強行法規まとめ

法務担当者が“法務”を語る新しいWEBメディアはコチラ

1 はじめに

 契約書を用いて企業間で取引する場合には、当事者間で合意した事項を契約条項として契約書に記載します。この合意した契約事項は、「法令中の公の秩序に関しない規定」(任意法規)に抵触しても、優先して効力を持ちます(民法91条)。これは、個人の権利義務関係が個人の自由な意思に基づいて形成されるべきと考えられているからです。しかし、法令中の「公の秩序に関する規定」(強行法規)に反する契約条項を定めた場合には、その契約条項が無効となります(民法91条反対解釈)。
 企業法務担当者としては、契約条項から想定される法的・経済的リスクを検討するなかで、自社や相手方の企業が定めた各契約条項が法令中の強行法規に違反して無効になるリスクも検討しなければなりません。ここでは、民法やそのほかの民事法の強行法規や判例をまとめることで、法務担当者が回避しなければならない強行法規違反のリスクを考えていきます。

参考
小倉総合法律事務所「契約書のドラフト・レビュー強行法規と抵触する条項の取扱い」

2 強行法規・任意法規

(1) 定義
 強行法規とは、公の秩序に関する規律で違反すると私法上無効となるものをいいます。そして、任意法規とは、公の秩序に関しない規定で当事者が別の定めをしてよいものをいいます。
 強行法規の趣旨には、物権法に多い第三者の信頼や取引の安全を保護するもの、経済的・社会的弱者の利益を守るものがあります。

(2) 民法等における明文の定め
 強行法規の例として、民法146条は「時効の利益は、あらかじめ放棄することができない」と定めています(※時効の利益とは、時効の法的効果により生じる利益をいいます。たとえば債務者が消滅時効により債務を免れることができる利益をいいます。)。他にも、物権法定主義を定めた民法175条が明文の強行法規として存在します。
 また、任意法規である旨が明記されている場合もあります。利息債権について、「別段の意思表示がないときは」利率を年5分と定める民法404条がその場合です。第三者弁済について「当事者が反対の意思を表示したとき」にできなくなる民法474条1項ただし書もその場合です(※第三者弁済とは、債務者でない第三者が債務の弁済をすることをいいます(民法474条1項本文))。

(3) 両者の区別
 上記の場合は明白ですが、多くの場合には強行法規・あるいは任意法規のいずれにあたるかを規定の趣旨から個別の条文ごとに判断していくしかありません。
 たとえば、民法570条の瑕疵担保責任は任意法規であって(改正民法562条1項では、瑕疵担保責任ではなく、「契約の内容に適合しない」場合の責任とされています)、売買契約書において瑕疵担保責任を排除したり、責任が生じる期間を短縮することもできます。
 大まかには物権法や家族法の規定には強行法規が多く、債権法には強行法規が少なく任意法規が多いといえます。また、利息制限法、労働基準法13条、消費者契約法1条など特別法にも強行法規があります。

定義や強行法規の趣旨について、
松岡久和『民法第1部(民法総則+親族) 第11回法律行為の自由と制約(1)-強行法規違反・公序良俗違反』(2005年)

『民法まとめ 強行法規違反』(2015年)

(3) 判例
 ヨットクラブにおいて、オーナー会議で会員の権利譲渡を承認された場合にのみ退会できる規定が強行法規(民法678条)違反として無効になると最高裁は判断しました(最判平成11年2月23日民集第53巻2号193頁)。
 「民法678条は、組合員は、やむを得ない事由がある場合には、組合の存続期間の定めの有無にかかわらず、常に組合から任意に脱退することができる旨を規定しているものと解されるところ、同条のうち右の旨を規定する部分は、強行法規であり、これに反する組合契約における約定は効力を有しない…。けだし、やむを得ない事由があっても任意の脱退を許さない旨の組合契約は、組合員の自由を著しく制限するものであり、公の秩序に反するものというべきだからである。」

