五輪談合で数十億円規模か、独禁法の課徴金について
2023/03/02 独禁法対応, 独占禁止法
はじめに
東京五輪の運営をめぐる談合事件で、東京地検特捜部は広告大手「電通グループ」や「博報堂」など6社と大会組織委員会の幹部らを独禁法違反の罪で起訴していたことがわかりました。公取委も審査を進めており課徴金の額が注目されます。今回は独禁法の定める課徴金について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、起訴されたのは広告大手の「電通グループ」「博報堂」「東急エージェンシー」「セレスポ」「フジクリエイティブコーポレーション」「セイムトゥー」の6社と五輪組織委員会大会運営局の元次長などの4人とされます。6社と元次長らは組織委員会が発注した各競技のテスト大会の計画立案業務の入札や、本大会の運営業務など総額437億円の事業を対象に不正な受注調整を行っていた疑いが持たれているとのことです。なお広告大手「ADKグループ」も本談合に関与していたと見られていますが、独禁法のリーニエンシー制度により最初に公取委に自主申告したことから不起訴となったとされております。公取委は本件裁判のめどがつき次第、課徴金の処分案を通知する見通しとのことです。
独禁法と課徴金
独禁法に違反した場合、公取委により排除措置命令が出される他、違反行為によっては課徴金納付命令が出されることがあります。課徴金とは独禁法に違反する行為に対して課される一種の行政上のペナルティです。これは刑事罰としての罰金とは性質が異なり、独禁法に違反する違法な行為によって得た利益を剥奪するという意味合いがあります。この制度は独禁法が制定された昭和52年から存在しておりますが、当時課徴金の対象となっていたのは不当な取引制限のみであったとされます。現在では不当な取引制限(7条の2第1項)の他に私的独占(7条の2第2項、4項)、不公正な取引方法のうちの共同の取引拒絶、差別対価、不当廉売、再販売価格の拘束、優越的地位の濫用が対象となっております(20条の2~6)。なお不公正な取引方法については、優越的地位の濫用以外は違反を繰り返した場合のみ納付命令が出されることとなります。
課徴金額の算定
課徴金は上でも触れたように違反行為により得られた利益の剥奪という意味合いからその算定方法は売上に一定の算定率を乗じたものとなっております。より具体的には算定期間における売上または購入額に算定率を乗じます。算定率は違反行為ごとに異なっており、不当な取引制限と支配型私的独占については10%、排除型私的独占で6%、優越的地位の濫用で1%、それ以外の不公正な取引方法では3%となっております。これに事業者の属性や公取委による調査開始の1ヶ月前までに違反を辞めた場合(20%)には減算される場合があります。また逆に違反を繰り返した場合、または違反行為を主導していた場合は50%加重されることがあります。なお不当な取引制限については課徴金減免制度(リーニエンシー制度)が設けられております(7条の2第10項~12項)。これは違反行為を公取委に自主的に申告した場合、その順位によって減免を受けられるというものです。1位が全額、2位が20%、3~5位が10%、6位以下が5%となっており、2以下は協力度合いに応じて最大+40%となっております。
これまでの課徴金例
現在独禁法違反による課徴金で最高額となっているのは電力3社によるカルテル事件です。この事件は関西電力、中部電力、中国電力、九州電力の大手電力4社が2018年秋頃から事業向けの特別高圧電力の販売に関し、互いに顧客獲得を制限する旨のカルテルを結んでいたというものです。公取委は関西電力を除く3社に総額約1000億円を超える課徴金納付命令案を通知しております。内訳は中部電力に約275億円、中国電力に約707億円、九州電力に約27億円となっております。関西電力はリーニエンシー制度により免除されております。1つの事件としても、1社に対しても最高額です。なおそれ以前での最高額は事件としては398億円、1社に対しては約131億円とされていたことから大幅な最高額の更新と言えます。
コメント
本件で五輪のテスト大会と本大会における運営業務や計画立案業務に関する各社の受注総額は計約437億円とされており、公取委により命じられる課徴金額は数十億円規模に上ると予想されています。特に談合を主導したと見られている電通グループは50%加算で多額の課徴金を課される可能性が高いと考えられます。また課徴金とは別に国や自治体からの指名停止措置なども受けており事業への大きな影響が予想されます。
以上のように独禁法では事業者同士の談合やカルテル等に対して厳しいペナリティを課しています。特に課徴金は近年莫大な額に上る例が散見され、1つの事件で1000億円を超える例も出ています。どのような場合に独禁法違反となるかを社内で周知すると共に、もし自社の違反が疑われる場合は迅速に公取委と相談の上、申告を検討していくことが重要と言えるでしょう。
関連コンテンツ
新着情報
- 解説動画
- 加藤 賢弁護士
- 【無料】上場企業・IPO準備企業の会社法務部門・総務部門・経理部門の担当者が知っておきたい金融商品取引法の開示規制の基礎
- 終了
- 視聴時間1時間
- 業務効率化
- Hubble公式資料ダウンロード
- 業務効率化
- Araxis Merge 資料請求ページ
- 弁護士
- 松田 康隆弁護士
- ロジットパートナーズ法律会計事務所
- 〒141-0031
東京都品川区西五反田1-26-2五反田サンハイツビル2階
- 解説動画
- 浅田 一樹弁護士
- 【無料】国際契約における準拠法と紛争解決条項
- 終了
- 視聴時間1時間
- セミナー
- 【リアル】連続受講(全4回)-契約審査 徹底演習シリーズ-
- NEW
- 2024/08/01
- 15:30~17:00
- まとめ
- 株主総会の手続き まとめ2024.4.18
- どの企業でも毎年事業年度終了後の一定期間内に定時株主総会を招集することが求められております。...
- 弁護士
- 片山 優弁護士
- オリンピア法律事務所
- 〒460-0002
愛知県名古屋市中区丸の内一丁目17番19号 キリックス丸の内ビル5階
- ニュース
- 上場企業で年間1万人超のハイペース/早期退職者優遇制度、運用上の注意点2024.5.7
- NEW
- 東京商工リサーチは、国内上場企業において、「早期・希望退職者」の募集人数が年間1万人を超えるペ...