民法改正 ~定型約款条項の新設について~

1.はじめに

 2017年5月に成立した改正民法では、新たに定型約款に関する規定が設けられました。約款を用いた契約は現行民法下でも広く行われており、特に古くからある鉄道や運送といった業界では、個別の業法による規制がなされていますので本改正によって新たに影響が生じることはなさそうです。
 一方で、現代ではインターネットを用いた新しいサービスも登場しており、そうした業界ではサービスの変化が速く激しい傾向にあります。したがって、今後このような業界では、約款を新規に作り、あるいは変更する機会が頻繁に生じるものと予想されます。
 そこで、 この記事では、法務担当者が約款を扱うに当たって、注意すべき点を見ていきたいと思います。

2.定型約款条項 ―新設の経緯と定型約款の定義―

 現在ではオンラインショッピングのように、特定の者が不特定多数の相手方に対して同一内容の契約を締結するような取引が多く存在します。このような取引においては「約款」が用いられてきましたが、現行民法には約款に関する規定が存在しないことから、「約款」中の条項に当事者が拘束される要件が不明確であるばかりでなく、契約を締結する者が約款の詳細について認識しないまま合意に至ることもあり、「約款」の効力が争われることも少なくありませんでした。
 このような状況を受けて、改正民法では約款を用いる取引の安定を図るために「定型約款」についての条文が新設されることとなりました。
改正民法は、「ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの」を「定型取引」と定義し、当該定型取引において「契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体」を「定型約款」と定義しています。
 たとえば、パソコンにソフトウェアをインストールするときに表示される使用許諾書などがこれに該当するでしょう。

3.改正民法での定型約款の運用

改正民法で新設される定型約款に関する規定の数は、実は3条に過ぎません。定型約款が当事者間の合意に組み入れられるための条件についての規定(改正民法548条の2)、定型約款の内容の開示義務に関する規定(同548条の3)、定型約款の変更要件(同548条の4)が、これに該当します。
 以下、個別に検討していきたいと思います。

(1).定型約款が当事者間の合意に組み入れられるための条件
 定型約款については、①当該約款を契約の内容とする旨の合意をした場合、または、②定型約款を準備した当事者が、あらかじめその約款を契約の内容とする旨の表示をしていたときに当事者を拘束するものとされています(改正民法548条の2)。
 通常の取引の場合、当事者が契約内容に拘束されるには各条項に当事者が合意することが必要です。
これに対して、「定型取引」で利用される「定型約款」とは「準備された条項の総体」を指しますから上記の①,②いずれかを満たせば、個別の条項の内容について合意をしていなかったとしても合意したものとみなされる点に特徴があります。
 具体例としては、パソコンのソフトウェアインストール時に「利用規約」がポップアップ表示される場合が②に、加えて、それに「同意する」ボタンをクリックしなければインストールできないようになっている場合などが①に該当すると考えられます。

(2).定型約款の内容の開示義務
 定型取引を行う場合、定型取引の合意前、または合意後相当の期間内に相手方から請求があった場合、遅滞なく相当な方法で定型約款の内容を示さなければなりません(改正民法548条の3 1項本文)。改正民法要綱案(p.48)では、約款の表示の方法として「定型約款を記載した書面を交付」する方法と「(定型約款)を記録した電磁的記録を提供」する方法を予定していました。これを参考すると、インターネットサービスの場合などでは、利用希望者が申込み画面上で利用規約を読めるようにしておくか、少なくとも利用規約ページへの見易いリンクを貼ることが必要といえそうです。
 また、定型取引合意の前に、定型約款の表示請求を拒んだ場合には、定型約款の個別の条項に合意したものとはみなされないことになります(同2項本文)。

(3).定型約款の変更
 定型約款の変更が①相手方の一般の利益に適合するとき、または②契約した目的に反せず、合理的な内容であるときは、変更につき相手方と合意をしなくても、定型約款を変更すること自体によって変更後の定型約款について合意したものとみなされます(改正民法548条の4 第1項)。特に②の場合、効力発生時期、変更する旨と変更後の内容等を周知徹底することが効力発生要件となっています(同条3項)。インターネットサービス事業の場合であれば、サービスの変更通知に併せて、変更後のサービスを利用した場合には変更後の利用規約にも同意したものとみなす旨を画面上に表示させる方法が考えられます。
 定型約款は上記のとおり定型取引に適用される規約ですが、定型取引自体が不特定多数を相手とする画一的な取引であり、特定当事者間での契約締結後にサービスの内容が変更されることもあります。そのような場合に、他人数の契約当事者と個別に変更の合意をすることは極めて煩 雑であることから、このような条項が新設されました。

