労働者派遣法改正!新採用の待遇決定方式のポイント解説

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はじめに

来る4月1日に改正労働者派遣法(以下、派遣法)が施行されます。

今回の派遣法の改正は、平成30年7月に公布された働き方改革関連法(正式名称:「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」)の一環として行われたものです。

同じく働き方改革関連法によって改正されるパートタイム・有期雇用労働法と異なり、中小企業への経過措置がとられておらず、全ての企業を対象として一斉に施行されます。

そこで今回は、派遣法改正の目玉となる二つの派遣労働者の待遇決定方式につきポイントをまとめました。

既に厚生労働省は、企業向けに派遣法改正への具体的な対応を詳細にまとめたマニュアル(以下、マニュアル)を策定しています。以下、各項目ごとにマニュアルの該当ページを参照しながら本記事を読んで頂くとより理解が深まるかと思います。また、厚生労働省が公表している書式例についてもリンクを掲載しておりますので是非ご活用ください。

厚生労働省「不合理な待遇差解消の点検・検討マニュアル」

改正労働者派遣法の基本的な考え方

今回の法改正の趣旨は、「同一労働・同一賃金」の理念の下、派遣社員と派遣先企業の「通常の労働者(=正社員)」につき「均等待遇」・「均衡待遇」を図ることで、派遣社員の待遇に対する納得感を高めようとしたものです。

「均等待遇」とは、
派遣労働者の待遇につき、派遣先の通常の労働者と同じ方法で決定されること

「均衡待遇」とは、
派遣労働者の待遇につき、派遣先の通常の労働者の待遇との間に不合理な差がないこと

をいいます。

派遣労働者の待遇を決定する際の規定の整備-2通りの待遇決定方式

今回の改正では、派遣元に対し、

(1) 派遣先均等・均衡方式

(2) 労使協定方式 

のいずれかの方式により派遣労働者の待遇を決めるよう義務付けられました。

派遣先企業は、待遇決定方式が(1)(2)いずれの場合であっても、派遣元との間で労働者派遣契約を締結するにあたり、あらかじめ派遣労働者に対し待遇に関する情報を提供する義務があります(改正派遣法26条7項、詳細後述)。

もし仮に派遣先企業から情報提供がない場合、派遣元は派遣先企業と労働者派遣契約を締結できないものとされています(改正派遣法26条9項)。

それでは、それぞれの待遇決定方式につき、労働者派遣契約の締結に至るまでの流れに沿って説明していきたいと思います。

(1) 派遣先均等・均衡方式  ※マニュアル27頁~

 
マニュアル抜粋版(PDF)

派遣先均等・均衡方式とは、派遣先で派遣労働者と同一の業務を行っている正社員の賃金等の待遇を参考にしつつ、派遣労働者の待遇を決定する方式のことをいいます。

※全体の流れ

① 比較対象労働者の待遇情報の提供(改正派遣法26条7項・10項)

               ↓

② 派遣労働者の待遇の検討・決定(改正派遣法30条の3)
 
           ↓

③ 派遣料金の交渉(改正派遣法26条11項)

           ↓

④ 労働者派遣契約の締結

以下、各過程につき概説していきます。

① 比較対象労働者の待遇情報の提供(改正派遣法第26条7項・10項)※マニュアル34頁~

派遣先企業は、あらかじめ派遣元に対し、派遣労働者が従事する業務ごとに、「比較対象労働者」の全ての待遇に関する情報を提供しなければなりません。

ここで提供する情報には、基本給や賞与のみならず、各種手当や福利厚生、教育訓練、安全管理に対する措置の有無などが含まれます。

派遣先が事実に反するような内容の情報を提供した場合、指導・勧告・公表の対象となるおそれがあります(改正派遣法48条、49条の2)。

派遣先は、次のア~カの優先順位により「比較対象労働者」を選定しなければなりません。

ア 「職務の内容」と「職務の内容及び配置の変更範囲」が同じ通常の労働者

イ 「職務の内容」が同じ通常の労働者

ウ 「業務の内容」又は「責任の限度」が同じ通常の労働者

エ 「職務の内容及び配置の変更範囲」が同じ通常の労働者

オ ア~エに相当するパート・有期雇用労働者

カ 仮に派遣労働者と同一の業務に従事させるために新たに通常の労働者を雇入れた場合における当該労働者

派遣先は、比較対象労働者を選定したのち、以下のア~オの「待遇に関する情報」を整理して派遣元に書面、FAX、電子メール等で提供しなければなりません。


ア 比較対象労働者の職務の内容、職務の内容・配置の変更の範囲、雇用形態

イ 比較対象労働者を選定した理由     

ウ 比較対象労働者の待遇のそれぞれの内容(昇給、賞与その他主な待遇がない場合、その旨。)

