【法務NAVIまとめ】M&A~フローと法的注意点~


M&A(企業の合併、買収)は、会社にとって大きな決断だ。どのような手法にしろ、買い手にとっては非常に大きな買い物であり、売り手にとっては自社の運命を左右する問題だ。しかし、この重大な選択を行うにあたっては、その過程の至るところにリスクが存在する。そこで、局面ごとのリスクに対処する典型的進行について以下みてみる。

cf. M&Aの手続き一覧
出典:M&Aに関する手続き・株式会社アナログ
出典:【法務NAVIまとめ】M&A~他社を買収する3つの方法~・企業法務ナビ

進行全体の概要

M&Aの進行はおおまかに言えば、以下の区分で手続きが進行する。

1.対象会社の選定
2.秘密保持契約の締結
3.意向表明書(LOI)の提出
4.基本合意書の締結
5.DD(デューディリジェンス)の実施
6.契約交渉、契約締結
7.クロージング(契約の実行)

cf. 仲介者も含めた大まかな流れ
出典:買収までの流れ・手順・日本M&Aアドバイザー協会

1. 対象会社の選定~買収候補の選定のポイントは?~

実際に、M&Aの話を1つの会社に持ちかけるまでには、⓵ロングリストの作成、②ショートリストの作成、③アプローチの実行、の段階を踏むことになる。

①ロングリストの作成
まず、会社の将来目標を達成するために必要な要素を持ってる会社を多めにリストアップする(20~30社くらい)。
事業内容、財務数値等を基準にしてスクリーニングを行う。
ここでは、特にシナジー効果(相乗効果)の有無が重要である(業種、事業分野、強み、弱み)。シナジー効果が大きければ譲渡企業・買い手候補企業ともにwin-winの関係を築きやすいからである。

②ショートリストの作成
つぎに、ロングリストの中から、候補を最終的に数社まで絞り込む。
候補会社について詳細に調査し、買収のうまみがありそうな会社を選ぶ。

③アプローチの実行
最後に、②でつけた優先順位にしたがって、候補企業にM&Aを打診していく。
相手方にM&Aに興味があるかなどの初期的な打診を行う。

cf. より詳しくは?
出典:基礎からのM&A講座第5回M&Aプロセス(2)買収候補のスクリーニング・デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー株式会社
出典:M&Aの手順1-5 企業分析・業界調査と持込み候補先選定(譲渡企業)・日本M&Aセンター

2. 秘密保持契約(NDA)の締結~買収候補に会社の重要な情報を渡しても大丈夫か?~

買収を打診したところ、相手方の反応が良かった場合、本当に買収を行うのがいいかを検討するために対象企業の情報を開示してもらうことになる。
ここで、開示する側としては会社の経営上の重要な情報を相手方に無防備に渡すことは当然できない。
また、情報が漏れると、知らないうちに「身売り」の噂が立ってしまい、売り手企業の信用不安を引き起こし、多大な損害を与える危険性がある。
そこで、会社の重要な情報を漏らさないように約束する、秘密保持契約(NDA: Non-Disclosure Agreement)を締結することになる。

・秘密保持契約の主な要素
①契約当事者
②秘密情報の範囲と、その例外
③秘密情報に関する不作為義務
 -開示の禁止
 -目的外使用の禁止
④不作為義務の例外
⑤秘密保持の期間
⑥秘密情報の返却、破棄
⑦損害賠償その他

cf.秘密保持契約について詳しく
出典:機密保持契約締結にあたっての注意点・企業法務ナビ

・売主が主導権を握るには?Process Letter
Process Letterとは、入札プロセスの進め方や、検討のための手順、あるいはスケジュール大要等を記載した説明書のことである。
売主が買収の進め方などを指定することで主導権をある程度握ることができる。
主なコントロール点は以下のものがある。