4.まとめ

 冒頭に記したとおり、約款を用いた契約方法は、実務上、様々な業界で従来から広く行われてきました。今回の改正民法もそうした実務の慣行を踏襲したものとなっていますので、実務上、大きな変化を引き起こす可能性は低そうです。
 一方で、務担当者にとって特に注意が必要なのが、自社が従来から約款として利用してきたものが、必ずしも「定型約款」に該当しないことです。例えば、約款が特定の企業間の取引に用いられてきた場合、当該約款は「不特定多数の者を相手方として行う取引」に用いられるものとはいえませんから、改正民法における「定型約款」に該当しないことは明らかです。
 改正民法は2020年までに施行される予定です。自社が「約款」として利用してきたものが「定型約款」に該当しない場合には上記改正民法の548条の2~4の適用を受けることができません。契約当事者間での紛争を未然に防ぐためにも、法務担当者は、自社の「約款」が定型約款の要件である①不特定多数の者を対象としているか、②取引内容が画一的であるか、といった点をいま一度確認する必要があるといえそうです。

5.関連サイト

民法(債権関係)の改正に関する要綱案

オークションの利用規約 「知らなかった」は通らない

関連業務タグ:
関連法律タグ:
 
[著者情報] yuichi

詳細情報はありません。

このニュースに関連するセミナー

法務ニュース 契約法務 民法・商法
第89回MSサロン(名古屋会場)
2017年11月14日(火)
19:00 ~ 21:00
2,000円
名古屋市中区丸の内
講師情報
和田圭介
愛知県春日井市出身
京都大学法学部・Duke大学LLM卒業。
2005年弁護士登録。
2013年ニューヨーク州弁護士登録。
世界最大規模の国際法律事務所であるクリフォードチャンス法律事務所を経て、
2015年、IBS法律事務所を開設。
国内外の企業法務案件を主に扱っており、国際取引・英文契約を得意としている。
大手総合商社・外資系企業の法務部への出向経験があるため、企業法務の現場の問題意識にも通じている。
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、 「モノづくり企業のためのIoT法務入門」です。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)
法務ニュース 契約法務 民法・商法
第91回MSサロン(東京会場)
2017年11月22日(水)
19:00 ~ 21:00
2,000円
東京都新宿区
講師情報
近内京太
2006年の弁護士登録以来、丸の内総合法律事務所にて、企業の法律顧問業務のほか、M&A、株主総会、危機管理、海外取引、企業関係訴訟、その他の企業法務全般を取り扱う。
2003年京都大学法学部、2016年ワシントン大学ロースクール(LLM)卒。2017年ワシントン州司法試験合格。2011年1月~2012年6月預金保険機構、2016年8月~2017年7月米国シアトルのShatz Law Group勤務。
趣味は、ロングトレイルを中心にランニング全般。
[近時の著作]
「自動運転自動車による交通事故の法的責任~米国における議論を踏まえた日本法の枠組みとその評価[上]・[下]」(国際商事法務44巻10号1449頁・11号1609頁) (2016)
American Bar Association, Section of International Law, Regional and Comparative Law: Asia Pacific, 51 The Year In Review 579 (2017)
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、 「民法(債権法)改正の概要と約款取引について企業のとるべき対応」です。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)
法務ニュース 契約法務 民法・商法
第90回MSサロン(大阪会場)
2017年11月15日(水)
19:00 ~ 21:00
2,000円
大阪府大阪市北区
講師情報
井関勝守
CPJAPAN綜合特許事務所 所長弁理士

