積水ハウスが阿部会長を提訴せず、株主提訴請求について
2018/04/24 商事法務, 会社法
はじめに
積水ハウスはマンション用地の詐欺被害に関連し株主から阿部会長に対して提訴請求がなされていた件について19日、提訴はしないと発表しました。被害額は63億円に上るとのことです。今回は役員の会社に対する責任につき、株主からの提訴請求がなされた場合の手続きについて見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、積水ハウスは昨年4月にマンション用地として五反田駅近くにある土地約600坪を不動産会社の仲介により購入しました。最初の契約時に手付金として15億円、6月の登記申請の際に48億円が支払われ、残りは登記完了後に支払われることになっていたとされます。しかし登記所から登記申請書類に真正ではないものが含まれているとして登記申請が却下され、土地所有者と称する者から提供された印鑑証明書と本人確認のためのパスポートが偽造されていたことが判明したとのことです。約63億円を騙し取られた本件につき、調査対策委員会は阿部会長について重大なリスクを認識できなかった点に経営上重い責任があるとし、同社個人株主は責任追求を行うべきとして提訴請求しておりました。
役員の会社に対する責任
取締役等の役員と会社は委任関係にあり、役員は会社に対し善管注意義務(会社法330条、民法644条)と忠実義務(355条)を負います。会社の実質的所有者である株主によって選任され(329条1項)、株主に代わって会社の経営を担うということです。これらの義務を怠って会社に損害を生じさせた場合には会社に対しその損害を賠償する責任が生じます(任務懈怠責任、423条)。しかしこの点どのような損害でも責任が生じるというわけではなく、役員が判断を下すまでの情報収集・分析に不注意がないこと、判断内容自体に不合理な点がないことを要件として責任は免れるとされております(経営判断原則、最判平成22年7月15日)。
株主による提訴請求
取締役等に上記のような責任が生じた場合、本来は会社が取締役等を相手取り責任追及を行ないます。監査役を置いている会社では監査役が(386条1項)、監査役を置いていない場合は原則代表取締役が会社を代表します(349条4項)。株主総会や取締役会で会社の代表者を決めることもできます(353条、364条)。しかし往々にして会社から役員への責任追及は十分に行われないことが多いとされております。そこで一定の要件を満たす株主から提訴請求ができることとなっております。公開会社の場合は6ヶ月前から株式を有する株主は会社に対し提訴するよう書面で請求することができます(847条1項)。非公開会社の場合は6ヶ月の制限はありません(同2項)。
株主代表訴訟
上記提訴請求が行われた日から60日以内に会社から責任追及の訴えがなされない場合は、提訴請求を行った株主は会社に代わって提訴することができます(株主代表訴訟、同3項)。「会社に回復することができない損害が生ずるおそれ」がある場合には株主は提訴請求することなく直ちに訴訟提起を行うことができます(同5項)。なお株式交換や株式移転、合併などにより株主でなくなったとしても存続会社や完全親会社の株式を保有していれば提訴できることになりました(平成26年改正、847条の2)。
コメント
本件ではマンション用地として約70億円にも及ぶ土地の売買に関する事案であること、そして積水ハウスは不動産の建築、分譲を専門としている企業であることなどを合わせて考慮しても取引の際に行うべき情報収集、分析に不注意が無かったとは言いにくいのではないかと考えられます。この件で監査役会は提訴しない方針を固めたとされますが、これにより提訴請求した株主は会社に代わって株主代表訴訟を提起することができます。以上のように会社役員は株主からの信任により会社と株主のために経営を取り仕切ります。経営のプロとしての判断に不注意があり、それにより会社に損害が生じた場合はこのような手続きの流れで責任追及がなされていきます。重大な取引の際には取締役として必要な注意が尽くされたと言えるかを注視していくことが重要と言えるでしょう。
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