①取引のストラクチャー(取引をどう進めていくかの枠組み)
②意向表明(後述)の記載事項
③意向表明の前提事実(後述)
④情報収集方法の限定
⑤スケジュール

※秘密保持契約の締結前にプロセスレターで秘密情報を開示してしまうと、その情報は秘密情報として保護されないため注意。

3. 意向表明書(LOI)の締結~買収交渉の方向性は?~

売主から対象企業の重要な情報を開示してもらい、買収を本格的に検討しようということになったら、意向表明書(LOI: Letter of Intent)を作成することが多い。
LOIとは、買い手が売り手に、自らの買収意向と希望条件を伝える文章、またはそのやり取りのことをいう。
売主は、この書面をもとに検討し、この買収によって企業価値が向上する見込みがある場合に、具体的な買収交渉へと発展する。
あくまでもその時点での買い手の意向を表明するものであり、法的拘束力は持たせず、その後の交渉での修正が予定されている。

一般的には、⓵主体、②買収目的、③買収手法、④価格、⑤前提条件(財務、債権債務状態についてなど)、⑥スケジュール、⑦デューディリジェンス(後述)の方法、⑧代理人、⑨法的拘束力(法的拘束力がない旨明記するのが基本)、などを記載する。

cf. LOIについて詳しく
出典: LOIとは・クラリスキャピタル
出典:LOIを提出するにあたっての注意事項・クラリスキャピタル

4. 基本合意書(MOU)の作成~なぜ、中間合意をするのか?~

意向表明を行い、ある程度話がまとまった段階で、それまでに合意したことをまとめるのが、基本合意書(MOU: Memorandum of Understanding)である。
これには暫定的な取引条件と取引保護条項を盛り込むのが一般的である。

・暫定的取引条件
当事者、手法、価格などを暫定的な条件を記載、確認することで、続くデューディリジェンス(買収監査)の基礎とすることを目的としている。また、売り手は買い手の本気度を知ることが出来て安心できる。
(法的拘束力は持たせず、最終的な契約締結義務も負わないのが一般的)

・取引保護条項
第三者との交渉に関しての取り決めや、交渉決裂した際の違約金(Break Up Fee)その他について取り決める。
買い手は、買収監査で専門家費用などもかかるため、途中で他社と交渉されてブレイクするとそのコストが無駄になるため、それを防ぐ。
 -排他的交渉権(No-shop/No-talk条項)
  第三者提携に向けた一切の行動の禁止
 -Fiduciary Out条項
  第三者からの有利な条件での申し込みがあった際にOKしてもよいとする例外条項

cf. ①基本合意書について
出典:基本合意書(MOU)とは・クラリスキャピタル
②基本合意書にいれる条項は?
出典:MOU・デロイトトーマツ
③上場企業は基本合意書を締結しない?
出典:基本合意書と適時開示①・クラリスキャピタル
④Fiduciary Out条項の使いどころって?
出典:合併合意後に第三者が現れた時の注意点・日経ビジネスonline

5. DD(デューディリジェンス)の実行~対象会社にどんなリスクが含まれてるか~

基本合意書を締結したあと、最終的に、本当にその会社を買うのか、買うとしたらいくらで買うのか、どのような手法をとるのか、を決めるための情報を収集するのがDD(Due Diligenceデューディリジェンス、デューデリ、買収監査)である。
事業内容、会計などの財務面、対象会社の持つ法的リスクの特定、把握などの法務面から調査が行われる。
これらの調査結果を総合して、価値がどれくらいあるのか、リスクがどれくらいあるのかを査定し、⓵買収に経済的合理性があるのか、やるのか、やらないのか、②値下げ交渉等々できないか、③契約書にどんな規定を盛り込むか、を決定していくことになる。
最終的な契約の締結に向けての交渉において、どのような事項について表明保証をさせるのか、遵守事項(後述)とするのかという契約交渉の論点もDD(デューディリジェンス)の結果に基づいて決まることになる。