エ 比較対象労働者の待遇のそれぞれの性質、当該待遇を行う目的

オ 比較対象労働者のそれぞれを決定するに当たって考慮した事項

派遣元は待遇に関する情報が記載された書面等を、派遣先はその書面等の写しを、労働者派遣契約が終了した日から3年を経過するまで保管しなければなりません(改正派遣法規則24条の3)。

※比較対象労働者の情報提供の記載例
・特定の個人との比較(PDF) (Word)
・複数人との比較(PDF) (Word)
・標準的な労働者モデル(上記比較対象労働者の優先順位カに該当する場合)(PDF) (Word)
・情報提供の書面雛形(PDF) (Word)

② 派遣労働者の待遇の検討・決定(派遣法30条の3)※マニュアル40頁~

派遣元企業は、派遣労働者の基本給、賞与その他全ての待遇のそれぞれにつき、派遣先の通常の労働者(=正社員)の待遇との間で不合理な取り扱いをしてはいけません。

そこで、派遣元企業は、派遣先から比較対象労働者の待遇に関する情報を入手した後、派遣労働者につき「均等待遇」と「均衡待遇」のいずれの対象になるのかをあらかじめ判断する必要があります。

派遣労働者につき「均等待遇」と「均衡待遇」のどちらによって扱うべきかは、派遣労働者と派遣先の正社員の間における、

(i) 職務内容の差異(仕事内容や責任の程度に違いはあるか)

(ii) 職務内容の変更及び配置変更の範囲の差異(転勤があるか、配置換えがあるか)

によって決まります。

具体的には、

(i)と(ii)が同じ場合⇒「均等待遇」

(i)と(ii)のいずれかが異なる場合⇒「均衡待遇」

となります。

「均等待遇」が求められる場合には、比較対象労働者(=派遣先の正社員)と同じ基準で扱う必要があります(派遣法30条の3第2項)。ただし、同じ取り扱いの下で能力・経験等の違いにより差が付くことは許容されます。

一方、「均衡待遇」が求められる場合には、派遣社員と派遣先正社員との職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項を勘案して賃金を決定するように努めなければなりません(改正派遣法30条の5)。

③ 派遣料金の交渉(改正派遣法26条第11項)

派遣先は、派遣料金の交渉の際、派遣先均等・均衡方式による待遇改善が行われるよう配慮しなければなりません。

④ 労働者派遣契約の締結

派遣先は、労働者派遣契約締結の際、派遣労働者に対し派遣労働者 が従事する業務ごとに比較対象労働者の賃金等の待遇に関する情報を提供しなければなりません(改正派遣法26条7項)。

        

(2) 労使協定方式 ※マニュアル73頁~

派遣元事業者が、派遣労働者と同等の業務を行う一般的な労働者の平均的な賃金を参考にして、派遣労働者との労使協定で決定する方式のことをいいます。

※全体の流れ

① 労使協定の締結(改正派遣法30条の4)

  ↓

② 比較対象労働者の待遇情報の提供(改正派遣法26条7項・10項)

     ↓

③ 派遣料金の交渉(改正派遣法26条第11項)

          ↓

④ 労働者派遣契約の締結

以下、各過程につき概説していきます。

① 労使協定の締結(改正派遣法30条の4)

派遣元事業主は、まず派遣元に雇用される全ての労働者(派遣社員を含む)の過半数で組織する労働組合、又は過半数代表者と労使協定を締結しなければなりません。

過半数代表者が適切な手続により選出されていない場合、労使協定方式は適用できず、派遣先均等・均衡方式が適用されます。

労使協定においては、次のア~カの事項を全て定めなければなりません(派遣法30条の4第1項1~6号、派遣法施行規則25条の7~10)。そして、イ~オの事項を遵守していない場合には、労使協定方式は適用できず、派遣先均等・均衡方式が適用されます。

