週刊朝日に賠償命令
2013/02/15 訴訟対応, 民事訴訟法, その他

事案の概要
「週刊朝日」の記事で名誉を傷つけられたとして、福岡県古賀市の竹下司津男市長(44)が発行元の朝日新聞出版(東京)や当時の編集長ら3人に1千万円の損害賠償と謝罪広告の掲載を求めた訴訟の判決で、福岡地裁(田中哲郎裁判長)は8日までに、同社側に200万円の支払いを命じた。謝罪広告は認めなかった。
判決によると、同社は2011年1月28日号で、竹下市長が韓国の宗教団体「摂理」の幹部を務め、女性信者らにわいせつな行為をしたなどとする記事を掲載した。田中裁判長は、竹下市長が名誉毀損(きそん)だと主張した点のうち、市長が摂理を脱会した元信者に嫌がらせをしたと報じた部分は、真実であるか、少なくとも真実と信じる相当な理由があると判断した。一方、同記事のうちわいせつ行為や悪質な勧誘をしたなどと報じた点については、週刊朝日が市長に質問書を送ったものの直接確認しておらず、「慎重な裏付け取材を行ったとはいえない」と指摘し名誉毀損に当たるとした。
ただ、一定程度の取材活動は行っており、報道した内容が存在したと疑ったことにもそれなりの理由があるとして、謝罪広告の掲載の請求は退けた。
朝日新聞出版の小境郁也編集長は「当社の主張が認められず残念。ただちに控訴する」、竹下市長は「謝罪広告が棄却されたことは遺憾。今後の対応は、判決内容を協議して決定したい」とする談話をそれぞれ出した。
参照条文
憲法21条
1項:「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。」
2項:「検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。」
刑事
刑法第230条の2 1項:「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する」
民事
民法第709条:「故意又は過失によって、他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」
民法第710条:「他人の・・・名誉を侵害した場合、・・・財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない」
民法第723条:「他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するに適当な処分を命ずることができる」
関連判例
夕刊和歌時事事件(最高裁大法廷判決 昭和44年6月25日)
「刑法230の2の規定は、人格権としての個人の名誉の保護と、憲法21条による正当な言論の保障との調和をはかったものというべきであり、これら両者間の調和と均衡を考慮するならば、たとい刑法230条ノ2第1項にいう事実が真実であることの証明がない場合でも、行為者がその事実を真実であると誤信し、誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるときは、犯罪の故意がなく、名誉毀損の罪は成立しないものと解するのが相当である。」
月刊ペン事件(最高裁第一小法廷判決 昭和56年4月16日)
「刑法230条の2第一項にいう「公共ノ利害ニ関スル事実」にあたるか否かは、摘示された事実自体の内容・性質に照らして客観的に判断されるべきであり、これを摘示する際の表現方法や事実調査の程度などは、同条にいわゆる公益目的の有無の認定等に関して考慮されるべきことがらであつて、摘示された事実が「公共ノ利害ニ関スル事実」にあたるか否かの判断を左右するものではない。」
北方ジャーナル事件(最高裁大法廷判決 昭和61年6月11日)
「表現行為に対する事前抑制は,表現の自由を保障し検閲を禁止する憲法21 条の趣旨に照らし,厳格かつ明確な要件のもとにおいてのみ許容され」,「出版物の頒布等の事前差止めは,このような事前抑制に該当するものであって,とりわけ,その対象が公務員又は公職選挙の候補者に対する評価,批判等の表現行為に関するものである場合には,そのこと自体から,一般にそれが公共の利害に関する事項であるということができ,……その表現が私人の名誉権に優先する社会的価値を含み憲法上特に保護されるべきであることにかんがみると,当該表現行為に対する事前差止めは,原則として許されないものといわなければならない。ただ,右のような場合においても,その表現内容が真実でなく,又はそれが専ら公益を図る目的のものでないことが明白であって,かつ,被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被る虞があるときは,……例外的に事前差止めが許される」。
「事前差止めを命ずる仮処分命令を発するについては,口頭弁論又は債務者の審尋を行い,表現内容の真実性等の主張立証の機会を与えることを原則とすべきものと解するのが相当である。ただ,差止めの対象が公共の利害に関する事項についての表現行為である場合においても」債権者の提出した資料によって前記 ⅱ の実体的要件を満たすと判断できるならば,「口頭弁論又は債務者の審尋を経ないで差止めの仮処分命令を発したとしても,憲法21 条」に反しない。
コメント
報道は事実を伝えることを使命とするが、そこには情報収集・編集という創作的過程があり、表現行為であることに変わりない。そして、その行為には必然的に、相手方、つまり読者・雑誌購入者がいる。報道関連の出版会社も営利性を追求する以上、その読者層のニーズに応える形の出版をしていくことになる。そのため、読者にとっておもしろいと思える雑誌の製作を同社が追求することは当然である。
しかし、その追求の先には、報道される者のプライバシー、名誉、人格権等との衝突も当然予想される。特に、プライバシー、名誉、人格権は一度傷つけられれば回復が難しいものである。迅速性が求められる報道という性格上なかなか難しい面もあるかもしれないが、記事掲載するにあたっては第三者的立場(法務担当者など)から意見が言えるような仕組み作りをすることが必要であろう。
また、購買者ニーズにあわせた記事を書けば、出版部数が増え一時的には利益も増える。しかし、当該記事に根拠が無かったとされれば、その雑誌の信頼性、果てはその出版社に対する不信を読者等に持たせることになる。結果、社内全体の営業利益は下がる結果にもなりうる。軽率な報道が時にその出版社に回復できない損害をもたらすことも十分に考えられることも認識しておく必要があるだろう。
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