※DDは、基本的には、私的自治の原則のもと買い手が調べることになり、売り手に情報開示義務はない。しかし、買い手側に力だけで調べるのは実際困難であるので、売り手に要求して情報を出してもらうのが一般的である。したがって、敵対的買収において、DDを行うのは非常に大変である。)

・法務買収監査での主なチェック項目
①企業の帳簿と組織
②株式と株主
③資産
④負債
⑤契約関係
⑥人事労務
⑦法令順守、許認可
⑧訴訟紛争
⑨子会社、関連会社

cf.①おもに会計面からのDD
出典:M&A デューデリジェンス①・真面目なM&Aマニュアル
②買収監査の留意点
出典:買収監査における留意点・クラリスキャピタル
③売り手側のDD
出典:M&A セルサイドデューデリジェンス・真面目なM&Aマニュアル

6. 契約交渉、契約締結~リスクをどのように契約の条項で対応するか?~

DDにより判明した法的リスク等に基づき、契約をまとめあげることになる。

以下、特に重要な条項について、4つだけ挙げる。
(企業価値の算定方法(DCF方式などや、Earn Out条項を設けるか)や、代金の支払い方法(Locked Box方式やEscrow方式や、Earn Out条項を設けるかなど)などは別稿に委ねる)

・表明及び保証(Representation and Warranties)
「別紙記載の事実が真実かつ正確であることを表明し、保証する。」
→これと違うことが契約後に判明したときに損害賠償する義務を負わせる。
何か不都合あったら例外を設ける(Carve Out)
e.g. 「○○の知る限り」など主体と時間条件で範囲を絞ったり(Knowledge Qualification)、「重要な点で違反しないことを」など量的に絞り込む(Materiality)、などの方法がある。

cf. 詳しくは
出典:企業買収の交渉における当事者の情報開示義務および企業買収契約における表明保証条項の意義と機能・知的財産 法とビジネス aquila’s blog

・遵守事項(Covenants)
-特に引渡日までに当事者が負う義務として
事前承諾事項、通知義務、役員の辞任、貸付の清算など
-引渡後
売主の競業避止義務、役員責任等の免除、買い手の雇用継続義務など

・前提条件(Condition Precedent)
契約実行日において、指定したことが満たされることを前提条件として、義務の履行を行う、という規定。
表明保証違反に備え、履行すべき義務の履行、遵守事項の遵守を促す。
買い手は、前提条件が満たされなかったときに代金の支払いを拒絶できる。

・MAC条項(Material Adverse Change)
重要な悪影響を与える可能性のある事由または事象が発生してないことを保証する。
MACが発生したときに、違約金や損害賠償を支払うことなく契約を解除して取引から撤退する権利を盛り込んだ条項。

ほかに、補償について上限額を設けたり(Cap条項)など様々な条項がありうる

cf. 最終契約書へ
出典:M&A 最終契約書・真面目なM&Aマニュアル
出典:M&Aの契約書における留意点・クラリスキャピタル

7. 契約の実行(Closing)~実行に条件をつけるか?~

契約実行日を、売買契約の実行日とはずらしたり、先述の前提条件やFinance Out条項(実行日までに十分な資金調達ができなかったら契約を解除できるようにする条項)などを盛り込んだりしうる。

まとめ

M&Aについては、随所で様々なリスクが存在し、対処には高度の専門性が要求される。したがって、基本的に、買収監査や契約交渉は、外部の専門家に依頼することになるだろう。しかし、法務部の段階で一定の見通しをもって依頼を行えば、専門家への依頼料、タイムチャージを軽減することにつながる余地があると思われる。

cf. M&A全体について
出典:M&Aマニュアル本文・顧問弁護士完全マニュアル
出典:弁護士が無料で教えるweb法律相談所~あなたの法律顧問~

企業法務ナビよりお知らせ
本記事は、約1年3ヶ月前に投稿された記事です。法律を内容とする記事の特性上、その改正や他の特別法の施行、経過措置期間の経過、関連判例の出現などによって内容が古くなり、現在は誤りとなる可能性がありますので、ご注意下さい。
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