ア 労使協定の対象となる派遣労働者の範囲

イ 賃金の決定方法(以下の2つの条件を充たすものに限る)

  • 派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般労働者の平均的な賃金額と同等以上の賃金額となるもの
  • 派遣労働者の職務の内容、成果、意欲、能力又は経験等の向上があった場合に賃金(但し、通勤手当や住宅手当のような職務の内容に密接に関連して支払われる賃金ではないものを除く)が改善されるもの

ウ 派遣労働者の職務の内容、成果、意欲、能力又は経験等を公正に評価して賃金を決定する旨

エ 労使協定の対象とならない待遇を除く待遇の決定方法(派遣元に雇用される通常の労働者(派遣労働者を除く。)との間で不合理な相違がないものに限る。)

オ 派遣労働者に対して段階的・計画的な教育訓練を実施する旨

カ その他の事項

  • 有効期間(2年以内が望ましい)
  • 労使協定の対象となる派遣労働者の範囲を派遣労働者の一部に限定する場合は、その理由
  • 特段の事情がない限り、一の労働契約の期間中に派遣先の変更を理由として、協定の対象となる派遣労働者であるか否かを変えようとしないこと

◎労使協定方式における賃金の決定方法※マニュアル77頁~

労使協定方式において派遣労働者に対して派遣元が支払う賃金額は、就業「同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額(以下、一般賃金)」と同等以上のものでなければなりません。

一般賃金とは、派遣就業先の地域における、派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般労働者(=正社員)のうち、派遣労働者と同程度の能力・経験を有する者の平均的な賃金額のことをいいます。

一般賃金は次の3つの項目に分類され、原則としてそれぞれの項目ごとに検討する必要があります。

  • 基本給・賞与等
  • 通勤手当
  • 退職金

詳細は、厚生労働省職業安定局長の通達によって示されていますので、そちらを参照してください。

令和2年度の「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第30条の4第1項第2号イに定める「同種の業務に従事する 一般の労働者の平均的な賃金の額」」等について(PDF)
概要版(PDF)

なお、この通達は毎年更新される予定となっています。従って、派遣元は通達が更新される度に賃金額が一般賃金を下回っていないか確認する必要があります。

派遣元は、労使協定を締結した際、次のア~ウのいずれかの方法により、労使協定の内容を派遣労働者に周知する必要があります(改正派遣法30条の4第2項、派遣法施行規則25条の11)


ア 書面の交付等(原則として書面の交付。労働者が希望した場合、FAXや電子メール可。但しプリントアウトできるものに限る)

イ パソコンに備えられたファイル、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、労働者が当該記録の内容を常時確認できる状態にしておくこと

ウ 常時派遣元の各事業所の見やすい場所に提示し、又は備え付けること(但し、協定の概要につき書面の交付等により併せて周知する場合に限る)

      
派遣元は労使協定を締結した場合、毎年6月30日までに労働局に提出する事業報告書に労使協定を添付する必要があります。その際、労使協定方式の対象となる派遣労働者の職種ごとの人数及び賃金額の平均額を報告しなければなりません(改正派遣法23条5項、改正派遣法施行規則18条の2第3項)。

さらに、派遣元は労使協定に係る書面を、労使協定の有効期間が終了した日から3年を経過する日まで保存しなければなりません(改正派遣法施行規則18条の2第3項)。

労使協定のイメージ(PDF)

② 待遇情報の提供(改正派遣法26条7項・10項)※マニュアル96頁~

派遣先は、派遣元に対し次の待遇に関する情報を提供しなければなりません。

  • 派遣労働者と同種の業務に従事する派遣先の労働者に対し、業務の遂行に必要な能力を付与するために実施する教育訓練
  • 福利厚生施設(給食施設(社員食堂など)、休憩室、更衣室)

派遣先均等・均衡方式の場合と異なり、派遣先が提供する情報の範囲が限定されています。

これは、賃金や賞与、各種手当といった金銭的な待遇の決定方法については、既に労使協定で定められているためです。

派遣先企業が待遇に関する情報を提供する際には、派遣先均等・均衡方式と同じく、 書面等(書面の交付、FAX、電子メール等)の交付により行わなければならず、 派遣元は書面等を、派遣先は当該書面等の写しを、労働者派遣が終了した日から3年を経過する日まで保存しなければなりません(改正派遣法施行規則24条の3)