3 具体的に問題になる場面

(1) 秘密保持契約
 秘密保持契約では、秘密保持の有効期間が定められることがあります。ここでは、一般的に1年から3年で期間を区切る定めをする条項が多いです。
 なかには、秘密保持期間を契約締結時から永遠とするものもあります。秘密保持義務を負う者に、過大な秘密保持義務の責任を負わせるものであり、強行法規である民法90条に違反する可能性もあります。
 仮に民法90条に違反しないとしても、営業上の秘密や技術上の秘密が時間が経過するごとに、情報が新鮮でなくなり機密性も低下します。それだけではなく、過大な責任を課すよりも絞られた限定した秘密保持義務の責任が当事者としてより守りやすいといえます。これらから、有効期間を永遠とすることに合理性がなく、情報の性質を見ながら適切に有効期間を設定すべきです。

(2) 業務委託契約
 ITベンダーが提供した情報通信サービスに不具合が生じた場合、ユーザに対して、債務不履行に基づく損害賠償責任を負います(民法415条)。ただ、民法416条にある損害をベンダーが全て負うとなると、非常に過大な責任となってしまいます。
 そのため、ITサービスを提供する際に結ばれる業務委託契約書では、責任制限条項を設けて、賠償範囲を代替品の調達費用などの通常損害に限定し、売上減少分などの特別損害について責任を負わないと定めることが多いといえます(※通常損害とは、通常の事情と相当因果関係の範囲内にある損害をいいます。特別損害とは、予見可能性がある特別な事情と相当因果関係の範囲内にある損害をいいます)。416条が任意法規であるため、責任制限条項を特約として定めても有効となります。
 しかし、強行法規である製造物責任法3条の責任を免れる定めや、消費者契約法8条1項1号に違反して損害賠償責任を全面的に免れる定めをすれば(ユーザーが消費者である場合)、その契約条項が無効になります。

参考
辛島睦『ITPro 判例で理解するIT関連法律 第2回 損害賠償責任の範囲を限定する』(2007年6月)
(3) 賃貸借契約
 賃貸借契約では、民法改正で以下の部分について、強行法規との抵触の問題が生じます
 改正民法では、➀ 敷金の定義と賃貸人の敷金返還義務が明文化され(改正民法622条の2)、通常の使用・収益によって生じた損耗や経年劣化を除く生じた損耗について、原状回復義務を負うことも定められました(改正民法621条)。これらは、任意法規であり、賃貸借契約書に異なる特約を設けることで排除できます。すでに賃貸を行っている会社は、敷金を不要し、部屋の広さに応じた退去時のクリーニング費用を請求する特約を設け、重要事項説明を徹底する対応を取っています。
② 賃貸借契約における賃料債務の連帯保証を個人が引き受ける場合、保証の極度額(※保証で受ける担保的負担の最大限度額)を定めなければならなくなります(改正民法465条の2)。
③ 不可抗力で居室設備が使用できなくなった場合、賃借人が賃料減額請求をしなくても当然に賃料が減額されます(改正民法611条1項)。
 ②賃料債務の個人連帯保証での極度額の規定及び③当然の賃料減額の規定は、強行法規であり、これに反する契約条項を定めると強行法規違反となり、契約条項が無効となります。なお、現行民法では、②賃料債務の個人連帯保証での極度額の規定及び③当然の賃料減額の規定に反する定めをしても、抵触する規定が存在しないため、強行法規違反とはなりません。

企業法務ナビよりお知らせ
本記事は、約2年9ヶ月前に投稿された記事です。法律を内容とする記事の特性上、その改正や他の特別法の施行、経過措置期間の経過、関連判例の出現などによって内容が古くなり、現在は誤りとなる可能性がありますので、ご注意下さい。
関連業務タグ:
関連法律タグ:
 
[著者情報] mir21

詳細情報はありません。

日々の契約法務を自動化したい方はコチラ

このニュースに関連するセミナー

契約法務 民法・商法
《東京会場》少人数でも課題克服!総合的法務機能 アップ講座 第8回(全8回)民法改正対応
2020年01月29日(水)
15:00 ~ 18:00
22,000円(税込)※消費税10%
東京都港区
講師情報
滝 琢磨
TMI総合法律事務所 パートナー弁護士

