追手門学院と元職員の地位確認訴訟が終結/請求の認諾とは
2023/06/19   労務法務, 労働法全般

はじめに

 追手門学院大学(大阪市)の研修で外部講師から「腐ったミカン」などと言われうつ病を発症したとして労災認定を受けた元職員3人が地位確認などを求めていた訴訟で学校側が認諾していたことがわかりました。原告側は復職するとのことです。今回は訴訟の終了原因である認諾などについて見ていきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、学校法人「追手門学院」の40~50代の元職員3人は2016年7月に法人幹部との面談で退職を迫られ、8月の職員研修でコンサルタント会社の外部講師から「腐ったミカンは置いておけない」「戦力外」などと言われた上、17年3月末での退職を迫られたとされます。その後うつ病を発症し休職期間満了で退職扱いとされたとのことです。この件につき労働基準監督署は2022年3月に労災認定したとされ、元職員3人は職員の地位確認と約3600万円の損害賠償を求め大阪地裁に提訴しておりました。

 

請求の認諾とは

 請求の認諾とは、民事訴訟で被告が原告の請求に理由があることを認め、裁判を終了させる訴訟行為を言います。原告の請求を全面的に認める場合だけでなく、請求の一部について認める場合もありえます。これにより裁判所は認諾調書を作成し、原告勝訴判決と同様の効果が生じることとなります。逆に原告側が行う場合は「請求の放棄」と言います。こちらも同じように放棄調書が作成され、原告敗訴判決と同様の効果となります。その手続は、口頭弁論、弁論準備手続、和解期日に出頭して行います。放棄または認諾をする旨の書面を提出した場合は、当該当事者が欠席しても裁判所は放棄・認諾の陳述があったものとすることができます(民訴266条2項)。放棄・認諾は相手方が欠席していても行うことができます。また放棄・認諾をするのに相手方の同意は不要です。

 

訴えの取り下げ

 上記請求の放棄に似たものとして訴えの取り下げがあります。原告側による訴訟の終了という意味では同様ですがその性質には大きな違いが存在します。訴えの取り下げがなされると訴訟は最初から無かったこととなります(262条1項)。これに対し請求の放棄は原告敗訴の判決が出たことと同様の効果となります。これにはいわゆる既判力という効果が発生し、その内容について後日訴訟でまた争うといったことができなくなります。訴えの取り下げは訴訟自体が無かったこととなるので既判力のような効果は生じません。そのため最後まで争って決着をつけたい被告にとっては必ずしも望ましいことではなく、被告が準備書面を提出したり、口頭弁論が開始した後は被告の同意が必要とされます(261条2項)。訴えの取下げは判決が確定するまでは行うことができますが、判決が出た後に取り下げた場合、同一の訴えについて再訴が禁止されるというペナルティが課されます(262条2項)。

 

和解

 判決によらない訴訟の終結には和解も挙げられます。和解は原告と被告が互いに譲歩することによって成立します。和解が成立するとその旨の調書が作成され、やはり確定判決と同様の効果が生じることとなります(267条)。和解は「訴訟がいかなる程度にあるかを問わず」試みることができ、判決が確定するまで可能です(89条)。和解とは請求の放棄や認諾と異なり、互いに譲歩することが必要です。債権の存在を認める代わりに期限の猶予を得る、土地の所有権を認める代わりに一定の地代をもらうといった具合です。どの程度譲歩するかは事案によりますが、請求を全部認める代わりに他の訴訟で譲歩してもらうといった場合でも和解となります。和解は口頭弁論や弁論準備手続などの期日で当事者双方が口頭で陳述して行います。

 

コメント

 本件で学校法人側は弁論準備手続で「紛争の長期化を避けるため認諾する」との書面を提出したとされます。これにより認諾調書が作成され原告勝訴判決と同様の効果が生じることとなります。原告の男性は「地位が認められことはすごく大きい。疾患がよくなったら復職したい」としつつ謝罪や再発防止も行ってもらいたいとしております。以上のように訴訟は判決以外にも様々な終了原因が存在します。互いに譲歩し合って終結する和解がもっとも穏当な結果と言えますが、こちら側に勝ち目は無く、早く紛争を終わらせて再起を図りたい場合には本件のように認諾や放棄も有効な手段と言えます。訴訟の際にはこれらも踏まえて自社にもっとも適切な解決の途を模索していくことが重要と言えるでしょう。

 

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