消費者契約法改正へ?
2015/09/17 消費者取引関連法務, 消費者契約法, その他
内閣府消費者委員会消費者契約法専門調査会は、先月に消費者契約法に向けた中間報告を発表した。そこで、中間報告のポイントを概説してみたい。
1 消費者契約法って何?
そもそも、消費者契約法たる法律に聞き覚えのない方もおられるのではなかろうか。消費者契約法は、消費者と事業者の間の情報や交渉力の格差があるため、消費者を保護することを目的とした法律である。そして、同法は消費者と事業者の間の契約(消費者契約)について規律しており、消費者には一定の要件の下で取消権(消費者契約法4条)が付与され、また消費者に不利な契約条項の無効(8条、9条、10条)が定められている。
2 中間報告の概要
今回の中間報告の要点の1つは、消費者契約法を通信技術の発達に対応した法律とする点にあり、その中でも「勧誘」にインターネット上の広告など、不特定多数人への働きかけを含めるかが重大な争点になっている。
消費者契約法によれば、事業者は「勧誘」をする場合は、消費者の利益を告げたにもかかわらず、消費者にとっての不利益を故意に告知しなければ、消費者によって事後的に契約が取消されるリスクを負うこととなる(消費者契約法4条2項)。
立法担当者によれば、「勧誘」とは特定の消費者に対して契約締結の意思の形成に影響を与える程度の勧め方とされている。そのため、不特定多数の消費者に対する働きかけは、「勧誘」とは考えられていないため、単に商品を陳列する行為やビラ配りは「勧誘」には含まれない。そして、 インターネットの広告も、不特定多数人の閲覧に供するものであるから、立法担当者によれば「勧誘」とは考えられていない。
今回の中間報告では、広告に起因するトラブルが多発している現状を受け、不特定多数に向けた広告やチラシ、店頭パンフレットなどを勧誘に含める案を示した。実際、学説上は不特定多数人への働きかけであっても「勧誘」に含まれるとする意見もあるので、不特定多数に向けた働きかけが「勧誘」とされる可能性は低くはない。
3 改正の影響
仮に広告など不特定多数の消費者への働きかけが「勧誘」に含まれるとすると、事後的に契約を取消されるリスクを回避するには、消費者に利益になる旨を告げる広告を利用しない、若しくは消費者に利益がある旨を告げる広告で「勧誘」し、契約に至る前にあえて不利益な事項を告知することが必要となる。いずれにしても、売上の悪化が懸念され、現に産業界ではこの改正の方向性に疑問を呈する意見も現れている。
仮に「勧誘」に不特定多数人への働きかけが含まれるとしても、故意に不利益事実を告げないことが取消の要件であり、現実には故意の立証は難しい。また扱う物品にもよるが、消費者個人の被害額が小さいことが多い。そのため、滅多に訴訟にはならないため、それほど大きな問題とはならないと考える事業者の方もおられるかもしれない。
しかし、違法な営業手法を行えば、適格消費者団体から差し止め請求を受ける可能性がある。また、中間報告の中では、取消権の行使期間の伸長の案も出されており、来年施行される消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律の下では、特定適格消費者団体が多数の消費者の利益のために企業に対して訴訟を提起することが認められるため、契約の取消しと代金の請求が訴訟という公の場で行われる可能性が大幅に高まる恐れがある。
未だ中間報告の段階であるため、具体的にどのような改正になるかは不明であるが、法務担当者としては、消費者契約法の改正や、特定適格消費者団体の動向に注視する必要がある。
参照資料
消費者契約法4条2項
消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対してある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について当該消費者の利益 となる旨を告げ、かつ、当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実(当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限る。) を故意に告げなかったことにより、当該事実が存在しないとの誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。ただし、当該事業者が当該消費者に対し当該事実を告げようとしたにもかかわらず、当該消費者がこれを拒んだときは、この限りでない
内閣府消費者委員会消費者契約法専門調査会の中間報告
http://www.cao.go.jp/consumer/kabusoshiki/other/meeting5/doc/201508_sk_chukangaiyo.pdf
http://www.cao.go.jp/consumer/kabusoshiki/other/meeting5/doc/201508_chuukan.pdf
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