2002年 中央大学法学部法律学科卒業
2006年 最高裁判所司法研修所入所
2007年 第二東京弁護士会登録 TMI総合法律事務所勤務
2010年 金融庁総務企画局市場課勤務 (インサイダー取引・金商業規制・課徴金事案等を担当)
2013年 TMI総合法律事務所復帰
2016年 パートナー就任

主催・協力
レクシスネクシス・ジャパン株式会社/ビジネスロー・ジャーナル
技術革新やグローバル化が進み、ビジネスを取り巻く環境や法規制が大きく変わってきています。
部員が1人ないし数人というような中小規模の法務部では、この流れを常にフォローアップするには人的に限界があるため、各法分野の専門家とのネットワークを作り、タイムリーに外部に依頼できる体制を構築することが不可欠です。
本講座は、そのような法務部の方を対象に、最新の法律実務を解説するとともに、どのように法務機能を充実していったらよいかを一緒に議論していく講座です。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)
契約法務 民法・商法
《東京会場》2020年の注目すべき法改正と法務トピック
2020年02月25日(火)
13:30 ~ 16:30
22,000円(税込)
東京都港区
講師情報
淵邊 善彦
ベンチャーラボ法律事務所 代表弁護士

1987年 東京大学法学部卒業
1989年 弁護士登録
1995年 ロンドン大学UCL(LL.M.)卒業
2000年よりTMI総合法律事務所にパートナーとして参画
2008年より中央大学ビジネススクール客員講師(13年より同客員教授)
2016年より2018年まで東京大学大学院法学政治学研究科教授
2019年ベンチャーラボ法律事務所開設

主にベンチャー・スタートアップ支援、M&A、国際取引、一般企業法務を取り扱う。

主著として、『業務委託契約書作成のポイント』(共著)、『契約書の見方・つくり方(第2版)』、『ビジネス法律力トレーニング』、『ビジネス常識としての法律(第2版)』(共著)、『シチュエーション別 提携契約の実務(第3版)』(共著)、『会社役員のための法務ハンドブック(第2版)』(共著)などがある。
2020年は改正民法、改正独禁法、働き方改革関連法など重要な法改正が施行され、個人情報保護法などの改正も予定されています。

本セミナーは、これらの法改正の概要とそれがビジネスにどのような影響を与えるかを具体的に解説します。

重要な法改正の動きを俯瞰的に把握するとともに、各法改正が実務に与えるインパクトを理解することにより、社内においてメリハリがついた対応策を検討したり、社内研修を行ったりするための参考にしていただきたいと思います。

また、今年特に話題になりそうな法務トピックを取り上げ、その最新の状況をご紹介し、自社の法務部門の今後を考えるきっかけとしてもご活用いただける内容になっています。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)
契約法務 民法・商法
《東京会場》AI技術を踏まえたAI・データ戦略と、AI・データ関連契約の実務
2020年02月18日(火)
13:30 ~ 16:30
22,000円(税込)
東京都港区
講師情報
濱野 敏彦
西村あさひ法律事務所 弁護士・弁理士

2002年 東京大学工学部卒業
同年弁理士試験合格
2004年 東京大学大学院新領域創成科学研究科修了
2007年 早稲田大学法科大学院法務研究科修了
2008年 弁護士登録
2011-2013年 新日鐵住金株式会社知的財産部知的財産法務室出向

理系の大学・大学院の3年間、ニューラルネットワーク(今のディープラーニング)の研究室に所属し、プログラミング等を行っていたため、AI技術に詳しい。
知的財産・IT関連訴訟、及び、知的財産全般、IT、個人情報、危機管理、コーポレートガバナンス等の分野の法的助言を専門とする。
近時、AI技術の利用が進んでおります。
そして、本年春からの5G(第五世代移動通信システム)のサービス開始により、高速・大量のデータ通信が可能となり、AI技術の利用が加速することが予想されます。

また、AI技術に利用できるデータや、AI技術等を用いた分析結果のデータの価値が高まっております。
そのため、AI技術の理解に基づくAI・データ戦略が、競争力の維持・向上、働き方改革が進む中での業務効率化のためには不可欠です。