知的財産に関する実務経験約18年。
2001年弁理士登録。

国内企業のみならず、多くの海外企業の案件に関わり、権利化業務に留まらず、知財紛争に関する支援や、産学連携を含む技術移転の支援、知財に関する交渉、契約、知財情報の分析、知財を活用した事業戦略・海外展開に向けた相談業務など多面的な業務を経験する。
また、発明推進協会の模倣被害アドバイザー、中小機構の経営支援アドバイザー、中小企業等外国出願支援事業の審査員(大阪府)、大阪府「ものづくりイノベーションプロジェクト」評価協力員等の公的な業務にも選任され、これまで関わってきた。
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、 「知的財産を含む契約における特有の留意事項~自社事業を円滑に進めるために~」です。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)
契約法務 民法・商法
《緊急セミナー》改正債権法に基づく契約書作成実務
2017年10月13日(金)
14:30 ~ 17:30
15,000円(資料代・消費税を含む)
東京都品川区北品川
講師情報
滝川 宜信
(行政書士滝川ビジネス契約コンサルティング代表〔特定行政書士〕・明治学院大学非常勤講師)
◆中央大学大学院法学研究科博士後期課程中退
◆㈱デンソー法務部課長~部長および名古屋大学大学院法学研究科客員教授、明治学院大学法科大学院教授(会社法・商法担当)、株式会社トーカン顧問を歴任。
・この間、中部経済連合会法規委員会専門委員長、経団連経済法規委員会企画部会委員・消費者部会委員、名古屋工業大学・名城大学法学部・中京大学法学部・南山大学法学部・法科大学院の非常勤講師を歴任。
◆日本私法学会会員、金融法学会会員
◆主な著書
『取引基本契約書の作成と審査の実務(第5版)』(単著・㈱民事法研究会)、『実践企業法務入門(第5版)』(単著・㈱民事法研究会)、『業務委託(アウトソーシング)契約書の作成と審査の実務』(単著・㈱民事法研究会)、『M&A・アライアンス契約書の作成と審査の実務』(単著・㈱民事法研究会)
『内部統制対応版企業コンプライアンス態勢のすべて〔新訂版〕』(共著・きんざい)、『リーディング会社法〔第2版〕』(単著・㈱民事法研究会)、『企業法務戦略』(共著・㈱中央経済社)、『社外取締役のすべて』(共著・東洋経済新聞社)など
改正民法施行は、2020年1月または4月と見込まれていますが、今から契約書の準備をすることが必要です。
本セミナーでは、『取引基本契約書の作成と審査の実務』など契約書の審査と実務シリーズ(民事法研究会・刊)の著者が、企業法務の担当者を対象に、直接、わかり易く丁寧に解説します。
滝川宜信・著『業務委託(アウトソーシング)契約書の作成と審査の実務』(民事法研究会・刊)に掲載の請負契約書ひな型・委任契約書ひな型に基づき具体的に条文の変更例を示し解説します。
※変更例および主旨は、他の契約にも応用が可能です。
※本セミナーは、本年7月19日に、名古屋・愛知県弁護士会ホールで行った内容と基本的に同じです。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)
契約法務 民法・商法
《緊急セミナー:名古開催》改正債権法に基づく契約書作成実務
2017年11月24日(金)
14:30 ~ 17:30
15,000円(資料代・消費税を含む)
名古屋市中区栄
講師情報
滝川 宜信
(行政書士滝川ビジネス契約コンサルティング代表〔特定行政書士〕・明治学院大学非常勤講師)
◆中央大学大学院法学研究科博士後期課程中退
◆㈱デンソー法務部課長~部長および名古屋大学大学院法学研究科客員教授、明治学院大学法科大学院教授(会社法・商法担当)、株式会社トーカン顧問を歴任。
・この間、中部経済連合会法規委員会専門委員長、経団連経済法規委員会企画部会委員・消費者部会委員、名古屋工業大学・名城大学法学部・中京大学法学部・南山大学法学部・法科大学院の非常勤講師を歴任。
◆日本私法学会会員、金融法学会会員
◆主な著書
『取引基本契約書の作成と審査の実務(第5版)』(単著・㈱民事法研究会)、『実践企業法務入門(第5版)』(単著・㈱民事法研究会)、『業務委託(アウトソーシング)契約書の作成と審査の実務』(単著・㈱民事法研究会)、『M&A・アライアンス契約書の作成と審査の実務』(単著・㈱民事法研究会)
『内部統制対応版企業コンプライアンス態勢のすべて〔新訂版〕』(共著・きんざい)、『リーディング会社法〔第2版〕』(単著・㈱民事法研究会)、『企業法務戦略』(共著・㈱中央経済社)、『社外取締役のすべて』(共著・東洋経済新聞社)など
改正民法施行は、2020年1月または4月と見込まれていますが、今から契約書の準備をすることが必要です。
本セミナーでは、『取引基本契約書の作成と審査の実務』など契約書の審査と実務シリーズ(民事法研究会・刊)の著者が、企業法務の担当者を対象に、直接、わかり易く丁寧に解説します。
滝川宜信・著『業務委託(アウトソーシング)契約書の作成と審査の実務』(民事法研究会・刊)に掲載の請負契約書ひな型・委任契約書ひな型に基づき具体的に条文の変更例を示し解説します。
東京開催(10月)の満員の盛況を受け、このたび名古屋開催を決定しました。
※変更例および主旨は、他の契約にも応用が可能です。
※本セミナーは、本年7月19日に、名古屋・愛知県弁護士会ホールで行った内容をバージョンアップし、3時間で解説するものです。
申込・詳細はコチラ

あわせて抑えておきたい関連記事

出光創業家が相互出資案に反発、「新株発行差止」について... はじめに 出光興産と昭和シェル石油が合併に先立ち株式の相互保有による資本提携を検討していることについて、出光興産の創業家が7日、反対の意向を示しました。相互保有のために第三者割当増資を行う場合は発行差止の措置を講じるとしています。今回は新株発行差止について見ていきます。 事案の概要 現在合...
厚生労働省の薬事・食品衛生審議会分科会が、生の牛レバーの提供を法規制すべきと結論... 事案の概要 厚生労働省の薬事・食品衛生審議会分科会は、生の牛レバー(肝臓)の提供を法規制すべきとの結論に達し、最終決定した。分科会の決定に基づき、厚生労働省は、7月1日以降、食中毒のおそれがある生の牛レバーの提供を食品衛生法に基づき禁止することとなる。飲食店は、牛レバーを提供する場合、内部まで十分...
消費生活用製品の重大製品事故に係る公表について... 事案の概要  消費者庁は、11月6日付で、消安法第35条1項に基づき報告のあった重大製品事故についての公表を行った。消安法は、消費生活用製品の事故による消費者の生命身体に対する危害の発生の防止を図り、消費者の利益確保を目的として昭和48年に制定された。今回行われた「公表」は、平成18年改正によるも...