売買契約で気を付けることまとめ

はじめに

 契約においては、当事者の合意によってその内容を自由に決めることができるのが原則で(契約自由の原則)、契約で定められたことに従って互いに債務を果たしていくことになります。もっとも、契約で特に取り決めをしなかった事項については何も拘束がないということにはならず、法律に規定がある場合にはそれに従わなければなりません。つまり、契約で特に取り決めをしなかったということは、決めなかった事項について法律に従うということに合意したことになります。
 ここでは売買契約に関して、契約で特に取り決めをしなかったことで規律を受けることになる法の規定についてまとめておきたいと思います。契約の相手方から提示を受けた契約書において、書かれていない事がらについてどのような法的規律を受けるのか、新たに契約書を作成するときに規定を設けなかった事がらについてどのような法的規律を受けるのか確認しておきましょう。
 また、契約自由の原則の例外として、当事者の自由な合意で取り決めをすることができない強行法規というものもあります。今回の内容に関連する強行法規にも触れておきたいと思います。
売買契約書の注意点

契約締結段階の費用

 契約で定めがない場合、売買契約を締結するためにかかった費用については、当事者双方で折半とされます(民法558条)。
 契約費用負担

引渡し前における目的物の滅失・損傷について

 売買契約の締結後に、目的物が失われてしまったり、損傷してしまった場合、その損失をどちらが負担するかの問題が生じます。民法にはこれについて複雑な定めがなされています(民法534条~536条)。
 危険負担まとめ
 契約書に定めがない場合、この規定が適用されることになります。シンプルな規定を設けることで、万一の場合の処理が明快になるでしょう。

引き渡し後における目的物の不具合について

 特定物(有名画家の絵画や特定の中古品の売買など、その個性に着目した物)の取引においては、売主の担保責任という買主の保護を図る規定があります(民法561条~572条)。契約で定めがない場合、売主は法の規定そのままの責任を負うことになります。
 担保責任

 特に引き渡した目的物に隠れた不具合があった場合、売主にどのような責任が生ずるのかについて注意が必要です。
 売買における瑕疵担保責任
 
 企業間の取引においては、売買によって引渡しを受けた物に不具合がないか検査し、不具合があれば通知しなければ売主に責任を問えず、解除等をするときでも物の保管義務が定められています。
 民法と商法の違い
 商人間の瑕疵担保責任
 物品購入時の検査義務など

 契約書に定めがない場合、これらの規定が適用されることになります。
 また、次の規定については契約書で別の内容を定めることが認められない強行法規となっているため注意が必要です。

・宅地建物取引業法の特則
 宅地建物取引業者が不動産を売る場合の売買契約においては、宅建業法40条に特則があります。宅地建物取引業者が土地・建物を売る場合、担保責任を負う期間を2年間に限定できますが、それよりも短い期間を定めると民法の規定が適用されることになります。契約においてこの特則に反する定めをしても無効です。
 瑕疵担保責任のわかりやすい説明書

・新築住宅の売買に関する特則
住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)第88条では「新築住宅の売買契約においては、売主は、住宅の引き渡しの時から10年間にわたって、構造耐力上主要な部分等に関する瑕疵担保責任を必ず負う」と規定されています。契約においてこの規定に反する定めをしても無効です。
 品確法における売主の担保責任

所有権の移転時期

 民法176条では、「物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。」と規定されています。これにより、所有権の移転時期について契約で定めなかった場合、原則として契約締結時に移転すると考えられています。実際には、契約成立時、支払い時、引渡し時など、所有権の移転時期を契約書に明示するケースがほとんどです。

支払、引渡しに関して

支払期限
 契約で何の定めもしなかった場合、期限の定めのない債務となり、請求を受けた時から遅滞となると定められており(民法412条3項)、請求を受けたら直ちに支払う必要が生じます。
 売買の目的物の引き渡し期限を定めたら、代金支払い期限も同じと推定されます(民法573条)。
 「推定する」という言葉について

支払場所
 契約書に定めがない場合で、目的物の引き渡しと同時に支払うときは、その引渡し場所で支払うこととされます(民法574条)。
 同時でないときについては、 売主の現在の住所においてしなければならないとされます(民法484条)。

引渡しの場所
 契約書に定めがない場合、特定物(有名画家の絵画や特定の中古品など、その個性に着目した物)の引き渡しは契約時にその物が存在した場所で、その他の場合は債権者の現在の住所ですることになります(民法484条)。

引渡しの費用
 契約書に定めがない場合、引渡しを行う者が負担します(民法485条)。

債務を果たさなかった時の措置について

 契約の当事者の一方が債務を果たさなかった場合、法の規定に従って損害賠償請求(民法415条)や解除(541条~543条)をすることができます。
 損害賠償を請求する場合の金額については、代金が支払われなかったときについては、損害額は法定利率5%と推定されます(民法419条1項)。物が引渡されなかったときについては、引渡しがなかったことによって生じた損害を主張し、証明することになります。
 契約において、債務を果たさなかった時の損害賠償の額を事前に定めておくこともできます。
 損害賠償額の予定
 契約書に「損害賠償条項」を記載するとき注意すべきポイント

 契約書において、期日に引き渡しがなければ直ちに解除できるとの条項が盛り込まれることもありますが、そのような定めがない場合、解除するには次のような規定に従う必要があります。
・契約をした当事者が、果たすべき時期に債務を果たさなかった場合、一定期間を定めて債務を果たすよう求め、それにもかかわらず債務を果たさなかったときに、解除できるとされています(民法541条)。
・契約の性質や、当事者の合意等により、特定の日時又は一定の期間内に債務を果たさなければ契約をした目的を達することができないとされる場合、当事者の一方が債務を果たさないままその時期を経過したときは、直ちにその契約の解除をすることができるとされています(民法542条)。企業間の取引では、期間の経過後に直ちに債務を果たすよう請求した場合を除き、解除する旨を伝えなくても解除したものとみなされます(商法525条)。
・契約をした当事者の一方の責めにより、その果たすべき債務の全部又は一部について果たすことができなくなったときは、他方の当事者は契約の解除をすることができます(民法543条)。
 解除について

おわりに

 法務部門に所属して契約書の審査を任されることになったけれど、今まで本格的に法律を勉強してきたことはない、という方もいるかと思います。法の規定がどのようになっていて、個別の契約でそれとどのように異なる定めが置かれているのかを把握できることは契約書の審査においても有益でしょう。また、法の規定と異なる定めがなければ原則通り法の規定に従うことになるため、法の規定を把握しておくことはやはり必要といえるでしょう。

企業法務ナビよりお知らせ
本記事は、約1年1ヶ月前に投稿された記事です。法律を内容とする記事の特性上、その改正や他の特別法の施行、経過措置期間の経過、関連判例の出現などによって内容が古くなり、現在は誤りとなる可能性がありますので、ご注意下さい。
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[著者情報] tamura1

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■濱野 敏彦(西村あさひ法律事務所 弁護士)
2002年東京大学工学部卒業 同年弁理士試験合格
2004年東京大学大学院新領域創成科学研究科修了
2007年早稲田大学法科大学院法務研究科修了
2008年弁護士登録(第二東京弁護士会)
2009年弁理士登録
2011-2013年新日鐵住金株式会社知的財産部知的財産法務室出向

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2008年 フランス系ラグジュアリーブランド日本支社(出向)
2010年 アメリカ、Duke University School of Law(法学部)LLM卒業
2010年 クリフォードチャンス香港オフィス(出向)
2011年 日系の大手財閥系総合商社のイギリス子会社の法務部(出向)
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略歴:
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