「ビジネス推進できる法務」は絶対正義か?

 
 

こんにちは。法務専門キャリアアドバイザーの潮崎です。

本日は、普段、法務職の採用に携わる中で人事の方からしばしば要望される、「ビジネス推進できる法務」をテーマにお話します。

 
 

 

1.求められる法務パーソン像のトレンド変化

長年、法務職の採用に携わっていますと、人事の方から、

・自社の法務部門の状況
・在籍中の法務担当者の方々の社内評価
・求める法務パーソン像

などについて、お話を聞く機会が数多くあります。

 

そうしたお話を伺う中で強く感じるのが、「近年、採用の現場で“求められる法務パーソン像”が大きく変化して来ている」ということです。
“従来型の法務パーソン像”と近年、採用トレンドとして求められている“現代型の法務パーソン像”の特徴をまとめると以下のようになります。

 

【従来型の法務パーソン像】
(1)徹底的に法的な観点を重視
(2)「法律専門家」のポジションから助言を行う
(3)専門家としての威厳を重視し、他部門と少し距離を置く
(4)スピードよりも正確さを重視

【現代型の法務パーソン像】
(1)ビジネス的な観点も考慮しながら落としどころを探る
(2)ビジネスを推進する当事者として現場と協働する
(3)他部門と距離を詰め、フラットな関係性を好む
(4)現場のスピード感を意識しながら仕事を進める

 

そして、圧倒的に多くの人事担当者が、“現代型の法務パーソン”、すなわち、「ビジネス推進できる法務パーソン」を採用したいとオーダーして来ます。

 

2.トレンド変化の原因

では、こうした採用トレンドの変化はどうして生じたのでしょうか。

その原因は、シンプルに、法務業務量の増加により、法務パーソンが経営層や事業部門など、他部門の人間と接点を持つ機会が増加したことにあると考えられます。

 

特に、契約書審査業務の増加は、法務パーソンと事業部担当者が協働する機会の大幅増に繋がっています。
その結果、法務パーソンに対する、他部門からのフィードバックが従来よりも多く寄せられるようになったと聞きます。
(今までよりも法務部門に対する社内の関心が高まったという言い方もできます。)

換言すると、現代型とされる法務パーソン像は、声の大きい他部門からの要望が強く反映された結果ということができます。

 

実際、“現代型の法務パーソン像”をひも解くと、「ビジネスをあまり止めない」、「スピード感がある」、「事業部と目線が近い」といったように、ある種、事業部にとって都合のよい特徴が並んでいることがわかります。

 

3.ビジネス推進できる法務は絶対正義か?

こうした他部門等からの要望を踏まえ、「ビジネス推進できる法務組織を作らねば」と課題感を持つ企業も増えています。

 

たしかに、法務パーソンもビジネスパーソンである以上、ビジネススキームの理解力や業界知識など、ビジネスパーソン一般に求められる“スキル”を高めること自体は正しい方向性といえます。

しかし、“マインド”の面で、他部門の声を集めて形作られた“現代型の法務パーソン像”を無批判に受け入れるべきか、大いに議論の余地があるところです。社内で少数派となろうと、疎まれようと、大禍を避けるため、専門性に基づいて慎重に反対意見を提言できることもまた、「法務の価値」だからです。

ビジネス重視のトレンドがあるからといって、それを絶対正義として、マインド面でもビジネス推進に舵を切るべきか、そこには慎重な検討が必要です。

 

4.選考の場でどのように自分を見せるべきか

とは言え、実際問題、採用の現場で、「ビジネス推進にマインドが寄った法務パーソン」が人気なのも間違いありません。

一方で、面接用に取り繕った自分で選考に臨んでも、長期的に良い結果に繋がらないおそれがあります。
そのため、以下のような準備をして面接に臨むことをお薦めしています。

 

(1) ビジネス推進に必要な“スキル”の向上に実際に取り組む
(2) (1)の取り組みを面接時に説明できるよう整理しておく
(3) “現代型の法務パーソン”のメリット・デメリットを言語化して整理しておく
(4) “従来型”と“現代型”の間のどのポジションをご自身が取るか定める
(5)その理由を説明できるよう準備する

 

「“ビジネス推進できる法務”というトレンドにどのように向き合うか」

法務としてのキャリア観をも左右するこの重要テーマについて、一度どこかで、腰を据えて考えてみてはいかがでしょうか。

 

=================================

 
 
 
株式会社パソナ
法務・ハイクラス専門キャリアアドバイザー
潮崎明憲
大阪市立大学法学部卒、近畿大学法科大学院修了。法務・総務担当として入社した営業研修会社の事業を4年にわたって支えた後、2014年より、米国訴訟における日本企業支援(eディスカバリー)業務に従事。2016年からは、法務専門エージェンシー、株式会社More-Selectionsにてエージェントとして、1000社超の企業の法務職採用に携わる。2021年9月、同社のパソナへの吸収合併を機に、株式会社パソナにて法務・ハイクラス専門のキャリアアドバイザーを務める。
 
 
 
 

<< キャリアページに戻る