ゼネコン4社、独禁法違反で刑事告発へ
2018/03/29   コンプライアンス, 独占禁止法

1 はじめに

 公正取引委員会は、大手ゼネコン4社(大成建設・鹿島・大林組・清水建設)と担当者らを独占禁止法違反(不当な取引制限。3条、2条6項)の疑いで刑事告発(74条1項・2項)する方針を固めました。今回はこの事例を題材に、独禁法の基本を確認し、独禁法違反を引き起こさないために法務担当者のすべきことを検討したいと思います。

2 独占禁止法の概要

 独占禁止法(正式名称:私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)は、自由経済社会において、企業が守らなければならないルールを定め、公正かつ自由な競争を妨げる行為を規制しています。
 独占禁止法というと難解なイメージがありますが、条文の仕組みはシンプルです。3条で「私的独占」と「不当な取引制限」を禁じ、私的独占と不当な取引制限の定義がそれぞれ2条5項と6項に書かれています。3条違反について、89条1号に罰則規定があります。

 「入札」とは、請負工事などを受注する際、複数の業者が工事請負に関する見積もり価格を発注者へ提示し合い、その価格の優劣等で、発注者がどの業者に工事を発注するかを決める形式のことをいいます。入札は厳正な競争を行うことを目的としているものであり、競争の結果、適正な価格が決定されます。
 入札の際、入札に参加する企業同士が事前に相談して、受注する企業や金額などを決めることを「入札談合」といいます。入札談合がなければより安く発注できた可能性もあるため、入札談合は不当な取引制限の1つとして禁止されています。

3 事件の概要

 公取委と東京地検特捜部は昨年12月、独禁法違反容疑の疑いがある4社を家宅捜索(102条)しました。今年3月2日、特捜部は大成建設顧問元常務執行役員・大川孝容疑者と、鹿島土木営業本部専任部長・大沢一郎容疑者の2名を独禁法違反容疑で逮捕しました。2人は大林組・清水建設の担当者と共謀し、2014~15年ごろ、品川駅と名古屋駅の新設工事の受注企業を事前に決めるなどし、自由な価格競争を妨げた疑いが持たれています。
 大林組・清水建設は独禁法の課徴金減免制度(7条の2第10項~第13項)を利用していたため、両社の担当者は逮捕されず、在宅で捜査が進められているようです。 

4 法務部員として採るべき対策

 今回の事件では、担当者らが新設工事の受注企業について事前に決めていたと思われる点が、「取引の相手方を制限する」行為と判断された可能性があります。「不当な取引制限」については2条6項に定義がありますが、どのような行為が2条6項に該当するかを判断するのは難しいです。この点について、法的素養のある法務部員が営業部員と知識を共有するなどの方策が考えられます。
 また、独禁法遵守プログラムを企業ごとに策定するのも有効であると考えられます。例えば、今回の不正について自主申告した大林組はプログラムを策定しています。プログラムを①「許さない雰囲気」の醸成(統制環境)②リスクの評価と対応③「させない仕組み」の構築(統制活動)④適時的確な情報の伝達(情報と伝達)⑤監視と改善(モニタリング)の5種類に区分し、それぞれの中で具体的に何をするかを取り決め、HP上で公開しています。マニュアルを策定した後、実際に守ることができるかというのはまた別の問題ですが、マニュアルを策定することや、それを周知することでも、遵法意識の向上が見込めます。
 マニュアルの作り方については、ネット上に公開されている他企業様のものを参考にするほか、公正取引協会による作り方の手助け制度もあります。制度を利用するためには協会の会員となることが必要ですが、プログラム作成支援の他、各種講座への参加権、協会発行出版物割引などの特典を受けられます。

【企業法務ナビ内関連記事】
・法務NAVIまとめ:「独占禁止法コンプライアンスまとめ」
・法務ニュース:「独占禁止法違反行為 自主申告による減免制度」

【参考サイト】
・公正取引委員会―独占禁止法の概要を知ろう
        └不当な取引制限(入札談合)
        └独占禁止法違反事件の処理手続図
・建設業許可申請総合サイト:入札とは?
・大林組ホームページ:独占禁止法遵守プログラム
・公正取引協会:コンプライアンス

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