。また顧客当人だけでなく第三者を介して補填することも該当します。そして顧客側の禁止行為は①事前に損失保証を要求し約束させること、②事後に損失保証を要求し約束させること、③約束により利益提供させることとなります。顧客側からの会社への要求行為が禁止されているということです。この場合、要求するだけでは足りず、実際に会社に約束させなければ該当しません。

例外規定

 上記のように顧客への損失補填は原則として禁止されますが、例外的に許容される場合があります。これは会社側の過失や事故によって顧客に損失を被らせてしまった場合です。具体的には①顧客からの注文内容を十分に確認せずに間違った取引等をした場合、②不適切な勧誘によってリスク等について誤認させた場合、③会社側の事務処理上のミスにより誤った取引処理をした場合、④システム障害等により適切な処理ができなかった場合などが挙げられております。これらの場合の損失補填は金融庁長官に証明する書面を提出し確認を受ける必要があります(39条3項但し書き、7項)。

コメント

 本件で東京地裁は、東郷証券の不適切な勧誘に苦情が相次いでおり、林被告は表沙汰になることを防ぐために損失補填を首謀したと指摘し、また脱税した資金を関連会社の事業や生活費に当てていたとして有罪判決を言い渡しました。適切な金融商品の説明・勧誘を行わず、それによる被害を隠蔽する目的で行った行為は悪質であると判断されたのではないでしょうか。以上のように金融商品の取引は投資家の判断に基づく自己責任により市場が形成されます。その前提として取引業者は適切に勧誘することが求められております。また顧客側も会社側に対して損失の補填を要求することは違法となっております。売上や利益を追求するあまり強引な勧誘は行われていないか、適切にリスクを説明できているかを今一度確認しておくことが重要と言えるでしょう。

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