③ 派遣料金の交渉(改正派遣法26条11項)

派遣先は、派遣料金につき労使協定方式による待遇決定の方法に沿って待遇改善が行われるよう配慮しなければなりません(改正派遣法26条11項)。

④ 労働者派遣契約の締結

派遣先均等・均衡方式と同じく、派遣先は、労働者派遣契約締結の際、派遣労働者に対し派遣労働者が従事する業務ごとに賃金等の待遇に関する情報を提供しなければなりません(改正派遣法26条7項)。

     
    

(3) その他留意すべき事項

◎労働者派遣契約に記載する事項に、次の内容が追加されます(改正派遣法26条1項10号、改正派遣法施行規則22条1号、6号)。

  • 派遣労働者が従事する業務に伴う責任の程度
  • 労使協定方式の対象となる派遣労働者に限るか否か

※労働者派遣契約書の書式例
派遣先均等・均衡方式(PDF)
労使協定方式(PDF)

◎派遣元は、派遣労働者に係る事項について就業規則を作成又は変更しようとする時は、あらかじめ雇用する派遣労働者の過半数を代表すると認められるものの意見を聴くように努めなければなりません(改正派遣法30条の6)。

 
◎派遣元が労働者派遣をする際に、派遣先に対し、派遣労働者が労使協定の対象となっているか否かを通知しなければなりません(改正派遣法35条1項2号)。

※派遣先への通知の記載例
派遣先均等・均衡方式(PDF)
労使協定方式(PDF)

◎派遣元が派遣労働者ごとに派遣元管理台帳に次の事項を追加して記載しなければなりません(改正派遣法37条1項1号)。

  • 派遣労働者が労使協定の対象となっているか否か
  • 派遣労働者が従事する業務に伴う責任の程度

※派遣元管理台帳の書式例
派遣先均等・均衡方式(PDF)
労使協定方式(PDF)

◎派遣先は、派遣先の労働者に対して業務遂行に必要な能力を付与する為の教育訓練を実施する場合、原則として派遣労働者に対しても同じく実施する等の必要な措置を講じなければなりません(改正派遣法40条2項、派遣法施行規則32条の2)

◎派遣先は、派遣先管理台帳に次の事項を新たに記載しなければなりません(改正派遣法42条1項1号、改正派遣法施行規則36条2号)。

  • 派遣労働者が労使協定の対象となっているか否か
  • 派遣労働者が従事する業務に伴う責任の程度

※派遣先基本台帳の記載例
派遣先均等・均衡方式(PDF)
労使協定方式(PDF)

コメントーどちらの賃金決定方式を採用すべきか

改正派遣法の構造上、派遣先均等・均衡方式が原則で労使協定方式が例外のようになっていますが、派遣会社はいずれの方式も選択することが出来ます。

もっとも、実務上は労使協定方式を採用する派遣会社が多くなることが予想されます。主な理由としては、労使協定方式の方が派遣先均等・均衡方式に比べて派遣先の情報提供の負担が少ないことが挙げられます。

既に労使協定方式の採用を明らかにしている派遣会社として以下が挙げられます。

また、ランスタッドは、今回の法改正につき企業向けに分かりやすく解説しています。
こちらも参考にしてみてはいかがでしょうか。
randstad HR HUB「【同一労働同一賃金 派遣編】なにがどう変わる?」

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[著者情報] ando

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ベンチャーラボ法律事務所 代表弁護士

1987年 東京大学法学部卒業
1989年 弁護士登録
1995年 ロンドン大学UCL(LL.M.)卒業
2000年よりTMI総合法律事務所にパートナーとして参画
2008年より中央大学ビジネススクール客員講師(13年より同客員教授)
2016年より2018年まで東京大学大学院法学政治学研究科教授
2019年ベンチャーラボ法律事務所開設

主にベンチャー・スタートアップ支援、M&A、国際取引、一般企業法務を取り扱う。

主著として、『業務委託契約書作成のポイント』(共著)、『契約書の見方・つくり方(第2版)』、『ビジネス法律力トレーニング』、『ビジネス常識としての法律(第2版)』(共著)、『シチュエーション別 提携契約の実務(第3版)』(共著)、『会社役員のための法務ハンドブック(第2版)』(共著)などがある。
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