設置率5割超、第三者委員会について
2017/06/06 M&A, 戦略法務, 会社法, その他
はじめに
日経新聞電子版は3日、少数株主の利益を守る目的で第三者委員会を設置する被買収企業が増加しており、今年初めて5割を超えた旨報じました。買収に際して少数株主からの株式買取価格の引き上げを買収側に要求する例が増えているようです。今回は第三者委員会について見ていきます。
第三者委員会とは
第三者委員会とは、一般的に企業が法令違反等の不祥事を起こした場合設置される、企業とは独立した専門家等で構成される企業の諮問機関を言います。不祥事を起こした企業が内部で調査を行い再発防止策を提示しても、利害関係人や世間の目からは本当に十分な調査が行われたのか、再発防止策に実効性は有るのかといった疑問が持たれます。そこで企業の経営陣とは独立した外部の専門家で組織し、第三者の観点から調査し、防止策を策定することになります。これにより公正・中立な対策が講じられ、低下した企業イメージと信用性を早期に回復することが期待できます。
第三者委員会の要件
昨今第三者委員会を設置する企業は増加しておりますが、第三者委員会の要件や構成などについて規定した法令等はありません。どのような構成の委員会を組織するかは基本的には企業に委ねられていると言えます。しかしここで企業側に都合の良い人選をしてしまうと調査の実効性や社会の信頼性回復にはつながりません。日弁連は自主的な指針として「第三者委員会ガイドライン」を策定しております。以下具体的に内容を見ていきます。
日弁連のガイドライン
(1)第三者委員会の構成
日弁連のガイドラインでは第三者委員会は企業等から独立した委員のみで構成されるとしています。企業および不祥事と利害関係を有する者は委員になることができません。企業の顧問弁護士はこの利害関係を有する者に該当し、当該企業の業務を受任したことがある弁護士の場合はケースバイケースで判断されるとしています。委員の数は原則3名以上とし、関連法令、内部統制、コンプライアンス等に精通した者でなければならず、ケースによって学識経験者や公認会計士、ジャーナリストなども対象となるとしています。
(2)第三者委員会の調査指針
第三者委員会の目的は企業の社会的責任の観点から利害関係人に対する説明責任を果たすこととし、第三者委員会の調査対象は不祥事に関する事実関係のみならず、不祥事の経緯、動機、背景及び類似案件の存否、内部統制、コンプライアンス、ガバナンス上の問題点、企業風土等にも及ぶとしています。そして各種証拠を十分に吟味して自由な心証により事実認定を行い、疑いの程度を明示した灰色認定等も行うとしています。これは裁判のような厳格な証明が無ければ白という認定よりも柔軟なものと言えます。
(3)企業の協力
第三者委員会は受任に際して企業側に①企業が所有するあらゆる資料、情報、社員へのアクセスの保障、②従業員への委員会の調査への優先的な協力の命令、③必要な場合は調査を補助する事務局の設置を求めるものとしています。そして企業側から十分な協力が得られない場合や調査妨害があった場合はその状況を調査報告書に記載するとしています。
(4)第三者委員会の独立性と中立性
第三者委員会の独立性と中立性を確保するために調査報告書の起案権は第三者委員会に専属するとしています。報告書の草案を企業側が作るといったことはできないということです。そして調査により判明した事実とその評価が経営陣にとって不利なものであったとしても調査報告書に記載するとしています。また調査報告書提出前はその内容を企業側に開示しないとしています。調査の過程で収集した資料等の処分権限も委員会に専属するとしています。
コメント
近年企業が不祥事を起こした場合、まず第三者委員会を設置することが目立っております。昨年キュレーションサイトが問題となったDeNAも第三者委員会を設置したことは記憶に新しいと思われます。事案の究明や責任の所在、再発防止にとって利害関係を有さない第三者による調査は不可欠なものと言えます。またM&Aにおいても少数株主の株式買取価格決定に際して裁判所は第三者委員会の意見も重視しているところがあります。このように第三者委員会はあらゆる事案で不可欠の存在と言えますが、一方で経営陣の意向に沿う委員をメンバーとし経営陣の責任回避の手段にも利用されている面もあると指摘されております。不祥事やM&Aで第三者委員会を立ち上げる場合は日弁連のガイドラインを参考にし、中立性・独立性の高いメンバーを選ぶことが重要と言えるでしょう。
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