株式報酬制度についてまとめ

1.はじめに

 今日多くの日本の企業は、収益力の向上や中長期的な企業価値向上に向け、迅速かつ果断な意思決定を行えるよう、コーポレートガバナンスの強化に取り組んでいます。このような状況の中、経済産業省は『「攻めの経営」を促す役員報酬-企業の持続的成長のためのインセンティブプラン導入の手引-(平成29年4月28日時点版)』を公表しました。この取組みの一つとして、企業は中長期の企業価値向上に対応する役員報酬プランの導入が期待されています。まず、役員報酬プランについて簡単に説明いたしますと、役員報酬プランとしては報酬の計算方法の違いより大きく分けて二つの型があります。一つは、フルバリュー型という株式そのものを対象とするものであり、もう一つは値上がり益型という株価が一定時点より値上がりした部分を役職員の報酬とするものです。以下、それぞれの型での報酬の支払方法にどのようなものがあるかを簡単に紹介します。

2.フルバリュー型の株式報酬

(1)リストリクテッド・ストック(譲渡制限付株式)
【意義】
役員や従業員に報酬として無償で付与されるものの、一定期間その株式の処分や売却が制限(禁止)される株式のこと
※一定の期間とは、専ら在職中のことを指します。なぜなら、役員が報酬を受け取って、そのまま取り逃げることを防止するため。
※欧米では、条件が達成されないと、没収される仕組み

リストリクテッド・ストック
新しい報酬制度:リストリクテッド・ストックに関連する法制度の整備について

(2)パフォーマンス・シェア(業績連動株式報酬)
【意義】
中長期の業績目標の達成度合いに応じ、現物の株式の譲渡制限を解除(残りの株式については、役員から無償取得)する株式のこと

特定譲渡制限付株式の活用に関する実務上の留意点

(3)信託型役員報酬プラン(将来付与する予定の株式をあらかじめ信託にプール)
【意義】
企業の株式を信託内に留保した上で、業績などに応じた数の株式やその換価処分金を報酬として役員に給付する株式のこと

役員インセンティブ・プラン「役員報酬BIP信託」のご案内
信託を活用した株式報酬制度の登場

(4)1円ストックオプション(行使価格が1円)
【意義】
権利行使価格を1円等極めて低額に設定し、権利行使することで株式自体が報酬となるとともに、株価の上昇が更なる報酬となる株式のこと

ストック・オプションを語る資格、利用する資格

3.値上がり益型の株式報酬

(1)通常型ストックオプション(行使価格が発行時の時価近辺で、無償発行)
(2)有償ストックオプション(行使条件を付け、有償発行)
【意義】
役員が予め決められた価格(有償または、無償)で自社株を買う権利のこと

ストック・オプションの報酬制度としての活用

(3)SAR(ストック・アプリシエーション・ライト)
 【意義】
役員や従業員に対して付与時の株価と権利行使時の株価の差額を現金(もしくは株式)で受取る権利を約束する株式のこと

(4)ファントムストック
 【意義】
実際の株式や、株式の購入権利を与えるのではなく、実際には存在していない架空の株式を従業員に付与すること

「ファントムストック」とは? | メリットとデメリットや導入方法とSAR、ストックオプションとの違い

4.知っておいた方が良い用語

(1)キャッシュアウト
キャッシュフローにおいて、お金が手元から外へ流出すること。

キャッシュアウトとは

(2)リテンション
 【意義】
既存顧客との関係を維持していくためのマーケティング活動のこと。

リテンション

(3)ダウンサイドリスク
 【意義】損失を受ける可能性のこと

ダウンサイドリスク【Downside Risk】

(4)パラボリック
 【意義】
大きなトレンドを見る上で役に立つテクニカルチャート

パラボリックとは

5.両型の比較

 株式報酬制度を導入するとすると、まず、フルバリュー型と値上がり益型どちらにすべきかが問題になります。
 結論からいえば、どの点を重視するかによって判断が分かれると考えます。
 端的にまとめますと、フルバリュー型はローリスク・ローリターン型であり、値上がり益型はハイリスク・ハイリターン型になります。
 以下、細かく利点を見ていきます。
 フルバリュー型を選ぶとすると、貰い手が得られる利益は付与時の株式価値そのものであるため、株主と同様に株主価値に応じて損得が発生します。このことから、株主との利益・リスクの共有度が値上がり益型に比して相対的に強く働きます。この共有度の強さから、貰い手は株式価値の維持の視点を強く意識することになります。そして、貰い手は株式価値が会社の業績に連動することから、自己の報酬額についても固定報酬より納得を得やすくなります。
 これに対して、値上がり益型を選ぶとすると、理論単価(現物価格から考えた場合の株式先物の理論上の価格)が通常株価の2分の1若しくは3分の1に設定されることからすると、株式価値の上昇による得られた利益がフルバリュー型よりも大きくなります。そのことから、貰い手としては、株式価格の上昇への意識が強くなります。

6.企業の導入状況

 今日、企業の導入が多い型は、フルバリュー型の株式報酬です。
 その理由としては、不透明になりがちな報酬におけるガバナンスの透明性を確保する点で適していること、及び経産省がこの報酬方法の導入を推奨していることが主だっていると思われます。また、値上がり益型では、現在世界の金融状況が政治的要因等で予測が難しいこと、マイナスにもなり得るため貰い手の納得が得られにくいことや、一度大きく権利行使価値を下回ってしまうと株式価値を維持しようとする気持ちが希薄化してしまうことのデメリットから、フルバリュー型を採用することが多いようです。
 

関連サイト

株式報酬制度
役員報酬ーこれからの業績連動の在り方
株価向上を目的としたインセンティブ・プランに関する考察
-ストック・オプションと日本版 ESOP を中心に-

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[著者情報] aota

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2003年京都大学法学部、2016年ワシントン大学ロースクール(LLM)卒。2017年ワシントン州司法試験合格。2011年1月~2012年6月預金保険機構、2016年8月~2017年7月米国シアトルのShatz Law Group勤務。
趣味は、ロングトレイルを中心にランニング全般。
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