8社に課徴金400億円、不当な取引制限のリスク
2019/07/31 コンプライアンス, 独占禁止法

はじめに
道路舗装用アスファルト合材の販売で価格カルテルを結んでいたとして公正取引委員会は30日、道路舗装8社に計約400億円の課徴金納付命令を出しました。課徴金総額としては過去最高額とのことです。今回は独禁法が規制する不当な取引制限を見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、アスファルト合材大手の前田道路、大成ロテック、鹿島道路、大林道路、日本道路、NIPPOなど9社は遅くとも2011年3月頃から2015年1月までの間にアスファルト合材についてカルテルを結んでいたとされます。9社は「9社会」と称した会合を2ヶ月に1回程度開き、アスファルト合材の価格の値上げ幅や価格の切り上げ時期などを話し合い、決定された事項は各社の支店を通じて全国の工場に通達されていたとのことです。このうち8社は2016年にも東日本大震災の復興事業を巡り課徴金納付命令を受けており、各社が関与した過去の独禁法違反事件は15件に上っております。
不当な取引制限とは
事業者同士が共同して、価格や販売数量、技術や設備などについて話し合い、それに従って事業活動を展開していくことを独禁法では不当な取引制限と呼び禁止しております(2条6項、3条)。カルテルや談合が典型例ですが、契約、協定その他何らの名義をもって行うかを問わず事業者が相互に拘束して競争制限的な行為を行えば該当する可能性が出てきます。業務提携や技術提携などもその危険性があると言えます。
不当な取引制限の具体的要件
(1)行為要件
不当な取引制限の成立要件として「意思の連絡」と「相互拘束」が挙げられます。意思の連絡は事業者同士が明示的に行うだけでなく黙示的、暗黙的な了解でも足りると言われております(東京高裁平成7年9月25日)。一方が他方の価格方針を認識してそれに合わせようと思うだけでは足りませんが、互いに方針を認識して暗黙的に合意すれば足りるということです。相互拘束についても、協定を破れば何らかのペナルティーを課すといった拘束までは必要なく、互いに守るであろうとの期待しそれぞれが守る、いわゆる紳士協定的なもので足りるとされております(審決平成6年3月30日)。
(2)効果要件
不当な取引制限は「一定の取引分野における競争を実質的に制限」するものである必要があります。一定の取引分野とはいわゆる市場のことであり、その行為によって競争制限効果が生じる範囲を言います。具体的には需要者からみた代替性から画定されます。この製品の価格が上がれば他社の製品に乗り換えるといった関係が生じる範囲です。競争の実質的制限とはその市場において価格や数量などをある程度自由に支配できる力を形成することを言います(東京高裁昭和26年9月19日)。不公正な取引方法に言う公正競争阻害性よりもつよい状態と言えます。
課徴金
不当な取引制限が行われた場合には公取委から排除措置命令(7条)や課徴金納付命令(7条の2)が出されることになります。課徴金の額は売上額に算定率を乗じたものとなります。不当な取引制限では製造業で10%、小売業で3%、卸売業で2%となります。なお調査開始日からさかのぼって過去10年以内に別の事件で課徴金納付命令を受けていた場合、50%の割増が発生することになります(同7項)。この規定は今年6月19日の法改正で前回の課徴金納付命令よりも前に自主的に違反行為を辞めていた場合は割増は不適用となります。
コメント
本件で前田道路など9社はアスファルト合材の価格や値上げ幅などを会合で取り決めていたとされます。競争事業者同士が価格などについて意思の連絡のもとに相互に合意を守っていくものであり価格カルテルの典型例と言えます。公取委はこれらの業者による度重なる違反から、当初割増も含め600億円に上る課徴金を予定しておりました。しかし今年6月の法改正によって割増分が適用できず今回の約400億円となったと言われております。またNIPPOについてはリーニエンシー制度の利用により課徴金は免れております。以上のように不当な取引制限は独禁法上相当厳しい規制を設けております。企業同士の業務提携や技術提携も本来は技術の向上やコスト削減によって競争力が高まり価格競争が促進されるものと言えますが、競争事業者同士が行えば逆に競争阻害の危険に転じます。自社の営業担当部署などが同業他社の者と接触を持っていないか、価格や販売数、販売地域について話し合ったりしていないかを今一度確認しておくことが重要と言えるでしょう。
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