機密保持契約締結にあたっての注意点
2015/06/19   契約法務, 民法・商法, その他

機密保持契約について規定すべき事項

a目的事項
目的事項では、取引において、相互に開示する情報の保護を目的として本契約を締結する 旨を規定します。
b機密情報の定義
本契約において何が秘密情報に当たるのかを定義しておきます。

機密情報の規定の仕方

機密情報の規定の仕方については
①開示される情報の一切を機密情報とした上で、一定の例外を設けるパターンと
②開示される情報のうち、一定の情報のみを機密情報とした上で、例外を認めるパターンがありえます。

機密保持義務を相手方のみが負う場合で自社は開示するだけの場合、第1次的には、①の一切の情報を機密情報とする方式で交渉するのが妥当です。なぜならば、相手方の義務の範囲が広くなるため、自社の情報が漏洩する危険が少なくなるからです。

他方、自社も機密保持義務を負い、自社のみが機密保持義務を負う場合は、自社の義務を明確化するために、②のように一定の情報のみを機密情報とするように交渉するのが妥当です。
双方が機密保持義務を負うときには、双方の義務の内容が同等になるように交渉するのが通常です。相手方に負わせたい義務の内容や、自社が守らなければならない義務の内容をよく検討した上で、①にすべきか②にすべきかを決める必要があります。

機密情報の範囲と、口頭で開示する場合の注意点

機密保持契約の規定の仕方について、②にする場合には、どの範囲の情報を機密情報にするのかを決める必要があります。この場合、さまざまな種類の情報が開示されることが多いため、定型的に「~に関する情報」という定義のみで機密情報が定義されることは基本的にはありません。

開示される情報が書面等によるものであれば「機密」等と明示されたものを機密情報とし、また、口頭等で開示されるため上記のような明示ができないものについては、別途機密情報である旨を一定期間内に相手方に通知したものが機密情報とされることが多いです。
したがって、まずこの方式をとる場合には、書面等で機密性のあるものについて機密情報である旨の明示をすることが自社にとって実際的か否かを検討する必要があります。実務的には、相手方に開示する書類等には、(公開されている情報などを除き)すべて機密情報である旨を明示しておくのが簡便です。

なお、口頭等で開示される場合に一定期間内に相手方に通知したものを機密情報とする場合、開示から通知がなされるまでの期間は機密情報にならないのではないか、という点も一応問題になります。
通常、ここまで規定した契約書は多くありません。しかし、例えば「口頭等で機密である旨を明示して開示された全ての情報は、X日間機密情報として取り扱われ、当該X日間の期間中に 開示者が当該情報が機密である旨を明示した書面を被開示者に示すことにより、その後も機密情報として取り扱われる」といった規定を設けておくと、問題は生じないことになります。

口頭等で開示される場合には、別途機密情報である旨を通知することが、自社にとって実際的か否かを検討する必要もあります。これは、実際には行っていない企業も多いと思います。
しかし口頭等の場合には、かえって機密性の高い情報が提供されることもあるため、本来であれば、この通知は厳密にしておく必要があります。
ただ、わざわざ書面を作って相手方に送付するのは、手間のかかることではあるため、あらかじめ機密保持契約書に通知の様式を添付しておいて、その様式に情報の概要などを記載して送付できるようにしておくのもお勧めです。そのような様式が添付された機密保持契約書は実際には多くありませんが、口頭で伝えた機密性の高い情報について通知を怠っていたために相手方が機密保持義務を負わないという事態は避ける必要があるので、そのような事態をなくすためには、なるべく通知を簡便に行うことができるようにしておく必要があります。
したがって、機密情報指定通知の様式を添付した上で、さらに通知は電子メールでもかまわないというかたちで規定しておくのがもっとも簡便です。

機密保持の例外事項

いかなる場合に情報を開示してもよいのかについての例外を規定する必要があります。例ちしては、既知、公知、第三者知得、独自開発です。また、子会社に対して機密情報を開示することを許諾しておくこともあり得ます。取引において、子会社が不可欠な場合などです。

機密保持義務の内容

ここでは、機密情報を受領した者が当該情報を第三者に開示、漏洩することを禁止する旨を規定します。また、取引に必要がないにもかかわらず、機密情報を書面による承諾なく複製してはならないことを規定します。情報の管理の方法については、例えば関係者以外立ち入れない部屋のパソコンで保存するなど、具体性を持たせて規定することが望ましいでしょう。

第三者委託

機密情報を使用する者のうち、受領者の業務委託先・外注先・下請け(以下、総称して「業務委託先」とします)について説明します。
機密情報の受領者の業務委託先は、受領者自身の従業員や役員とは違って、統制があまり効きません。したがって、極めて情報漏洩のリスクが高い開示先です。
このような事情があるため、安易に業務委託先に対する機密情報の開示を認めるべきではありません。

企業取引においては、契約当事者が契約の目的を達成するために業務委託先を利用することはよくあることです。他方で、業務委託先からの情報漏洩は、日々報道されているように、後を絶ちません。このような意味で、受領者の業務委託先は、最も情報漏洩のリスクが高い情報の開示先であるといえます。
ところが、このような業務委託先は、機密保持契約の当事者ではなく、第三者ということになります。このため、機密情報の開示者は、受領者の業務委託先に対して、直接的な機密保持義務などを負わせることができません。契約の拘束力が及ぶのは原則として当事社たる会社のみです。
このため、開示者としては、原則として、受領者による業務委託先への機密情報の開示を認めるべきではありません。

