金融庁が千葉銀に業務改善命令、金商法の行為規制について
2023/07/26   金融法務, コンプライアンス, 金融商品取引法

はじめに

 複雑でリスクの高い「仕組み債」を不適切に販売していたとして、千葉銀行とちばぎん証券が金融庁から業務改善命令を受けていたことがわかりました。業務改善報告書はすでに提出済みとのことです。今回は仕組み債と金商法の行為規制について見直していきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、千葉銀行とちばぎん証券は複雑な債券で顧客の投資経験などを確認する必要がある仕組み債を不適切に販売していたとして証券取引監視委員会が行政処分を勧告していたとされます。千葉銀側は顧客をちばぎん証券に紹介し、本来は販売すべきでない投資経験に乏しい顧客に、「リーマンショックでも下がらなかった」などと不確実なことを断定的に説明するなど仕組み債を不適切に販売したとのことです。これにより老後の資金に200万円の損失が出た顧客もいたとされます。金融庁は金商法に基づいて業務改善命令を出しました。

 

仕組み債とは

 仕組み債とは一般的な債券とは異なり特別な仕組みをもった債券とされております。債券にスワップやオプションなどといったデリバティブ(金融派生商品)を組み合わせることによって投資家のニーズに合った自由で柔軟な債券を構築することができます。代表例として「EB債」や「株価指数連動債」などが挙げられます。一般的な債券には発行者の倒産などによる元本償還がされなくなるという信用リスクや外貨建の場合の為替差損が発生するといった為替変動リスク、途中売却の際の価格変動リスク、市場環境の変化などによって換金ができなくなる流動性リスクといったリスクが存在します。仕組み債の場合、これらに加え参照指標の変動による利子減少のリスク、償還金の差損リスクなど予測が難しいリスクもあると言われております。

 

金商法による規制

 金商法では、金融商品取引業を行うためには金融庁の登録を受けなければならないとしております(29条)。無登録で行った場合は5年以下の懲役、500万円以下の罰金またはこれらの併科となっており(197条の2第10号の4)、法人にも5億円以下の罰金が科されます(207条1項2号)。金融商品取引業者は広告を行う際には、業者の商号や登録番号、リスクなどの表示が義務付けられ、利益などについて著しく事実に相違する表示や誤認させる表示が禁止されます(37条1項、2項)。また契約締結前と締結時に書面交付が義務付けられます(37条の4)。さらに顧客に対して以下の不公正な方法を用いた勧誘も禁止されております(38条)。(1)虚偽のことを告げる、(2)断定的判断を提供する、(3)信用格付業者以外の信用格付を注意事項を告げずに提供する、(4)勧誘を望まない顧客に訪問または電話をする、(5)勧誘を受ける意思を確認しない、(6)顧客が拒絶の意思を表示したのに勧誘を継続する、(7)正当な根拠の無い価格情報等を提供するとなっております。

 

その他の義務

 金融商品取引業者は取引行為について、顧客の知識、経験、財産の状況および金融商品取引契約を締結する目的に照らして不適当と認められる勧誘を行わないようにしなければなりません(40条1号)。これを適合性の原則と言います。また金融商品取引業者は顧客のために忠実に投資助言業務を行わなければならず、顧客に対し善良な管理者の注意をもって助言を行う義務を負います(41条1項、2項)。そして金融商品取引業者は顧客に損失が生じた場合、その損失を補填することが禁止されております(38条の2第2号、41条の2第5号)。ただし損失が金融商品取引業者の責任で生じた場合に、その損害を賠償する行為は損失補填には該当しません。

 

コメント

 本件で千葉銀行およびちばぎん証券は複雑で予測が難しい仕組み債を適切に説明せずに顧客に販売したとされております。実際投資に不慣れな顧客がこれにより少なくない損失を生じさせたとのことです。同銀は事態を厳粛に受け止め再発防止に取組み信頼回復に務めるとしております。以上のように金融商品は通常の商品よりもリスクが高く、場合によっては顧客に多大な損失を被らせる可能性があります。特に近年仕組み債などのより複雑な商品も開発されており、さらに慎重な説明を要すると言えます。金融商品取引業に参入を検討している場合や、新商品の勧誘を始める際には、これらの点に留意してより丁寧な説明や助言を心がけることが重要と言えるでしょう。

 

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