伊藤詩織さん中傷で賠償命令、リツイートと名誉毀損について
2021/12/01 コンプライアンス, 訴訟対応, 刑事法

はじめに
性被害を受けたとの申告は虚偽だとするイラストをツイッターに投稿されたとして、ジャーナリストの伊藤詩織さん(32)が損害賠償などを求めていた訴訟で30日、東京地裁は名誉毀損に当たるとしました。リツイートした漫画家と医師に対しても賠償を命じたとのことです。今回は名誉毀損とリツイートについて見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、伊藤さんは2015年に当時TBSテレビの政治部記者でワシントン支局長であった山口敬之氏と会食をした際、飲食後にホテルで乱暴されたとして準強姦容疑で警視庁に被害届を提出しておりました。しかし翌2016年7月に不起訴とされ、検察審査会でも不起訴相当とされたとのことです。これに対し漫画家のはすみとしこ氏は「枕営業」という言葉とともに伊藤さんに類似した女性のイラストなど5件を投稿し、医師と漫画家の男性2人がそれをリツイートしていたとされます。伊藤さんは名誉毀損に当たるとして550万円の損害賠償などを求め提訴しておりました。
名誉毀損とその要件
刑法230条1項によりますと、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する」とされております。ここに言う「公然」とは不特定多数の者が知り得る状態を言います。「事実を摘示」するとは、人の社会的評価を害するにたりる事実を告げることを言います。この告げる手段については制限がなく、口頭や文書、ネットでの書き込みなどあらゆる手段が含まれます。そして「名誉を毀損」するとは、社会的評価を害するおそれのある状態を発生させれば足りるとされております(大判昭和13年2月28日)。○○は犯罪行為を行っている、反社会的勢力と関わりがあるなどといった事実を不特定多数が知りうる状態にすれば成立するということです。これにより刑事上だけでなく民事上も責任が生じることになります。
リツイートと名誉毀損
Twitterでのリツイートとは、他人の投稿の内容をそのまま再投稿して第三者に広める行為を言います。この単に他人の投稿に何もコメントを付けることなく再投稿する行為が名誉毀損の事実の摘示、表現行為に該当するのかが問題となったことがあります。リツイートした人の意思・意見が何ら表現されていない行為に見えるからです。これに対し裁判所は、一般の読者の普通の注意を基準として、前後の内容などからリツイート者の意図が読み取れるなど特段の事情が認められない限り、元ツイートの内容に賛同する意思を示す表現行為と解するのが相当であるとしております(大阪地裁令和元年9月12日)。つまり単にリツイートしただけでも、その内容に賛成する意思が含まれるということです。
名誉毀損とならない場合
刑法230条の2によりますと、「公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、真実であることの証明があったときは、これを罰しない」とされます。一般多数人に利害に関する事実に関して公益のために表現した場合、その内容が真実だと証明できれば免責されるということです。真実性を証明できない場合であっても、ある程度確実な資料・根拠に基づいて誤信していた場合も違法性が否定されると言われております。十分な根拠、証拠をもって企業の不祥事や政治家のスキャンダルを報道した場合などが典型例と言えます。
コメント
本件で漫画家のはすみ氏は、検察審査会で不起訴相当と判断されたことから、性被害は存在しないという山口氏の主張を信じる相当の理由があったと主張しておりました。しかし大阪地裁は、不起訴や不起訴相当議決は性被害の不存在を認める事実とまでは言えないと退けました。またリツイートした男性2人に対しても、賛同する意思を示す表現行為で、自身の発言や意見と解するのが相当としました。以上のように最近の裁判例では名誉毀損的な投稿をただリツイートするだけの行為でも名誉毀損の表現行為と判断されております。影響力のある人がリツイートするだけでも爆発的に拡散する可能性があることも根拠となっているのではないでしょうか。自社に対する誹謗中傷的な投稿や書き込みがなされた場合には、投稿者だけでなくリツイート者に対しても法的措置の可能性があると言えます。今一度要件を見直しておくことが重要と言えるでしょう。
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