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2011/09/07 知財・ライセンス, 特許法, IT

カナダのWi-LAN、9社に特許侵害訴訟
カナダのWi-LANは、2011年9月2日、Apple、Hewlett-Packard、Dell、HTC America、京セラのKyocera InternationalおよびKyocera Communications、Alcatel-Lucent USA、Novatel Wireless、Sierra Wireless Americaの9社を相手に、テキサス州東部地区連邦地方裁判所に特許侵害訴訟の手続きを行った。CDMA、HSPA、Wi-Fi、LTEに関する技術の米国特許を侵害したというのが提訴の理由である。
Wi-LANは、2007年11月1日にも、Appleやソニーなど22社を相手にテキサス州東部地区連邦地方裁判所に特許侵害訴訟の手続きを行っている。このときは、Wi-Fi技術、DSLの電力消費に関する技術の特許侵害を理由としている。
さらに、Wi-LANは、2010年4月8日に明らかにされたところによると、Apple、Hewlett-Packard、Dell、Lenovo、ソニー、東芝、Acer、Motorolaなど各社を相手に、特許侵害訴訟を提起している。このときは、Bluetoothなどのワイヤレスシステムが、Wi-Fiなどの免許不要の周波数帯で作動する他のワイヤレスシステムと干渉を防ぐ技術の特許侵害を理由としている。
その他にも、Wi-LANは2002年に同社の特許の1つを侵害するワイヤレスネットワーキング技術を利用しているとしてRedline Communicationsを訴えるなど、Wi-LANにとって特許侵害訴訟は珍しいものではなくなっている。
Wi-LANってどんな企業?
今回は少しマニアックな内容になるが、先週のスマホの記事に引き続き今回も特許関係のニュースをレポートする。
Wi-LANはその名前からWi-Fiの親玉のような印象を与えるが、そうではなく、1994年に設立されたWi-FiやWiMAXなどの通信技術そのものをウリにしている企業で、ライセンス収入で成り立っている。対して、Wi-FiはWi-Fi Allianceという業界組織によって認証される規格である。
PCやルーターのメーカーは、Wi-LANのライセンス技術に基づいた無線装置を製品に組み込み、Wi-Fiの認証を受けて販売するという流れとなる。
特許料収入をメインに
このように、Wi-LANは特許料収入で成り立っているため、是が非でもライセンス契約を結ばなければならない。現在、大企業を含めた100社以上の企業とライセンス契約を結んでいる。
ただし、Wi-LANは普及している規格をターゲットにしているため、特許技術をライセンス契約なしに実施されてしまうリスクは高い。とくに大手メーカーは大きな販売網をもち、莫大な取引量となり、そのぶん特許料の支払いが負担になるため、特許技術を勝手に使用するおそれが高い。
このため、Wi-LANがライセンス料収入を得て企業として生き残っていくためには、大手メーカーなどに対し、特許技術に対しライセンス料を払うよう請求していかなければならない。そのためのツールとして、特許訴訟が重要な手段となっている。
規格普及と特許権
しかし、特許訴訟を乱発すると、規格の普及を阻害してしまうおそれもある。
特許権がうるさい規格は、その規格を用いた製品を作る際に当然ながらライセンス料がかさむし、製品を企画するたびに特許侵害がないか細心の注意を払わねばならない。そうなると、扱いにくい規格として、その規格の普及が下火となってしまい、消滅することも懸念される。
Wi-LANは普及規格をターゲットにするという経営戦略であるのに、その規格の普及を妨げてしまうことはWi-LANの収益を圧迫することになってしまう。このように、Wi-LANのビジネスモデル自体が矛盾をはらんでいるのである。
特許権をビジネスとして成り立たせるには
普及規格をターゲットにした特許ライセンス料収入ビジネスモデルに限らず、一般的に特許権料収入を確保するために特許権侵害訴訟をすることは、それにより、かえって自社の技術を用いた製品の普及を妨げてしまうというリスクをはらんでいる。自社技術により創出された市場のパイを他社に侵害されている場合に起こす特許侵害訴訟の場合にも、同様のリスクがある。
このリスクを低減させることが、特許権をビジネスとして成り立たせるためのキモとなる。
そのためには、特許権を有する会社と、特許技術を実施・使用する会社とのWIN-WIN関係の構築が欠かせない。特許権料の支払いがその技術を用いた製品の販売価格を圧迫しないよう特許権料を抑えたり、一定の期間の支払いを免除したりといったことが考えられる。
まとめ
特許権侵害訴訟となると訴訟費用も時間もかかるため、たとえ勝訴して特許料収入を得られたとしても、その訴訟コストは無視しがたい。
このため、特許技術を侵害から守り利益を確保するということと、特許侵害訴訟によるコストおよび上記リスクを比較し、それでも特許権侵害訴訟が必須となる場合に限り訴訟提起することが理にかなうのではないだろうか。
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