トヨタ自動車が初の導入、株主優待制度について
2025/03/17 商事法務, 総会対応, 会社法, 自動車

はじめに
トヨタ自動車は3日、同社としては初となる株主優待制度を導入すると発表しました。スマホ決済アプリの残高付与などが内容とのことです。今回は株主優待制度と会社法上の注意点について見ていきます。
事案の概要
トヨタ自動車の発表によりますと、2025年3月末日時点で100株以上保有している株主に株主優待を行うとしております。その内容は保有株式数や継続保有期間に応じてスマホ決済アプリ「TOYOTAWallet」の残高を付与するというものです。1000株以上を5年以上保有している場合は30,000円分、100株以上で3年以上の場合は3,000円分といった具合です。またそれ以外にも抽選でレースペアチケットやトートバッグ、ペンケースなどを贈呈するとのことです。これらの株主優待を通じて、株主に同社関連のサービスや事業に対する理解を深め、より多くの投資家に長期にわたって同社の株式を保有してもらうことを目的としているとされております。
株主優待制度とは
株主優待とは、株式会社が株主に対し自社の事業等に関連する商品やサービスを提供する制度を言います。一定以上の株式を、一定期間以上保有している場合に付与されることが多いと言えます。その目的は多くの投資家による投資を誘引し、また長期保有してくれる安定株主を増加させることなどが考えられます。その内容も多岐にわたっており、自社関連のスポーツ団体の試合やレースの観戦チケットや図書カード、QUOカード等の付与などが挙げられます。また有名なところでは吉野家やゼンショーHDなどの店舗での無料チケット、オリエンタルランドが付与する入園チケットなどがよく知られております。しかしこれら株主優待制度も会社法上、一定の注意点が存在しております。以下具体的に見ていきます。
株主優待と会社法
会社法では株主優待について直接規定している条文は現状存在しません。しかし株主優待はいくつか会社法上問題となりうる事項があり、まず株主平等原則に抵触しないかという問題があります(会社法109条)。株主平等原則は、株主は株主としての資格に基づく法律関係については、その有する株式の数に応じて平等に取り扱わなければならないというものです。株主優待制度は一定数以上の株式、また一定期間以上の保有期間を条件に付与されることもあることから問題となり得ます。しかし結論的には、株主平等原則には反しないと考えられております。安定株主増加や自社サービスの宣伝、また一定の保有数ごとの段階的な区別にすぎず、合理性が認められるからと言われております。次に利益供与(120条)との関係でも問題となり得ます。会社法では、何人に対しても株主の権利の行使に関して財産上の利益を供与してはならないとしております。この点に関して裁判例では、「社会通念上許容された範囲内で適正に行われた」ものでれば適法であるとしております(高知地裁昭和62年9月30日)。
配当規制
上記以外にも株主優待制度については配当規制との関係で問題となり得ます。株主優待は実質的に現物配当にも見えるからです。会社法454条以下では、剰余金配当は原則株主総会決議を要したり、また分配可能額を超えてはならないといった制限が設けられております。この点についても一般的には、株主優待は会社の事業場のサービスの一環に過ぎないことや、付与されるものの経済的価値が必ずしも大きくないことなどを理由に現物配当には当たらないと考えられております。やはりこちらでも社会通念上相当な範囲を超えた内容の場合は現物配当に該当し、配当規制を受けることとなる可能性はあると言えます。
コメント
本件でトヨタ自動車は自社で初めて株主優待制度の導入を決めました。長期保有な安定株主確保が狙いです。昨年末に株主優待の廃止を決めた「くら寿司」も先月再開を決定しております。株主優待制度は2000年代から急速に増加し、2018年には36%の上場企業が採用していたと言われておりますが、上場廃止や業績悪化、また株主平等原則との観点から廃止する企業も増加しておりました。しかし近年、再び株主優待を導入・拡充する企業が増えてきているとされます。株主優待は適切な範囲で行う分には新規の投資家の誘引や、長期保有の安定株主確保が狙えます。自社の経済状況やステークホルダーの意向などを踏まえ、適切な範囲で導入を検討していくことが重要と言えるでしょう。
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