しかし、現実問題として、受領者による業務委託先への機密情報の開示を全く認めないと、契約の目的を達成できない場合は多いです。この場合、開示者としては、機密保持契約において、受領者に対して、業務委託先への対応を義務づけます。
具体的には、①開示者が認めた業務委託先に対してのみ機密情報の開示を認めること、②再委託・孫請け等を禁止すること(後述)、③業務委託先に対して機密保持義務を課すこと、④業務委託先や再委託先・孫請けなどが問題を起こした場合に受領者が連帯して責任を負うことなどを求めます。
ただし、これらの契約条項の内容があまりに拘束性が高く、受領者にとって非常に厳しいものであれば、契約条項として無効となる可能性もあります。

再委託先・孫請けの機密保持義務

契約の内容によっては、受領者の業務委託先が、再委託先や孫請けを使うことがあります。 このような再委託先や孫請けは、業務委託先同様に第三者であり、開示者にとっては、受領者と業務委託先を間に挟んでいるため、業務委託先以上に統制が効きません。情報漏洩のリスクは更に高まるといえます。
このため、業務委託先以上に、これらの再委託先や孫請けに対しては、機密情報の開示を認めるべきではありません。

特に注意すべきは、再々委託や三次下請けなど、延々と業務委託を繰り返している業界の企業との契約を結ぶ場合です。この場合は厳重に機密情報の取り扱いを決めてください。代表的な例としては、建設業とソフトウェア・システム開発業があります。
建設業の場合、建設業者は、建設業法で機密保持義務が課されていません。このため、機密情報の管理が非常に荒くなる傾向があります。問題となる例は、製造業者が工場を建てる場合の、工場のレイアウト等の漏洩の問題です。工場を建てる際の建設工事請負契約書には、しっかりと機密保持義務や下請け・孫請けの管理監督を規定しておくべきです。

ソフトウェア・システム開発業の場合、直接的に業界そのものを規制する法律がありません。また、頻繁に情報のやり取りが行なわれていますので、どうしても情報の管理は荒くなりがちです。この場合リスクとして考えられるのが、顧客管理のシステム開発の場合の、顧客情報の漏洩の問題です。
システム開発の際のシステム開発契約書には、しっかりと機密保持義務や下請け・孫請けの管理監督を規定しておくべきです。

機密情報に関与する従業員の退職後の機密保持義務

退職後に機密情報が漏洩することを防ため、退職後の機密保持義務を規定しておく必要があります。より確実に義務を履行させるためには、退職時に機密情報を明確に特定した上で、再度機密保持誓約書を提出させることを規定しておくのが有効です。

法令等に基づく開示

行政、司法機関その他正当な法令上の権限を有する官公署から、相手方から受領した機密情報の開示を要求される場合があります。これに備えて、機密保持義務についての例外を定めておくことが必要です。
内容としては、相手方に対して、当該要求のあった旨を遅滞なく書面にて通知すること、機密情報のうち、合理的に適法と推定できる権限に基づいて開示が要求されている部分についてのみ開示すること、開示する機密情報につき、機密情報としての取扱いが受けられるよう最善を尽くすこと、などが考えられます。

関連発明

契約当事者が、相手方から受領した機密情報に基づいて発明、考案、意匠、商標、著作物等の知的財産の創作を行った場合、その権利帰属を明確にしておく必要があります。
その際、発生の都度の協議によることを規定する場合もありますが、その知的財産権の価値によっては話し合いができない可能性もあります。
従って、そのような場合に備えて、「情報を出した側に帰属する」「すべて共有とする」「仮にどちらの成果物になったとしても、相手方に無償の非独占的実施権を許諾する」などの規定を設けておくべきでしょう。

損害賠償、差止め

契約に違反して機密情報を漏洩した結果相手方に損害を与えた場合、違反により相手方に損害を与えた当事者は、当該機密漏洩と相当因果関係の範囲内にある、相手方に直接発生した損害を賠償する責任を負うという旨の規定を設けるべきです。
また、情報漏洩がなされようとしていることが判明した場合、その防止を求めることができるように、差止め請求権が存在することも規定しておくことが望ましいです。 

報告義務

機密保持義務違反やその違反のおそれが生じた場合に、そのような事態が発生したという事実についての報告義務を課しておくべきです。これにより、問題の発生について迅速な対応が可能になります。
また、受領当事者が開示当事者に対し機密情報の利用状況についての経過報告を求めることができるようにしておくことも必要です。

契約の有効期間

製造ノウハウや顧客情報などの情報については有効期間を定めることが通常です。短い期間であるほうが義務が履行される可能性が高いといえます。ソフトウェア等の技術的な情報、市場情報など、割合早く陳腐化する情報については、3年あるいは5年という期間で切る場合が多いです。機密の性質に応じた必要な範囲の義務期間を設定すべきでしょう。 

【出典元】・寺村総合法律事務所 秘密保持契約の解説 秘密保持契約のポイント1から3
     ・小山内行政書士事務所 秘密保持契約書の達人

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