企業年金も切り捨て御免!?
2015/11/02 労務法務, 労働法全般, その他
財政状況の悪化を理由に減額・不支給となるのは退職金だけではありません。企業年金も近年業績や資産運用の悪化を理由として企業年金の減額や廃止に踏み切るケースが多発しています。今回は企業年金のうち①自社年金型と②外部積立型についてそれぞれの年金の簡単な説明、減額や廃止の根拠、その大まかな判断基準を紹介したいと思います。
1 自社年金型と外部積立年金型
企業年金は大きく分けて①自社年金タイプと②外部積立タイプの二つがあります。
①自社年金タイプは年金給付のための資産を企業外に取り分けていないタイプです。自社年金を定めることに関して法律上の規制はなく、功労報償として会社がいわば自由に設計することができます。
②外部積立タイプは厚生年金基金や確定給付型企業年金などのように拠出する掛け金を外部に積み立てて会社の資産とは別個に管理するタイプです。厚生年金保険法や確定給付企業年金法の規制に服します。
2 減額や廃止の根拠
①自社年金タイプは基本的に自由に設計することができるものなので減額と廃止の根拠は民法、労働上法の解釈に委ねられます。
企業年金を減額・廃止する場合、当該年金の改廃条項があればそれが年金減額と廃止の根拠となります。また改廃条項がなくても労働者の個別同意があればその根拠となります。
年金方式で長期にわたって支給される役員退職慰労年金につき会社が経営状態の悪化を理由として制度の見直しをした事案(最判平成22年3月16日)で判例は役員退職慰労年金で改廃条項がなくても労働者の個別の同意があれば減額・廃止ができる旨を判事した。
なおこの判例は個別の同意がなくても黙示的合意の有無や事情変更の原則の適用の有無にも言及しており、その具体的な射程・適用範囲が注目される。
②外部積立タイプは厚生年金基金法や確定給付企業年金法に服することから減額する場合、減額を内容とする規約の変更につき厚生年金基金・確定給付企業年金法上、厚生労働大臣の承認・認可が必要となります。
3 減額有効性の判断基準
①自社年金タイプで減額の有効性が争われた事案(最判平成19年5月23日、松下電機産業事件)で判例は
(1)必要性(減額の必要性、労働者の受ける不利益)
(2)相当性(減額の程度や周知手続をしたか)
を総合考慮し、その有効性を判断しています。
例えば松下電器産業事件では
(1)市場利回りの低下や業績悪化から年金を減額する必要性が高く、年金算定基礎となる約定利率が相場より一割近く高めに設定されているので労働者の受ける不利益は比較的小さかったこと
(2)減額は一律2割にとどまり減額の程度は大きなものではなく、労働者への周知手続も行われていことから有効とされました。
②外部積立タイプでは厚生労働大臣の承認・認可の要件として
(1)企業・基金の財政状態が悪化していること
(2)受給者の3分の2以上の同意を得ていること
(3)希望者に一時金での清算を認めていることを満たせば減額を理由とする規約の変更が認められます。
要件が明確な(2)(3)と異なり、いかなる場合に(1)の要件該当性が認められるか一義的に明らかでなく問題となります。
同要件該当性が問題になった最判平成22年6月8日、NTT事件で(1)企業・基金の財政状態が悪化していることとは、「単に経営が悪化しさえすれば足りるのではなく、母体企業の経営状況の悪化などにより企業年金を廃止するという事態が迫っている状況の下で、これを避けるための次善の策として、給付の額を減額することがやむを得ないと認められる場合に限られる」場合と財政状態の悪化についてはかなり厳格に判断しました。
4 小活
企業年金は自社年金タイプと積立タイプで種類は違えど減額有効性の判断は重なり合っている部分があります。これは年金が法律上要求されるものではないとしても年金が労働者の退職後の生活保障の原資となることを判断基準面で反映されたものと考えられます。
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