そこで、本セミナーでは、はじめに、AI技術に知見を有する講師が、AI技術を整理した上で、各技術の強みと弱み等について、具体例を用いてわかりやすく解説いたします。
次に、データを知的財産として保護するために創設された限定提供データ(2019年7月1日施行)を踏まえたデータの保護・管理方法について解説いたします。

そして、AI技術を踏まえたAIビジネスの動向と、価値が高まっているデータ類型を踏まえたデータビジネスの動向について解説をいたします。
さらに、AI・データ関連契約のポイントと、各立場における契約交渉戦略について解説いたします。
最後に、AI・データビジネスにおける個人情報保護に関する留意点と実務上の工夫について解説いたします。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)
契約法務 民法・商法
《東京会場》第124回MSサロン「AI開発委託契約の留意点 ~委託者の視点から考える~」
2020年02月20日(木)
19:00 ~ 21:00
2,000円
東京都新宿区
講師情報
永島 太郎
内田・鮫島法律事務所 弁護士

2006年03月 北海道大学獣医学部卒業/獣医師国家試験合格
2006年04月 農林水産省 入省(2008年3月まで)~動物・畜産物の輸出入に係る許認可業務に従事
2008年04月 京都大学大学院法学研究科法曹養成専攻 入学(未修者枠)
2011年03月 京都大学大学院法学研究科法曹養成専攻 修了
2011年09月 司法試験合格/11月 司法研修所 入所
2012年12月 第一東京弁護士会登録(新65期)
2013年01月 大塚製薬株式会社 入社(2017年1月まで)~医薬品に係る国内外の契約業務、会社設立等の資本・事業提携業務等に従事
2017年02月 弁護士法人内田・鮫島法律事務所入所 この著者の記事一覧へ
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、「AI開発委託契約の留意点 ~委託者の視点から考える~」です。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)
契約法務 民法・商法
《名古屋会場》第126回MSサロン「施行直前、民法改正対応最終チェック」
2020年03月03日(火)
19:00 ~ 21:00
2,000円
名古屋市中区丸の内
講師情報
和田 圭介
略歴:
愛知県春日井市出身
愛知県立旭丘高校卒業
2004年 京都大学法学部卒業
2005年 弁護士登録(58期 第二東京弁護士会)
クリフォードチャンス法律事務所外国法共同事業入所
2008年 フランス系ラグジュアリーブランド日本支社(出向)
2010年 アメリカ、Duke University School of Law(法学部)LLM卒業
2010年 クリフォードチャンス香港オフィス(出向)
2011年 日系の大手財閥系総合商社のイギリス子会社の法務部(出向)
2013年 ニューヨーク州弁護士登録
2015年 IBS法律事務所開設(愛知県弁護士会に登録換え)
2017年 オリンピア法律事務所 パートナー
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、「施行直前、民法改正対応最終チェック」です。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)
民法・商法
《大阪会場》第125回MSサロン(企業法務研究会)「弁護士との付き合い方:顧問弁護士編」
2020年02月25日(火)
19:00 ~ 21:00
2,000円
大阪府大阪市北区
講師情報
溝上 絢子
大阪教育大学附属高等学校池田校舎卒業
大阪大学法学部卒業
大阪大学大学院法学研究科修士課程修了

2003(平成15)年04月
司法研修所入所(57期)
2004(平成16)年10月
大阪弁護士会に弁護士登録 当事務所入所
2008(平成20)年04月 - 2010(平成22)年9月
大阪大学高等司法研究科(ロースクール)非常勤講師
2011(平成23)年04月 - 2012(平成24)年03月
大阪弁護士会 常議員
2017(平成29)年07月 - 現在
吹田市立男女共同参画センター運営審議会委員
大阪弁護士会 高齢者・障害者総合支援センター運営委員会委員
大阪弁護士会 男女共同参画推進本部委員
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
セミナー部分では法務担当者のための意見交換会を行いたく考えています。
今回のテーマは「弁護士との付き合い方:顧問弁護士編」です。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)
※セミナー広告を掲載したい方は、コチラ