労働基準法改正法案の審議状況(16/2/22)

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はじめに

一定年収を超える高度な専門職に就く労働者に対し、残業等の割増賃金規定の適用を除外する、いわゆる「高度プロフェッショナル制度」の創設などで物議を呼んだ労働基準法改正案。あれからどうなった?と気に掛けておられる方も少なくないのではないでしょうか。今回は、2015年9月27日に閉会した通常国会に提出されていた「労働基準法等の一部を改正する法律案」の現状の審議状況をご紹介します。

※本記事は、労働基準法改正法案が成立したとの誤った事実を掲載した「来年に施行が迫る労働基準法改正のポイント」という削除記事の訂正記事となります。誤った情報配信によりご迷惑をお掛けし、誠に申し訳ございません。以後、同様の問題が生じないよう、記者の選定・ニュース公開前の弊社側での厳密なチェック体制の構築等、予防措置に努めさせていただきます。

労働基準法改正法案の概要

提出中の労働基準法改正案の概要は以下となります。
(1)中小企業における月60時間超の時間外労働への割増賃金率の適用猶予廃止
月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率は労働基準法37条1項但書により、50%以上と定められていますが、同法138条により、以下のいずれかの条件を満たす企業(中小企業)へは当面適用しないとされていました。今回の改正案ではこうした猶予措置を廃止するとしています。

・小売業、サービス業、卸売業以外を主たる事業としていて、資本金(出資総額)3億円以下
・小売業、サービス業、卸売業以外を主たる事業としていて、常時使用する労働者の数が300人以下
・小売業又はサービス業を主たる事業としていて、資本金(出資総額)が5000万円以下
・卸売業を主たる事業としていて、資本金(出資総額)が1億円以下
・小売業を主たる事業としていて、常時使用する労働者の数が50人以下
・卸売業又はサービス業を主たる事業としていて、常時使用する労働者の数が100人以下

(2)年次有給休暇の取得促進
会社側は、年10日以上の有給休暇が付与される労働者に対しては、そのうちの5日について、毎年、時季を指定して与えなければならないとする内容です。
(労働者の時季指定や計画的付与により取得された年次有給休暇の日数分については時季の指定は要しないとしています。)

(3)フレックスタイム制の見直し
フレックスタイム制の「清算期間」の上限を1ヶ月から3ヶ月に延長するとしています。また、1ヶ月当たりの労働時間が過大なものとならないよう、週平均50時間を超える労働時間については、割増賃金の支払い対象とするとしています。

(4)特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)の創設
以下を条件として、いわゆる高度プロフェッショナルに分類される一部労働者に対して、労働時間、休日、深夜の割増賃金等の規定を適用除外とするとしています。
・職務の範囲が明確で一定の年収要件(少なくとも1,000万円以上)を満たすこと
・健康確保措置等が講じられていること
・本人の同意があること

現在の審議状況

厚生労働省の担当者に取材しましたところ、労働基準法改正法案は、先の国会において、他の法案の審議が優先された結果、質疑すら行われないまま会期末となり、現在、「継続審議」扱いとなっているとのことです。ただし、2月22日現在、いまだ審議には入っていないとのことでした。

継続審議とは?

会期中に議決されなかった法案は、原則として「廃案」になります。これは、法案の議決等の国会の意思は、会期ごとに独立したものであるとする「会期不継続の原則」によるものです。しかし、国会法では「会期不継続の原則」の例外も認められており、各議院が、法案について「閉会中審査」の議決(本会議で過半数の合意が必要)をすれば、国会閉会中も法案審査ができ、次の国会に引き継ぐことができます。
※継続審議になった法案が、次の国会で成立するためには、改めて衆議院・参議院両方の議院の議決が必要になります。前の国会でどちらかの議院で可決されていた
としても、その議決は、会期不継続の原則により、引き継がれないことが理由です。

コメント

この労働基準法改正法案は、与党と全野党とが激しく対立する重量級の対決法案と言われています。法案を通す上でもかなりのエネルギーを要すると見られ、ある程度、他の対決法案に片が付いたところで審議入りすることが予想されます。
特に、残業代不払い制度とも揶揄される高度プロフェッショナル制度の創設に対しては、ブラック企業を助長するものだとの強い反発が起きていますが、それとは別に、「この法案が可決した場合に、所得格差がさらに拡大する」という、興味深い視点からの議論があります。高度プロフェッショナル制度の創設・成熟化により、全ての労働者が「時間を売る労働者」と「成果を売る労働者」に大きく二分されることになり、それにより、企業側は、責任とリスクの小さい前者の労働者には低い給与を、後者の労働者には高い給与を設定するようになるというものです。たしかに、企業側がそのような給与設定を行うようになった場合、成果を出し続ける労働者は高い給与をもらい、成果を出せない又は成果を求められたくない労働者は低い給与しかもらえなくなることになります。そういった意味では、今回の法案は、今後の日本人の働き方をも左右する重大な法案という言い方も出来るかもしれません。

正直、高度プロフェッショナル制度にはメリットもデメリットもあると感じていますが、いずれにせよ、その成否は、「成果の正しい定義化」にかかっていると考えられます。成果の定義があいまいなままで、この制度を運用してしまいますと、「成果をあげていない」との企業側の恣意的な判断で、業務の継続を命じられ、搾取的な長時間労働に繋がるおそれがあるからです。こと、法務担当者については、人事の方のお話を伺っても、成果の定義が最も難しい部類の職種と言われています。特に、法務担当者の行う各種の判断業務は、正解が見えにくい業務で、その時の判断の影響が、何年も経過してから顕在化することも珍しくありません。これでは、「成果をあげている法務担当者」と「成果をあげていない法務担当者」の区別は、困難と言わざるをえません。それだけに、法務担当者においては、企業側の恣意的な判断で「成果をあげていない」とみなされるリスクは小さくないと考えています。こういった観点から、今回の労働基準法改正法案を眺めてみるのも面白いかもしれません。

企業法務ナビよりお知らせ
本記事は、約3年12ヶ月前に投稿された記事です。法律を内容とする記事の特性上、その改正や他の特別法の施行、経過措置期間の経過、関連判例の出現などによって内容が古くなり、現在は誤りとなる可能性がありますので、ご注意下さい。
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[著者情報] Tomishima-Takeru

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2016年より2018年まで東京大学大学院法学政治学研究科教授
2019年ベンチャーラボ法律事務所開設

主にベンチャー・スタートアップ支援、M&A、国際取引、一般企業法務を取り扱う。

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