建設石綿被害に見る企業の責任

1 はじめに

横浜地裁は10月24日、原告らが建設現場でアスベスト(石綿)を吸い込み肺がんなどになったとして、国と建材メーカー2社に対し、計約3億円を原告39人に支払うよう命じました。そこで、今回は建材メーカーが負う企業の損害賠償責任について見ていきます。

2 事案の概要

建設現場でアスベストを吸い込んで肺がんや中皮腫などの健康被害を受けたのは対策の遅れが原因だったとして、神奈川県などの建設労働者やその遺族合わせて61人は、国と建材メーカー43社に対し約16億7千万円の損害賠償を求めました。横浜地方裁判所の裁判長は、10月24日の判決で、国際的研究機関の報告から国内での石綿の発がん性を認める医学的知見は1972年ごろに確立し、国も認識していたとして、国は遅くとも1976年までには防じんマスクなどの使用や作業現場への警告表示を義務付けるべきだったとしました。そのうえで、発生原因であるとほぼ特定できた建材メーカー2社も同時期までにアスベストの危険性を警告する義務があったのに怠ったと認定しました。そして、国と建材メーカー2社に対し、賠償を命じました。

3 損害賠償の要件

従業員がアスベストによる健康被害を受けた場合、従業員は雇用者に対し、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)をするか、雇用契約上の安全配慮義務違反により債務不履行に基づく損害賠償請求(民法415条)をすることになります。不法行為の場合は、権利または法律上保護される利益に侵害があること、加害行為者に故意・過失が認められること、損害の発生とその因果関係が認められることを要します。一方、安全配慮義務による場合は、債務不履行の事実があること、債務者に帰責事由が認められること、損害の発生とその因果関係が認められることを要します。但し、雇用契約における債務の内容は雇用契約に基づく労務の提供と報酬の支払いですから、アスベストによる健康被害を債務不履行の内容とするには、雇用契約の中に従業員の安全に配慮する義務があり、その義務に違反したことを主張しなければなりません。

4 コメント

本事案はアスベスト被害に関する第2陣訴訟であり、建材メーカーに損害賠償責任が認められた2例目の事例となります。従来、建材メーカーの責任に対する個別の因果関係の立証は困難とされてきました。建材メーカーは多数存在し、建設作業従事者も多数の建設現場で作業に従事するからです。第1陣訴訟は横浜地裁以外の5地裁で国に対する賠償が命じられましたが、建材メーカーにも責任が認められたのは京都地裁のみにとどまりました。しかし、本事案ではメーカーの責任が認められたほか、10月27日の東京高裁判決(第1陣訴訟において敗訴した横浜地裁の控訴審)においても建材メーカーに責任が認められました。立て続けに建材メーカーにも賠償が認められ、原告救済の流れが出来つつありますので、建材メーカーにも新たな対応が求められると考えられます。10月27日の東京高裁判決によると、建材メーカーには、1975年4月1日以降、石綿の危険性を建材に警告表示する義務及び当該建材を取扱う作業中に防じんマスクの使用を警告する義務があったと認定されています。アスベストによる被害は潜伏から発症までの期間が長いため、今以上にアスベストによる被害者が現れる可能性があります。新しく原告となる被害者が現れる場合に備え、企業としては1975年4月当時に上記の義務を果たしていたかどうか証拠の有無を確認する必要があるでしょう。もし証拠がない場合、新しく現れたアスベスト被害者に訴訟を提起された際、敗訴する危険がありますので、早い段階で和解の検討をする必要があるかもしれません。

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東北大学法学部卒業、東京大学法科大学院修了

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